世界の電子商取引(EC)は年率10%前後で成長を続けているが、この数年はサイトやスマホアプリに写真と商品説明を載せて売る旧来型のECは停滞し、代わって動画でライバー(配信者)が商品の良さをアピールし、気に入れば即購入できるライブコマースが急成長している。日本でもTikTok Shopは集客力が高く、セラー(販売業者)登録に関心を持つ中小企業も多い。
ただ、ライブコマースで先行した中国は、インフルエンサーが高い報酬を得て品質に問題がある商品を販売するケースなどが増え、社会問題化したためかつての勢いはない。対照的に東南アジアや台湾などでは、ライブコマースが成長ステージに突入している。ECそのものが電子決済や宅配便のようなインフラを前提にしているが、東南アジアでそうしたインフラの安定性、確実性が高まってきたことが背景にある。
東南アジアなどでリアル店舗に商品を並べる伝統的商流の構築が難しい日本の中小企業にとって、ECは参入障壁が低く、アジア進出のチャンスにはなるが、巨大ECプラットフォームの中で顧客の目に留まるのは極めて難しい。ライブコマースはその突破口になる。もちろん著名なインフルエンサーを使えば高コストとなるが、知名度より特定分野の高度な商品知識、評価の客観性を売り物にする「ミドル・マイクロ」と称されるインフルエンサーが増え、適切なコストでライブコマースに打って出る道も開かれつつある。
さらに注目すべきは、生成AIの活用だ。多くの生成AIが新たな独自キャラクターや、それを使った動画の作成を得意としている。低コストで自社独自のデジタルキャラクターを生み出し、ライブコマース向けのコンテンツを次々につくり出すことができる。社内にAI活用に長けた社員がいなければ、外部委託も可能で、さらにAIであればアジア各国の多様な言語対応も容易だ。
ライブコマースとAIの組み合わせほど日本の中小企業のグローバル展開、アジアでの市場開拓を後押しする強力な武器はほかにないだろう。問題はAIライブコマースに反応し、消費意欲をそそられる層に訴求できる商品を持っているかだ。高齢者向け商品をAIライブコマースで売ろうとしても「魚のいない海に網を打つ」ことになってしまう。ここで思い切ってアジアの若年層向け商品を新たに企画・開発することに取り組んでみてはどうか。ライブコマースは事業改革のきっかけにもなるだろう。

