2016年5月26日に債権関係に関する改正民法が国会で成立した。債権分野の規定の抜本的な見直しが行われ、2020年をめどに施行される見込みだ。法制審議会での改正内容検討時には、東京商工会議所経済法規委員会から、大島博委員長(株式会社千疋屋総本店社長)が参加し、中小企業の立場から、改正の方向性について意見を述べた。
今回の改正では、経済や社会情勢の変化に対応した規定の新設や、これまで判例や法解釈によって定着してきたルールが明文化された。改正の対象は約200項目に及び、企業によっては、契約書の内容、業務マニュアル、書類の保存期間などの見直しが必要となる。
■消滅時効の統一
売掛金などを請求できる期間(消滅時効)は、現在は原則10年だが、飲食代は1年、弁護士の報酬は2年、病院の治療費は3年などの例外があった(短期消滅時効)。これを統一し、原則、債権者が「権利行使できると知った時から5年」もしくは「権利行使できる時から10年」のいずれか早い方となる。
■変動制による法定利率
当事者間で特に利息について取り決めをしていない場合に使われる法定利率は、現在、年5%の固定制と定められているが、低金利が続く現実との乖離(かいり)が生じていた。そこで、改正民法施行時に、年3%に引き下げ、その後は3年ごとに市中金利に合わせて、1%刻みで見直される。
■定型約款規定を新設
定型約款とは、企業が不特定多数の企業または消費者と同じ内容の取引をする場合に示す契約条件のこと。インターネット通信販売や、保険契約、電気・ガスの契約、運送業の「運送約款」、クリーニング店の「利用約款」、スポーツクラブの「会員規約」など、さまざまな場面で使用されている。しかし、これまで民法には約款に関する規定が無かったため、新設することになった。
定型約款を使用するためには、①定型約款を使うことをあらかじめ説明するか、②定型約款を使うことに合意することが必要となる。また、相手方の利益を一方的に害するものは無効となり、消費者保護にも配慮した形となっている。
■個人保証に歯止め
中小企業・小規模事業者などの場合、その経営者は、自社が金融機関から融資を受ける際に個人保証を求められるケースがある。保証人が事情をよく知らずに想定外の債務を負ってしまい、自己破産などに追い込まれる事態を防ぐため、事業用の融資について、経営者ら以外の第三者が個人で保証人になる場合、公証役場に行き、公正証書の作成が必要となる。
■敷金返還ルール明記
敷金の定義や、敷金の原則返還が明記されたほか、原状回復費用について経年劣化(通常の使用によって生じた損傷や、年月の経過により自然に痛む経年変化)については借り手に修繕する義務が無いことなどが明記された。判例などの積み重ねにより実務上のルールが形成されていたが、民法に明記することで、退去時に絶えない敷金や原状回復のトラブルを防ぐ。 その他、譲渡禁止特約が付いている債権譲渡に関する規定の新設や、合意による時効完成猶予制度の新設など、ビジネスに関係する多くの項目で変更があった。
日本商工会議所では、各企業が法改正の要点を理解し、必要な対応・準備を行うことで、不安なく円滑に改正法に対応できるよう、周知活動を行っている。5月から速報版チラシを配布しているほか、秋ごろをめどにパンフレットの発行を予定している。
(日本商工会議所産業政策第一部)
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