ウサギのような長い耳にギザギザの歯が並ぶ大きな口、バランスの悪い縦長の大きな目|。中国発のトイ・キャラクター「LABUBU(ラブブ)」が世界的な大ヒットとなっている。「ハローキティ」や「ちいかわ」など日本のキャラクターに肩を並べる勢いだ。一過性のブームにとどまる可能性はあるが、これまで安易な模倣を続けるだけだった中国が個性的なキャラクターを創造し始めたとすれば、大きな転換が起きつつあるとみるべきだ。
ラブブがブレークする前の今春、中国のアニメ映画『哪吒之魔童閙海(邦題:ナタ 魔童の大暴れ)』(ナタ2)が中国で空前のヒットとなり、日本含め世界で公開された。中国国内での興行収入は3100億円を突破、海外でも150億円を稼ぎ、アニメ映画では世界歴代トップ、映画全体でも5位の興行成績を上げた。日本の歴代トップである『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年公開)が407億円だったことを考えれば、ナタ2は収入の90%以上が中国国内とはいえ驚きだ。
ラブブとナタに共通するのは世界に通じる普遍性だろう。ナタは中国明代の伝奇小説『封神演義』を原作としているが、観客が熱狂したのは視覚効果(VFX)を活用し、3Dアニメとしては世界トップレベルの映像となっているからだ。
ラブブは北欧の妖精にヒントを得ているが、かわいらしさと不細工さを兼ね備え、アジア的な空気感を持っている。15年ごろに誕生し、19年には商品化されていたが、K‒POPの人気女性グループのメンバーが持ち歩き、SNSで紹介したことがきっかけでブームが起きた。キャラクター本体の色や洋服にバリエーションが多く、専用の透明ケースでカバンなどにぶら下げて歩く人が多い。ラブブの爆発的ヒットで発売元の泡泡瑪特国際集団(ポップマート・インターナショナル・グループ)は時価総額6兆円を超えた。
サブカルチャーの存在感の薄かった中国でラブブやナタが生まれたことを「中国がコンテンツやキャラクタービジネスでも競争力を持ち始めた」と解釈すれば分かりやすいが、現実はもう少し複雑だろう。英国は1960~70年代にビートルズ、パンクロック、ミニスカートなど世界のサブカルチャーの発信基地となったが、それは「英国病」と呼ばれた経済衰退期の出来事だった。日本もアニメ、ゲーム、漫画などが世界に広がったのはバブル経済崩壊後だった。ラブブも中国経済のピークアウトとは切り離せない。
