昨今、ちまたではAIの守備領域が広がりつつありますが、AIが取って代わることができない仕事は、と聞かれた時、私はすかさずハイヤーと答えるでしょう。
船井総研にいた頃のことです。代表取締役になった私に、会社がハイヤーを手配してくれました。最初に乗った時、私はかねて疑問に思っていたことを運転手さんに尋ねました。「ハイヤーとタクシーは何が違うんですか?」。すると運転手さんが、きっぱりと答えました。「タクシーはお客さまの体を運び、ハイヤーはお客さまの心を運ぶ、そう思って仕事をしています」。私は驚きました。
タクシーに乗ることのストレスは、列に並ぶなど待ち時間の無駄、運転手さんの当たり外れによる精神的負担、行き先への順路説明や間違いなく着けるかどうかの気苦労などなど。ハイヤーのメリットはスムーズな運転、乗降時の快適な対応、臭いが全くない澄んだ空気、運転手さんに一方的に話しかけられることがない、守られているという安心感、といったイメージでした。
まさか運転手さんがこれほど高い意識を持っているとは、思ってもいませんでした。その後しばらくの間、運転手さんを何気なく観察するようになりました。私が利用していたのは、大手タクシー会社のハイヤーでしたが、いつも同じ方が来るというわけではなく5、6人の運転手さんが持ち回りで担当しており、皆さん礼儀正しく、感じの良い方ばかりでした。
人見知りの私は表面的には不愛想なので、車中では書類を開いたり、気詰まりな時には目をつむって休息したりしたものです。そんな日々が流れ、私が運転手さんに慣れてくるにつれ、世間話をするようになり、人となりを知るようになりました。
