職場活性化を後押し 幅広い業種で活用
企業や組織内での労働者の主体的な能力開発を促進し、労働生産性の向上を図るための有効な手段として「社内検定認定制度」が注目されている。本制度は、企業などが自主的に行っている検定制度(社内検定)のうち、一定基準を満たし奨励すべきと認められたものを厚生労働大臣が認定する制度。平成29年6月末現在で製造業、建設業、サービス業など幅広い業種にわたる49の事業者・団体などが128の職種について認定を取得している。特集では、認定事業者・団体での活用事例などを交えて本制度の概要を紹介する。
「社内検定認定制度」は、労働者が職業上必要とする知識や技能をどの程度身に付けているかを検定によって適正に評価することにより、労働者の職業能力の開発を促し、労働生産性を高め、それによって労働者の経済的・社会的地位の向上を図ることを目的としている。
労働者の職業能力を検定する仕組みとしては、職業能力開発促進法に基づく国家検定である「技能検定」があるが、技能検定が企業横断的・業界標準的な普遍性のある能力を対象としているのに対し、社内検定は先端的な技能や企業特有の技能などを対象にすることができ、また、内容も自社の人材育成や能力開発上の必要性に合わせて柔軟に構築できる点を特徴としている。
「人材への投資による生産性の向上」は、先般閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017」においても主要課題の一つとされている。
社内検定は労働者の主体的な能力開発を促し、労働生産性を高めていくために有効なものであるとして、厚生労働省は積極的な推進拡大を図っている。その一環として昨年度、社内検定を人材育成や職場活性化に役立てているの認定取得企業や団体への取材により『認定社内検定活用事例集~持続的な人材育成の仕組みづくりに向けて~』を作成している。(写真)
以下では、本事例集で取り上げた製造系企業、サービス系企業、中小企業や業界団体などにおける活用事例を「社内検定構築の9つの効果・メリット」という視点から紹介するとともに、社内検定を構築し認定を取得することの意義について説明する。
1.技能の見える化・標準化
社内検定は、それを構築する過程で従業員が仕事をする上で必要な知識・技能が整理され、明確になるという点が評価されている。企業によってはこれを基にして技能の標準化を進め、品質管理や業務プロセスの向上に役立てている。
例えば、鮮魚士、寿司マスターなど6職種の認定を取得しているイオン株式会社では、社内検定の構築で、今まで各従業員が自己流でやっていた技能を標準化することができ、検定を通じてどの店舗に行っても同じ技能をベースとした同じ出来栄えの商品を作れるようになったという。こうして社内の業務基準が明確になり作業効率の向上につなげられたことを、社内検定構築の一番のメリットとして挙げている。
2.従業員のモチベーションアップ
社内検定をキャリア形成や能力開発の指針としたり、処遇決定の基準とすることで、従業員に対し、社内で必要となる知識・技能の習得を促すことができるという企業も多い。また、社内検定での合格が自信となり、従業員が生き生きと仕事に取り組めるようになったとの声もある。
農業機械の販売・技術サービス3職種について認定を取得しているヤンマー株式会社では、社内検定の取得を昇格要件の一つとしたり、資格手当として給与に反映させるなど人事制度と連動させ、従業員のモチベーション向上を図っている。また、合格者には名刺への表示、認定証の授与、取得級のワッペンを付けたメカニックスーツの進呈、社員大会での表彰などを実施し、それらは従業員の励みになっている。
3.知識や技能・技術の向上
社内検定を通じて従業員の能力開発が進むことで、実際に企業全体としても技能のレベルが向上しているという企業もある。
株式会社デンソーは、昭和60年に厚生労働省の第1号認定を受けて以来、現在までに38職種の社内検定を構築している(うち厚生労働大臣認定は15職種)。同社によると検定試験は能力開発のさまざまな方法の中でも、自己啓発意欲が高まり技能が身に付いたかどうかの確認ができるため、人材育成としての効果が高いという。そこで同社では、自社の製造部門で必要とされるほぼ全ての技能について国の技能検定と社内検定のいずれかでカバーできる仕組みを構築した。これにより、全ての従業員が社内検定を取得することが社風として定着し、検定受検を通じた技能レベルの向上を実現している。
また、株式会社コーセーは、化粧品の対面販売を行う美容スタッフが顧客にメイク方法を教える技能を評価する「コーセーメイクレッスン検定」を実施し、認定を受けている。社内検定の実施により受検者のみならず審査員側にもさまざまな気付きがあり、全社的なメイクレッスンの意識や技能向上につながっているという。同社では審査員となる美容教育職向けにも検定審査のための研修を実施しており、技能向上に向けた全社的意識の盛り上げにつながっている。
4.顧客の評価
従業員の職業能力レベルの高さや自社に特有の技能・知識があることを顧客にアピールし、ブランド化による企業価値や顧客満足度の向上、ひいては業績アップにつなげている企業も見られる。
花王カスタマーマーケティング株式会社は、化粧品の接客販売を行うビューティ・アドバイザー(美容部員)にとって必要な商品知識や化粧技術、接客応対技能を測る社内検定を構築、認定を取得している。合格者は襟元にバッジをつけるが、これが顧客の目に留まることが多く、技術のある従業員が接していることが伝わり、安心感・信頼感の向上に役立っているという。
