日本商工会議所はこのほど、各地商工会議所が取り組むキャリア教育活動の見える化と、好事例の全国への横展開を目的に、事例集「広がる!深まる!商工会議所のキャリア教育」を取りまとめ、公表した。事例集では、彦根商工会議所のプログラミング教育や小樽商工会議所の「知産志食しりべし」など14の好事例を詳しく紹介。また、全国515商工会議所を対象に実施した「2021年度教育支援・協力活動に関するアンケート調査」結果などを基に、各地のキャリア教育活動を分析している。
日商の調査では、回答があった334商工会議所のうち252商工会議所がキャリア教育活動を実施。キャリア教育活動の実施率は75・4%に達した。
現在実施しているキャリア教育事業のうち、82・7%が4年以上継続している事業。10年以上継続している事業も41・3%に上り、商工会議所が長期間にわたり、地域に根差したキャリア教育を支えていることが明らかとなった。
商工会議所が実施しているキャリア教育活動の38・6%が「インターンシップ・職場体験」。また、その対象の約5割は「高校生」となっている。求人サイトと連携し、AI適正診断によって高校生のインターンシップ先をマッチングする事業(札幌、浜松、福岡ほか)など、生徒の視点を広げる新たな工夫を凝らした取り組みも始まっている。
コロナ禍で、キャリア教育活動のオンライン化が進展。「インターンシップ、職場体験のオンライン開催」(鶴岡、東京、静岡ほか)、「オンライン企業説明会」(高崎、横浜ほか)、企業紹介サイトの開設(秋田、春日井)などの取り組みが行われた。
デジタル社会やグリーン社会などの実現に向けて、新たな価値を創造し、科学技術立国を担う人材を育成するため、「プログラミング教育」(松本、彦根、和歌山)、「ドローン研修」(富岡)、「STEAM教育」(関青年部)、「起業家教育」(盛岡、七尾、鯖江ほか)のほか、「ものづくり教室」(甲府ほか)、「体験型オープンファクトリー」(尼崎)などの取り組みが行われている。
地元を知り、地元を愛する心を育てるため、課題探求型学習の「ふるさと教育」(大垣ほか)、「地元産業ブランド認定事業の学生表彰」(焼津)などの取り組みも広く行われている。国が推進する大学などの地域との連携による地方創生の取り組みも増加。採用だけでなく、さまざまな分野で地元大学との連携事業が進んでいる。「地域の課題解決を目指したプログラム」(仙台)や、若者の地元定着、首都圏大学生などのUIJターンの促進を目的とした、「地元中小企業での課題解決を志向した長期インターンシップ」(銚子)、地域人材の育成・定着に向けた産学官連携基盤推進協議会「めぶく。プラットフォーム前橋」(前橋)による多様な地域課題解決などの取り組みが広がり始めている。
(1)キャリア教育活動実施商工会議所数などの推移
・回答があった334商工会議所のうち252商工会議所が459件のキャリア教育活動を実施しており、実施率は2018年度調査と比較して微減しているものの、約8割(75・4%)に達している(図表1)。また、コロナ禍の影響もあってか、18年度調査(564件)と比較すると実施活動数は減少したものの、16年度調査の活動数(449件)を上回る。
・キャリア教育活動の実施年数は、「4~6年」が68件(25・6%)で最も多く、次いで「1~3年」「16年以上」46件(17・3%)、「7~9年」(15・8%)の順となっている(図表2)。10年以上実施している事業数は4割(41・3%)と、商工会議所が実施する多くのキャリア教育活動が地域に根付いていることがうかがえる。
(2)キャリア教育活動の実施目的
・キャリア教育活動の実施目的は、「学生の職業観の醸成」が306件(71・8%)で最も多く、次いで「地元学生の地元企業への就職促進」255件(59・9%)、「教育機関との連携強化」191件(44・8%)の順となっている(図表3)。「その他」には、「IT人材の育成」「中小企業の経営課題の解決」「起業家育成」「商工会議所事業の認知度向上」などがあった。
・キャリア教育活動に取り組んでいる商工会議所に、事業ごとの外部からの実施・協力依頼の有無について聞いたところ、「外部からの依頼を受けて実施している」が319件(77・8%)、「外部からの依頼を受けずに実施している」が91件(22・2%)であった。
