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世界に「経済連携」の網を張る

2014年版通商白書(概要)

外資誘致競争に危機感 新興国向け個別戦略 特性に応じ重点対応

経済産業省はこのほど、2014年版の通商白書を閣議に報告した。白書では、「世界に『経済連携』の網を張る」「新興国への戦略的な取り組み」「対内直接投資の促進」を国際展開戦略の3本柱に据え、グローバルニッチトップ企業などの輸出促進や、海外でビジネスを展開する国民・企業が世界経済の成長の果実を享受するチャンスを拡大することなどの通商政策の方針を提示している。特集では、白書の概要を紹介する。

第一部 世界経済の動向

◆世界経済危機後の世界経済の動向

・リーマンショック後5年余りが経過し、米国を始めとする先進国では成長軌道に戻りつつあるが、過去の回復局面と比較しても盤石ではない。また、リーマンショック後の世界経済を牽引してきた新興国経済のぜい弱性も一部顕在化している。

◆成長のための改革の必要性

2013年5月以降、米国の量的金融緩和の縮小観測から、新興国からの資金流出や通貨下落など一部動揺が見られた。過去の通貨危機などを経て新興国の耐性は全般的に強化されてきているが、外的ショックに対しては、通貨防衛などの金融面の対応のみならず、成長力を強化するための改革が必要であるとの認識のもと、インドやインドネシアなど一部の国では改革の動きが見られた。

◆わが国の貿易・投資動向

・2013年は過去最大の貿易赤字を計上。鉱物性燃料における赤字幅が大幅に増加する一方、一般機械、電気機器などで黒字幅が縮小している。輸出数量の増加が弱めの動きとなっているが、2013年第3四半期以降、緩やかに増加してきている。

・輸出数量の増加が弱めの動きとなっている背景として、新興国の需要が減速したことや、円安後も企業による違いはあるものの企業が価格をあまり引き下げなかったことなどが挙げられる。

・為替レートと輸出物価の動向を見ると、2000年代を通して、為替が円安・円高のいずれの方向に推移しても、全製品ベースでの輸出物価は為替動向に連動した変化をあまり見せていない。

・2012年11月以降為替が円安方向に推移する中、①円建てでの輸出価格は引き下げていないが、現地通貨では安く評価されること、②契約通貨建てでの価格を引き下げたことにより、輸出数量が増加した企業は一定程度ある。

・一方で、価格改定を行っていない企業の多くは、現時点では今後価格を引き下げる予定はないとしている。

・価格改定に慎重な理由としては、現時点では「価格を引き下げても売上増加が見込めない」、「価格改定は製品のモデルチェンジなどの際に行っているが当面はその予定がない」などが多くなっており、こうした企業行動も背景となって、輸出数量の増加が弱めの動きとなっていると考えられる。

・サービス収支は、旅行と知的財産権など使用料に関する収支の改善により、2000年の約▲5兆円から、2013年には約▲3・5兆円へと約1・5兆円収支が改善した。また、第一次所得収支は対外投資残高の増加に伴い、直接投資収益、証券投資収益とも年々増加し、2013年は約16・47兆円の黒字と、世界経済危機前の2007年(約16・48兆円)に次ぐ過去2番目の黒字。しかし、貿易赤字が拡大したため、2013年の経常収支は3兆2343億円の黒字となり、3年連続で黒字幅が減少。

・経常収支黒字を維持するためには、観光客誘致や知的財産権など使用料受取の拡大などにより、サービス収支の赤字幅をさらに縮小し、対外直投の収益率を高めることなどにより所得収支の黒字幅をさらに拡大するとともに、輸出競争力の強化や資源の安定的かつ低廉な調達などにより貿易収支の赤字幅を縮小していくことが重要。

第二部 各国の経済ファンダメンタルズの変化と成長戦略・構造改革の取り組み

◆欧州における労働市場改革

・欧州ではようやく景気回復の兆しが見えてきたが、失業率は依然として高水準にあり、構造的問題となっている。こうした中、労働市場改革が重要な課題となっている。

・南欧諸国においてなされた労働市場の柔軟化(賃金調整手続きの緩和など)が注目されているが、全体としては、格差の是正(正規/非正規労働者)および積極的労働市場政策(失業者に対する就業支援など)についても重視する方向性が見られる。改革におけるポリシーミックスの重要性を示唆。

◆米国における製造業回帰・国内回帰の動き、シェール革命の影響

・米国では製造業重視の政策が打ち出されており、企業も海外における人件費の上昇や技術漏えいなどのリスクを踏まえて、「内需向け」の生産の一部を国内回帰させる動きがある。しかし、全体として見れば、海外子会社の付加価値、雇用、設備投資などは増加しており、米国企業の海外展開は拡大傾向にある。

◆新たな成長モデルの模索(中国)

・人的・物的資本の量的拡大を通じて30年以上にわたり年平均10%近い経済成長を遂げ、世界経済におけるプレゼンスも高まっているが、足下の成長率は7%台に低下。特に人口動態の変化に見られるように、これまでの成長要素に変化が生じている。

・投資に過度に依存する成長モデルからの転換、過剰設備問題や国有企業問題などへの対応が重要な課題。

◆新たな成長モデルの模索(ASEAN)

