地域企業の経営環境は厳しさを増すばかりだ。そこで、人口減や後継者不足といった共通課題に地域やほかの企業と一緒に取り組むことで問題を解決し、新たなビジネスと地域振興の可能性を見いだした企業の今に迫る。
絹織物の産地、群馬から世界へ 強くて滑らかな繭玉型の紙容器
群馬県前橋市にある「くらまえ」は、紙容器の製造販売を行っている。同社の事業は、金型の設計製造や金属加工などを行う蔵前産業の新たな試みとしてスタート。群馬県の伝統工芸である絹織物からヒントを得た繭玉(まゆがた)型で、従来にない新しいパッケージとして、2017年度に「GOOD DESIGN AWARD 2017」でグッドデザイン賞を受賞した。全国的に有名な食品メーカーでの採用や、海外の展示会に登場するなど、注目を集めている。
金型の設計製造企業が紙容器製造の新事業開始
群馬県は、世界遺産の「富岡製糸場と絹産業遺産群」で知られるように、日本を代表する絹織物の産地である。絹織物のもととなる繭の独特の形を繭玉型というが、前橋市にあるくらまえは、その繭玉型のオリジナル紙容器を製造販売している。同社代表の大原康弘さんは長年、金型製造や金属の加工技術を持つ蔵前産業に勤務し、金型の設計などを行ってきたが、2013年から蔵前産業の新事業として紙容器の開発に携わった。同社の紙容器は、板紙をプレス金型により加熱成形してつくるもので、プラスチックのような強度と陶器のような滑らかさを持つ。 「開発のきっかけは、紙容器の金型をつくってほしいという依頼があり、そのために紙や成形機の情報を集めたことです。ある紙を成形機にかけたら、強くて滑らかな容器ができたんです」と開発当時を振り返る大原さん。群馬県の絹織物からヒントを得て、オリジナルの繭玉容器をつくろうと試作したが、曲線に包まれたシワのない紙容器を成形するのは難しく、試行錯誤を繰り返して完成させた。独自の紙容器製法については、数年かけて特許を取得し、「紙うつわ®」「紙うつわ くらまえ®」として商標登録を行い、ブランド化を図っている。17年度には、繭玉型の紙容器が「GOOD DESIGN AWARD 2017」でグッドデザイン賞を受賞した。
有名食品メーカーが採用 群馬の織物活用で新製品も
大原さんは、東京にある包装資材関連の協力会社と共に全国を回ったり、展示会に出展したりするなど、自ら営業や広報活動も行って販路を拡大していった。また、自社のウェブサイトに紙容器のページをつくり、製品の写真や特徴を掲載し続けたところ、問い合わせフォームから注文が入るようになった。中には、福岡県や北海道にある有名食品メーカーからの注文もあり、全国的には少しずつ知名度が上がっていった。この頃に大原さんは、県内の地場産業である繊維産業の発展のために研究開発や技術指導などを行う群馬県繊維工業試験場を訪れたが、そこで偶然の出会いがあった。 「繭玉容器を持って行ったら、そこにいたデザイナーの女性が『これに布を貼ったら、きれいだよね』と言ったんです。試しにやってみようと思いました」という大原さん。早速、繭玉容器に地元の織物を貼ってみると、イラストや文字を印刷したときとは違う質感と高級感が感じられた。群馬県内の織物を活用したこの容器は、中小企業基盤整備機構の地域産業資源活用事業として認定されたほか、地元銀行のビジネスコンテストで優秀賞を受賞するなど、新たな価値を生み出した。
独立し異業種交流深め地元とのコラボや海外進出
22年、大原さんは自身の子どもたちが独り立ちしたのを機に、くらまえを創業した。本社を自宅に置くこととし、その改装費用が必要だったが、前橋商工会議所を通じて前橋市の補助金を活用することができた。また独立後は、群馬県が「イノベーション創出拠点を設ける」という目的で県庁内に設置した官民共創スペース「NETSUGEN」(ネツゲン)の会員になり、異業種との交流を深めている。この交流のおかげで、地元で有名なカフェとのコラボが実現し、ご当地キャラクター「ぐんまちゃん」が描かれた繭玉容器にカフェのチョコレートを入れた商品の販売を、同スペース内で開始した。
さらに繭玉容器を活用して、前橋市内にあるデザイン専門学校の学生を対象にしたデザインコンテストが実施された。コンテストには、この容器の形を利用したさまざまなデザインが寄せられ、繭玉容器は単なる製品ではなく、地域の夢や希望に満ちあふれた個性的な作品となった。 「この形はグラフィックを変えるだけで、ダルマにも招き猫にも見えますし、食品やアクセサリーのパッケージ、メガネケースになったりもします」と語る大原さん。このように多様な用途に対応できることこそ、この容器の強みといえるだろう。
今後について大原さんは「製造拠点を全国につくっていきたい」と言い、ものづくり企業から申し出があれば、自社の技術を伝えたいとしている。また、JETROを通じて、同社の容器にダルマが描かれた製品が米国で採用、英国で展示されるなど、海外展開も進む。大原さんは「前橋から群馬、群馬から全国、そして世界へ」と、自社の技術を世界に発信し、新たな市場を開拓したいと意欲を示している。
会社データ
社 名 : 株式会社くらまえ
所在地 : 群馬県前橋市六供町3-58-15
電 話 : 090-3317-5200
代表者 : 大原康弘 代表取締役
従業員 : 2人
【前橋商工会議所】
※月刊石垣2025年4月号に掲載された記事です。