・キャリア教育活動に取り組んでいない商工会議所に、「外部からの依頼があればどうするか」を尋ねたところ、「依頼があれば可能な限り協力したい」が65件(97・0%)と、ほとんどの商工会議所が前向きな意向を示した。
・キャリア教育活動の依頼元は、「高等学校」が127カ所(31・0%)で最も多く、次いで「大学」85カ所(20・7%)、「都道府県・市町村」60カ所(14・6%)の順となっている。また、「小中学校」や「教育委員会」などからも多くの依頼を受けており、商工会議所は多様な団体と連携して、地域のキャリア教育推進の中心的な役割を担っている。「その他」には、「会員企業・事業所」などがあった。
(3)実施内容別の活動数と最近の取り組みの特徴
・活動内容の内訳は、「インターンシップ・職場体験」が177件と最多で、全体の38・6%を占める。次いで「地元大学との連携(人材育成など)」57件(12・4%)、「教育機関への社会人講師の派遣」52件(11・3%)、「各種講座・授業の開催」46件(10・0%)、「商い体験」42件(9・2%)の順となっている(図表4)。
・「その他」には、「高校生向け合同企業説明会」や「高校の進路指導担当教諭・採用担当者との交流会」などがあった。
・今回調査では、コロナ禍の影響もあってか、18年度調査と比較して全体の活動数は減少したものの、「教育機関への社会人講師の派遣」はほぼ変化がなかった。学生を事業所へ受け入れるよりも感染対策が取りやすく、職場体験が中止になった代わりに実施されるなど、コロナ禍でも比較的実施しやすい事業であることが要因の一つと考えられる。
・12年度調査と比較すると活動内容の構成比に変化が見られ、「インターンシップ・職場体験」(55・4%→38・6%)は減少しているものの、「地元大学との連携(人材育成など)」(7・6%→12・4%)、「各種講座・授業の開催」(4・9%→10・0%)、「教育機関への社会人講師の派遣」(8・9%→11・3%)、「商い体験」(5・9%→9・2%)は増加した。
・「地元大学との連携(人材育成など)」の中には、国が推進する大学と地域の連携による地方創生の取り組みのほか、さまざまな分野での試みが進みつつある。
・「各種講座・授業の開催」「教育機関への社会人講師の派遣」は事業所に学生を受け入れるよりも企業・学校ともに負担が軽く、相対的に見て実施しやすいことが増加した要因の一つと考えられる。
・また、起業体験を含む「商い体験」の増加は、地元企業の魅力を知り、自分で決め、行動し、結果を出す経験ができる内容として内外から高く評価されており、コロナ禍であっても熱心に取り組む商工会議所が多い、などの要因が考えられる。
最近の取り組みの特徴(略)
(4)インターンシップの推進と課題
・インターンシップの実施期間については、「3日以下」が48件(49・5%)で最も多く、次いで「7日以下」31件(32・0%)、「14日以下」12件(12・4%)、「15日以上」6件(6・2%)であり、8割超が1週間以内となっている。
・また、対象については、「高校生」が50件(51・5%)で最も多く、次いで「大学生」29件(29・9%)、「中学生」15件(15・5%)、「専門学校生」2件(2・1%)、「小学生」1件(1・0%)の順となっている。
・インターンシップにおける報酬については、ほとんどが無報酬であるが、実働時間に応じて報酬を支払っているケースや、活動支援金・調査費として支給するケースなど「報酬あり」が7件(9・0%)ある。
・商工会議所におけるインターンシップ推進の課題としては、「人的負担が大きい」が151件(45・2%)で最も多く、次いで「商工会議所にノウハウがない」が85件(25・4%)、「企業への就職に結び付かず、採用活動の助けにならない」が63件(18・9%)と続く(図表5)。学生を受け入れるための人的負担が大きく、就業体験を通じた企業への学生の就職などのメリットを求める声が多い。「その他」には、「学生の希望と企業のミスマッチ」「応募方法の多様化により、商工会議所を通じた学生の応募が減少」「学校側と企業側の連携が取れており、商工会議所が支援する必要性がない」という意見があった。
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