Unlocking!~障がい者の可能性を信じて~
ダンウェイ株式会社 代表取締役 高橋 陽子
障がいのある息子と共に
息子が3歳のころ、通っていた保育園で進級の合否を判断するテストがありました。名前を尋ねるなどの簡単なテストでしたが、息子は障がいがあり、まだ話すことができなかったためか、日程すら知らされずテストを受けられませんでした。この体験から私は、「このまま息子と私たち家族の人生は、周りに勝手に決められ、社会から排除されていくのか」と大きな危機感を持ちました。同時に、「もしかしたら息子はテストの当日からしゃべり出していたかもしれないのに。障がいがあってもチャンスは平等であるべきだ」との思いが湧き上がってきたのです。
また、息子が小学1年生のときのことです。それまで危ないからと手をつないで通学していましたが、「ずっと手をつないでいたらいつまでたっても一人で学校へ行けないよ」という息子の友だちの一言に手を離してみると、2週間ほどで息子は手を離しても通学できるようになりました。このとき、一体私たち大人は何を見ていたのかと思いました。障がいがあったら、何もできないわけではないのです。
障がい者が社会から排除されたり、親なき後の安心した生活ができなくなることは大きな課題です。私はこの課題解決のため、障がい者の自立や地域共生を目指してできることをしようと決心し、ダンウェイを設立しました。
ICT治具と教育プログラムの誕生
日本では現在、18~64歳の労働力人口に当たる障がい者で企業に雇用されている割合はたった2割程度です。障がい者の自立が難しい根底には、「障がい者=仕事ができない」という固定観念があります。そこで私たちは障がい者の手で品質の良い成果物をつくり、そのモデルを世の中に発信して固定観念を払拭(ふっしょく)しようと考えました。
会社設立当初は苦労もありました。地域共生実現のため事務所を商店街の中に構えようとしましたが、断られることも多くなかなか事業をスタートできませんでした。また、リーマンショック後で地域の中小企業は経営が厳しく、障がい者の雇用をお願いしても門前払いでした。そんな中、ある製造業の社長が手を差し伸べてくれたのですが、訪ねてみると、想像以上に厳しい現実を知りました。そのとき、障がい者の雇用だけを考えるのではなく、私たちが関わることで産業の発展や多様な人の雇用創出につなげたいと思ったのです。
これが、知的障がい者でも使えるホームページ制作ソフト「ICT治具」(インテルとの協働開発)の誕生につながりました。情報発信の苦手な中小企業のホームページを障がい者が作成し、製品を世界に紹介する仕組みをつくったのです。さらに障がい者の教育プログラム「だんだんシリーズ(ICT治具・テキスト・シラバスのセット)」も開発し、能力の可視化にも取り組みました。今後はこれを全国に浸透させ、世界へ発信することで、障がいの有無にかかわらず誰もが認め合い尊重し合う共生社会の実現を目指したいと思います。
会社データ
社名:ダンウェイ株式会社
所在地:神奈川県川崎市中原区新城1-12-15
電話:044-740-8837
創業:平成23年
事業概要:障がい者支援事業、教育事業、ICT事業、クリエイティブ事業
※月刊石垣2016年12月号に掲載された記事です。
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