高度な電気工事技術を持ち「まちの電気屋さん」として地域密着経営を続け、21年の全国中小企業クラウド実践大賞で日本デジタルトランスフォーメーション推進協会賞を受賞した相互電業。多岐にわたる業務の属人化という弊害を解消したのは、経営者の理解と一社員の熱意と話題のプラットフォームだった。
アプリが良くても活用しない社内環境
社長の板倉利幸さんが家業の相互電業に入社した2009年当時、社内には社員同士の情報共有を図るグループウエア「ペンギンオフィス」が導入されていた。パソコンを使って掲示板に書き込みをしたり、社員がスケジュールを共有したりする機能があったが、全く活用されてなかった。そんな状況を目の当たりにして、「いきなり情報共有に進むのは難しい」と判断し10年、ブラウザ上で紙の帳票イメージを再現する「X-point(エクスポイント)」を入れて、請求書・精算書をデジタル化した。
しばらくしてCRMプラットフォーム「Salesforce(セールスフォース)」に巡り合った。
「これこそが私が入れたかったCRMそのものでした。しかし、幹部会議にかけてしっかりと手続きを踏んで導入したのですが、ペンギンオフィス同様にほとんど使われることはありませんでした」
そんな時、社員の今野愛菜さんが「kintone(キントーン)」の導入を提案してきた。キントーンはアプリ開発の知識がなくても、案件管理や進捗管理、日報管理などの業務アプリがつくれるクラウド型の業務アプリ開発プラットフォームだ。
18年秋、板倉さんはキントーンを導入する上で目標を明確にした。それは、社員の幸せのために働き方を改善すること、業務の脱属人化を図ること、顧客対応力を向上させることだった。同時に板倉さんは経営者の仕事として、社風の改善にも力を入れた。自由にものが言える環境をつくらないと、どんなに優れたシステムを導入しても使われないと考えたからだ。
キントーンのアプリづくりは今野さんが中心となって進めた。大変だったのは業務フローを統一すること。業務の流れは、顧客のアクションが入り口となって、問い合わせ・受け付け→工事着手・完成→請求書作成・送付が出口となるが、「電話のほかにも問い合わせの入り口がたくさんあるのです」と板倉さん。入札案件であれば会社側からアクションを起こすことが入り口になるし、ゼネコンからの見積もり依頼が入り口になることもある。「入り口が違うと、その先の業務の流れもそれぞれに異なり、しかも社員それぞれが独自のやり方で処理しているので、社員が30人いれば30通りの業務フローになっていました」
それが業務の属人化だ。そこで案件アプリをつくり、どの入り口で来た案件も全て必ず登録するというルールを設けた。このルールが徹底されたことで、案件の進ちょく状況が誰でも把握でき、問い合わせにも答えられるようになった。
導入に当たっては、現場視点を大切にした。今野さんはシステム移行プロジェクトと題した雑談の時間をつくり、社員たちの本音を聞いた。反対の声もあったが、その理由を丁寧に聞き取って、導入の目的や効果を説明し理解してもらった。
同社にはブレーカーが落ちた、電気がつかないといった緊急の電話が入ることが多い。しかし、昼間は工事担当者が出払っているので、電話を受けた事務担当者はなすすべがなかった。しかし今は、顧客のSOSを法人向けサービスのLINEWORKSへ一斉に流すことで、手が空いている工事担当者が急行する仕組みができた。一斉連絡はキントーンでもできるが、LINEWORKSの方が使いやすいため、社員の使いやすさを優先した。
案件の担当者、進ちょく状況、担当案件数のような現時点の状態が見える化されたことで、手の空いた時にほかの人の仕事を支援するチームワークが生まれた。
サブスクの活用で導入費用を抑える
IT導入の費用対効果はどうなのか。費用はキントーン以外にも複数のサブスクアプリを使っており、その料金は月額8万円ほど。社員数40人なので、1人当たりのコストは年間2万円ほどで済む。効果は社員全体の業務時間を年間1000時間も削減、システムの集約などにより経費は年間400万円ほど削減された。
板倉さんがアプリの仕様を決める上で気を付けていることは、〝さりげなさ〟。「経営者としては、日々の売り上げの数字や原価の数字が知りたいのですが、それは現場には関心のないこと。入力の手間が増えるような仕様にすると使われなくなるので、現場が自分たちに必要な数字を入力すると、それを上手に吸い上げて、経営に必要な数字に落とし込む工夫をしています」
今後は、24年4月から建設業界に適用される労働時間の上限規制などを見据えて、「在宅ワークのチームをつくる」という。工事部では既に九州、京都、札幌の外部人材と契約しており、リモートで図面の作成や積算を依頼している。それと同様にキントーンの開発チームをつくるつもりだ。
板倉さんはITを活用して法規制に対応し、より社員が幸せに働ける職場の実現を目指している。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 情報共有アプリ、CRMなどを導入していたが経営側主導だったためほとんど使われていなかった。
導入したITシステム
・ キントーンを使い、社員目線で自社の業務にあった148個(3年間)のアプリを作成。
・ 社員がプライベートで使い慣れたLINEWORKSで業務連絡
IT化後の状況
・ 年間サブスク料金約100万円の投資で約400万円のコスト削減と年間1000時間の労働時間削減。
会社データ
社名:相互電業株式会社(そうごでんぎょう)
所在地:北海道帯広市東1条南5丁目2番地 相互ビル
電話:0155-22-1188
代表者:板倉利幸 代表取締役社長
従業員:40人
【帯広商工会議所】
※月刊石垣2022年9月号に掲載された記事です。
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