2021年12月16日 日本・東京商工会議所
日本・東京商工会議所は昨年12月16日、「雇用・労働政策に関する要望」と「多様な人材の活躍に関する要望」を取りまとめ、公表した。日商の塚本隆史労働委員長らは同24日、厚生労働省に佐藤英道副大臣を訪ね、要望書を手交。要望の実現を働き掛けた。雇用・労働政策に関する要望では、「成長分野への円滑な労働移動」「リスキリング・学び直しによる能力開発」などの重要性を強調。多様な人材の活躍に関する要望では、「女性」「外国人」「高齢者」「障害者」などの雇用拡大に向けた具体的な支援策の強化・拡充などを求めている。
1 雇用の安定と人手不足・成長分野への円滑な労働移動
(1)【重点】雇用調整助成金の特例措置の延長
○経済・雇用に関する各種指標がコロナ禍以前の状況に戻るまで、雇用調整助成金の特例措置、とりわけ「業況特例」の助成内容の延長
(2)【重点】一般会計資金投入による雇用保険財政の安定化
○雇用保険の国庫負担を本則(失業等給付は25%、育児休業給付は12・5%)に戻すとともに、一般会計資金の投入による雇用保険財政の早期安定化
○コロナ禍が収束し経済が回復するまでの間、雇用保険料率を引き上げず、また、将来にわたりできる限り引き上げを回避すること
○激甚災害の指定を受けた災害や大規模な感染症などの際など、保険料財源では対応が困難な有事の場合における国(一般会計)の責任の範囲に関する検討
(3)【重点】人手不足業種、成長産業への労働移動の促進
○ハローワークにおける訓練から就職に至るまで一貫した個別・伴走型支援の強化(業界団体との連携による訓練コースの設定やトライアル雇用を通じた企業の現場での訓練機会の提供)
○ハローワークに配置された就職支援ナビゲーターによる業種を超えた再就職に係る個別支援の強化
○労働移動支援助成金・トライアル雇用助成金の幅広い周知と利用促進
(4)雇用シェア・在籍型出向の促進
○産業雇用安定センターによる企業マッチングや出向のノウハウに係る相談支援の強化・拡充
○47都道府県ごとに設置された地方協議会の好事例の横展開
(5)解雇無効時の金銭救済制度の早期具現化
2 新たな成長を支える能力開発と生産性向上
(1)【重点】リスキリング・学び直しの促進
○一般教育訓練給付について、オンラインや休日・夜間の講座の充実や、制度自体のさらなる周知による利用の促進
○専門実践教育訓練給付について、「子育て女性のリカレント課程等、大学等の職業実践力育成プログラム」など学び直しに資する対象講座の拡充
○人材開発支援助成金の幅広い周知による利用の促進
(2)【重点】中小企業のデジタル活用、生産性向上に資する人材育成
○独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の生産性向上人材育成支援センターが実施している「生産性向上訓練」の予算、支援体制の強化・拡充
○全国の同センターに配置される「DX人材育成推進員」の幅広い周知による相談窓口の利用促進、中小企業に対するきめ細やかな相談支援の実施
○専門実践教育訓練給付について、「AI・IoTなどの第四次産業革命スキル習得講座(85講座)」など中小企業のデジタル活用に資する対象講座の拡充と、企業での実習を組み合わせた訓練の実施
3 成長と分配の好循環の実現
(1)【重点】企業による自発的な賃上げの促進
○デジタル活用などの設備投資や働き方改革の支援、パートナーシップ構築宣言による取引適正化の推進など、生産性向上に資する支援策の実施による、中小企業が自発的に賃上げできる環境の整備
○中小企業に対する所得拡大税制の深堀り
○看護師、介護士、保育士などの給与引き上げに向けた公的価格の在り方の見直しと安定的な財源の確保の具体的検討
(2)【重点】中小企業の経営実態を踏まえた納得感のある最低賃金の決定
○明確な根拠の下で納得感のある最低賃金の決定
○最低賃金の審議における政府方針の位置付けの整理
○最低賃金に関する政府方針の決定に際し、労使双方の代表が意見を述べる機会の設定
○最低賃金の目安に関するランク制の堅持
4 柔軟で多様な働き方の促進
(1)ハイブリッド型を含め、テレワークの普及・定着に向けた支援の強化・拡充
○働き方改革の進展による労働生産性の向上や人材の採用力・定着率の向上、経費の削減など、テレワークの具体的な経営への効果に関する好事例の収集、幅広い周知
○人材確保等支援助成金(テレワークコース)の拡充やテレワーク相談センターなど相談機能の強化
○「地方創生テレワーク」の官民を挙げた推進
(2)副業・兼業の推進
○「副業・兼業の促進に関するガイドライン」による「簡便な労働時間管理の方法」と活用事例の幅広い周知
○大企業のシニア人材などによる副業・兼業と中小企業をマッチングするスキームの創設
○「選択的週休3日制度」に関する好事例の収集と幅広い周知
5 働き方改革の推進
(1)中小企業における時間外労働の上限規制などへの対応支援
○働き方改革推進支援センターによる相談体制や働き方改革推進支援助成金など、中小企業に対する支援策の強化・拡充
○傷病や産前産後など休業から年度途中に復帰した労働者に対する年5日の年次有給休暇の取得義務の緩和
(2)中小企業による同一労働同一賃金への対応支援
○働き方改革推進支援センターによる相談体制やキャリアアップ助成金など、中小企業に対する支援策の強化・拡充
○最高裁などの判例の分かりやすい周知
(3)企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大
○「企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大」の早期実現
(4)高度プロフェッショナル制度の導入実態把握・分析
○高度プロフェッショナル制度について、導入が少数にとどまる要因を調査・分析し、必要があれば導入要件や手続きを見直すこと
6 健康経営の推進とハラスメント防止
(1)健康経営のさらなる普及・促進と専門人材の活用
○中小企業の健康経営の取り組みを支援する専門人材(健康経営エキスパートアドバイザー)の派遣費用の助成措置
○地方公共団体、保険者、医師会、地域経済団体、民間事業者などが連携して健康経営を推進する仕組み(日本健康会議の地方版)づくりへの支援
○次期健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)において、健康経営アドバイザーを推進者などとして位置付け、その活用を明記すること
(2)ハラスメント防止の徹底に向けた支援策の強化・拡充
○パワハラ防止法の幅広い周知
○コンサルティング派遣や相談対応、セミナーによる情報提供、調停制度や判例の周知など、中小企業に対する支援策の強化・拡充
7 中小企業の人材確保
(1)ハローワークにおける支援体制の強化
○ハローワークの要員体制強化とIT活用の推進
○担当者制による求職者へのきめ細やかな職業相談・職業紹介や、求職者と求人企業とのマッチング力の強化、これまでハローワークを利用していない企業に対する求人開拓
○ハローワークインターネットサービスの求職者と求人企業双方への周知、利用促進
(2)中小企業の魅力発信に関する支援策の創設
○中小企業の魅力発信に資する具体的な支援策の実施
(3)中小企業におけるインターンシップ活用促進と採用選考ルールの周知
○就業体験を目的とするインターンシップの普及促進と、中小企業に対する専門家による助言・指導、大学との交流機会の提供、実施費用の補助など、支援策の実施
○採用選考ルールの官民を挙げた幅広い周知
(4)労働者派遣制度に係る規制の見直し
○派遣労働者個人単位の派遣期間制限の緩和・撤廃を含めた見直しと、派遣労働者のキャリアアップ促進策の検討
○離職後1年以内の勤務先への派遣規制の見直し
○日雇い派遣に係る年収要件の引き下げ
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