・東アジアワイドでサプライチェーンを構築し、低い労働コストを比較優位として輸出主導型で成長してきたASEANであるが、国内需要の拡大と生産性の向上の好循環による持続可能な成長へと転換するため、さらなる自由化を進めるとともに、イノベーションの創出、インフラ整備、成長を支える経済制度整備などが重要な課題。

◆新興国の経済ファンダメンタルズ分析

・新興国の経済ファンダメンタルズをリスク耐性と成長基盤の観点から各種指標を用いて数値化すると、金融面でのぜい弱性が指摘されている国々は、成長基盤も相対的に弱い傾向が見られるが、2005年から2012年の全体的な動きとしては、概ね各国の差が小さくなっている。

◆過去の経済危機後の構造変化をもたらした政策

・通貨危機など大きなショックを契機として、金融面における耐性強化のための構造改革に加え、対外経済自由化のための通商政策を積極的に進めることが、より長期の成長基盤強化に奏功した。

◆メキシコ、タイ、インドの自動車政策

・メキシコは、対外経済関係を強化し、輸出を軸に成長。巨大市場である米国との近接性から米国向けの組立・輸出拠点としての性格が強い。タイは、対外経済関係を強化しながら、内外需双方を視野に入れ、部品産業も含めた産業集積の形成を図っている。インドは、自国完成車メーカーの育成を含め国内市場の発展とともに成長。

◆わが国企業にとっての東アジア~成長モデル転換への貢献可能性

・アジアは日本の海外現地法人が最も多く立地する重要な地域。

・日系現地法人の日本出資者向け支払(配当およびロイヤリティ)は、製造業についてはアジアが最大のシェアとなっている

・東アジア内の貿易投資関係はさらに深化。わが国企業も東アジアワイドで開発・生産する動きが強まっている。

・東アジアにおける生産は、現地調達率が上がるものの、日本からの輸出額は減少していない。

・業種別に見ると、電気機械は現地国内、日本、アジアが一定割合を占めている一方、輸送機械は現地国内での調達比率が大きく上昇している。

・わが国企業の現地販売比率は増加し、アジアにおける研究開発も活発に行われるなど、現地における事業活動はさらに深化。

・わが国のビジネスモデルやノウハウに加えて、人材育成支援などの取り組みを通じて、引き続きアジアの長期的発展に貢献できる。

第三部 事業環境整備

①3つの柱からなる『国際展開戦略』

◆わが国の貿易・投資動向を踏まえた国際展開戦略の位置づけ

・わが国の貿易赤字が3年連続で赤字を計上し、経常収支の黒字幅が縮小する中、わが国産業の競争力強化に向けて、国内外のビジネス環境整備がますます重要に。

・競争力強化策として、民間設備投資やベンチャー投資の活性化などの産業の新陳代謝の促進、中小企業・小規模事業者の事業の持続的発展、イノベーションの推進などの施策などを重点施策としているところ。

・わが国企業がグローバル経済圏において競争を勝ち抜くためには、規模の拡大・多様性の強化と事業スピードを両立する新たな「価値創造のパターン」に対応したビジネスモデルの再構築が必要である。

・わが国産業や地域経済を支える中堅・中小企業についても、限定的な専門分野に経営資源を集中することで世界市場で高いシェアを持ち、高い収益力を確保する「グローバルニッチトップ企業」など、グローバルな環境変化に対応しようとする企業を後押していくことが重要。

・こうしたグローバルニッチトップ企業などの輸出促進および海外でビジネスを展開する国民・企業が世界経済の成長の果実を享受するチャンスを拡大するため、3つの柱からなる国際展開戦略を推進。

◆3つの柱からなる『国際展開戦略』(①参照)

◆経済連携:わが国のEPA取り組み状況(②参照)

◆経済連携:各国のFTAカバー率(③参照)

◆WTOでの取り組み・世界の通商システムの基盤であるWTOは、経済連携協定とともに貿易自由化の車の両輪。

・ドーハ・ラウンド交渉では、昨年12月の第9回WTO閣僚会議で、貿易円滑化、農業の一部、開発からなるバリ・パッケージに合意。今後の交渉の進め方を議論中。

・有志国による交渉(プルリ交渉)は貿易自由化を進めるための有効なアプローチ。ITA(情報技術協定)拡大、新サービス貿易協定(TiSA)、環境物品といった取り組みを積極的に推進。

・新興国を中心とした保護主義措置に対しては、WTO紛争解決手続を積極的に活用。

◆新興国市場に対する戦略的取り組み(④参照)

・新興国市場を3類型に分けて戦略的に市場開拓に取り組む。・A)日本企業の海外展開支援、B)インフラ・システム輸出、C)相手国からの資源供給確保について、類型・各国の特性に応じて、戦略的かつ重点的に進める。

◆対内直接投資の促進・対内直接投資残高の対GDP比を見ると、英国54・3%、米国16・9%、韓国12・4%となっている一方、わが国は3・8%であり、わが国の対内直接投資は、国際的に極めて低いレベルにとどまる。

・世界各国の外国企業誘致競争が激化する中、諸外国と比べ後れをとっている対内直接投資を活性化させることは、新たな刺激によるオープンイノベーションの推進につながり、また、地域経済活性化の観点からも重要。

・「対日直接投資推進会議」を司令塔として、外国企業からの意見を踏まえた規制・制度改革、ジェトロ、在外公館や先進的な地方自治体とも連携した誘致活動を展開。1つでも多くの成功事例を生み出す。