5.関連事業者相互間での技能水準の統一・向上
社内検定認定制度は、原則として事業者が自社の従業員を対象に行う検定を認定するものであるが、協力会社など継続的に共同で事業を実施している他企業の従業員を受検者とすることも認められているほか、業界団体などが会員企業の従業員を集めて実施する検定も認定を受けることができる。
このような事業者団体の実施する社内検定では、参加する事業者の間で技能水準を統一的に評価する仕組みを導入することで、製品やサービスの品質に対する顧客の信頼感を高め、関連事業者全体として技能向上を進めていく気運を高めることができる。
トイレのメンテナンスを専門とする企業のFC(フランチャイズ)ネットワークであるアメニティネットワーク技能検定協会は、トイレルーム内の不具合や問題点の発生原因を見極める「トイレ診断」の技能について社内検定を構築し、認定を取得している。社内検定により各フランチャイズ加盟店の技能を明確化し、レベルの統一を進めることができた。また、社内検定の合格者がプロフェッショナルとしてトイレのメンテナンスに当たっているということがクライアントから高く評価され、クライアントの広報誌に掲載、アピールされたこともある。
また、タオルの産地として知られる愛媛県今治市のタオルメーカーを組合員とする今治タオル工業組合は、「今治タオル」ブランドを支える高い技能を持った人材の育成を目指して製造工程の一部である「製織」の技能について社内検定を構築し、認定を取得している。業界団体として検定事業に取り組む中、タオル製造に必要な知識と技能についてメーカー間の共通認識が生まれ、異なるメーカーの技能者同士が横のつながりを深めるようになったことで、産地全体としての技術力向上や、地域活性化に向けた連帯感の醸成につなげることに成功している。
6.若手従業員の定着・新入社員の採用
社内検定を通じて従業員の目指すべき人材像を明らかにすることで、従業員の定着を高めることができるという評価もされている。また、企業が人材育成に注力していることや、企業内での経験や実績・技能や知識の蓄積に基づく評価を行っていることをアピールし、人材確保や定着率向上につなげることもできている。
建設現場での足場(ビケ足場)の施工職種について認定を取得しているビケ足場仮設事業協同組合では、社内検定を通じて従業員が目指すべき方向性や将来イメージを持つことができるようになり、定着率の向上につながったと評価している。また、同業界では高校生を主な採用対象としているが、認定社内検定という人材育成システムを業界として有していることが教師や保護者の信頼感を高めているのに加え、先輩から後輩へと良い評判が伝わっていることで、深刻な人手不足が続く建設業界において若手人材を確保するのに極めて大きな効果を上げることができているという。
7.社内の技能評価への権威付け
国による認定を受けることにより、社内での技能評価に権威と客観性を持たせることができるという点も認定取得のメリットとして挙げられている。
単独の中小企業として初めて社内検定の認定を受けた株式会社互省製作所では、社内検定制度を国から認められていることは会社と従業員にとっての誇りであると考えている。同社では、社内検定は従業員の技能を客観的に測るための基盤であり、公平・公正な評価につながるものとして人材育成施策において効果的に活用している。
8.業界内での地位向上・差異化
国の認定を受けた社内検定を実施していることが企業の社会的評価や信頼感につながり、業界内での地位向上に役立っているという声もある。
鍵・錠取扱業の業界団体である日本ロックセキュリティ協同組合は鍵施工職種において社内検定の認定を取得した。鍵や錠の取り扱いは個人のプライバシーに関わる極めて重要な業務であるにもかかわらず、業種登録も必要なく簡単に新規参入することができ、また独自の資格が乱立していて消費者がサービスの品質を評価しづらいという問題があった。そのような状況の中、同組合では社内検定制度に厚生労働大臣の認定を受けることによって他の資格との違いを打ち出すことができ、組合員事業者のサービスに対する消費者からの信頼感向上に役立っている。
9.社内検定認定制度ロゴマークの活用
厚生労働省は平成28年度に社内検定認定制度のロゴマークを制定した。認定を受けた企業・団体は会社案内や合格者の名刺などにこのロゴマークを表示し、認定社内検定を推進する人材育成に積極的な企業であることをアピールしたり、従業員の技能の高さを示すために役立てることができる。
以上、社内検定を構築し、認定を取得することによる九つの効果・メリットを紹介した。ぜひ多くの企業・団体に認定制度を有効に活用していただき、従業員の職業能力の開発・向上や生き生きとした職場の実現、ひいては生産性の向上につなげていただきたい。
認定の取得に向けては、まず厚生労働省人材開発統括官能力評価担当参事官室への事前相談を行い、それから厚生労働省の「社内検定認定要領」に沿って準備を進めていくことになる。厚生労働省では、社内検定構築に取り組む企業や団体などに対するさまざまな支援を行っており、その受け付け窓口である三菱UFJリサーチ&コンサルティングが社内検定の構築や認定取得に関する質問、相談に応じているので、お気軽に問い合わせをいただきたい。また、同社は今年9月に東京・名古屋・大阪・福岡の4会場において、認定社内検定の活用についてのセミナーを開催する。社内検定認定制度に関心をお持ちいただいた方々は、参加を検討いただきたい。(概要は上表参照)
最新号を紙面で読める!