政府は10月29日、「第32回未来投資会議」を首相官邸で開催した。会議では、中小企業の取引構造と生産性向上策の進め方や、地域のモビリティーといったインフラ維持に向けた競争政策の見直しなどについて議論した。政府は、製造業の取引構造などについて説明。会議に出席した日本商工会議所の三村明夫会頭は、「下請法でカバーされる事業者は全体の10%程度しかなく、下請法の適用強化で是正できる範囲は、ごく限られる。大企業と中小企業の共存共栄関係の構築を目的とした政策検討に当たっては、業種ごとの取引実態をさらに切り込んで分析する必要がある」とコメントした。
政府からの説明では、日本の製造業の3分の2は上場企業を頂点とする取引構造に属しているが、同じ業種内でも企業系列によって下請企業の収益性に相当のバラツキが見られた。また、価格転嫁についても、大企業・中小企業ともに仕入れ価格の上昇分を販売価格に十分転嫁できておらず、かつ、転嫁不足の度合いは中小企業の方が大きいことが示された。
三村会頭は、「大企業から中小企業に負担がしわ寄せされている可能性を示唆している。われわれの見立てでは、1990年代後半以降、デフレ圧力の継続に加え、ITバブル崩壊、リーマンショック、超円高などの不況を経るごとに、このような中小企業へのしわ寄せが徐々に蓄積されていき、アベノミクスにより経済環境が好転した後も、大企業と中小企業の条件差はそのまま温存されてしまっている」との考えを示した。
地域のモビリティーなどのインフラ維持については、「地域公共交通の要となっている乗り合いバスの維持は、地域住民の暮らしにとって喫緊の課題である。その存続のためには、会社間の事業再編や運賃プール制などの方策を駆使した、地域全体での事業の立て直しが不可欠。それらを可能にし、住民の利便性を真に高めるための競争政策の戦略的な見直しを予定通りに実現してほしい」と要望した。また、群馬県前橋市で、市、バス事業者、商工会議所が連携し乗り合いバス事業の立て直しに取り組んでいる先進事例に対する支援も求めた。
安倍晋三首相は、「本日いただいた意見を踏まえ、中小企業の労働生産性向上のため、同業種の企業などの統合、連携による規模拡大、事業再構築や設備投資の促進策を検討する」と述べ、関係閣僚に政策の具体化を指示した。また、地域のモビリティーなどのインフラ維持については、「乗り合いバスや地方銀行について、認可を受けて行う合併などには、独占禁止法を適用しない旨を規定し、認可条件として、事業の改善に応じた地域でのサービスの維持や利用者の利益の増進などを規定したい」との意向を示した。
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