洋酒とケーキ。どちらも高級な嗜好品(しこうひん)だった昭和30年代に広島県上下町(現・府中市)で「洋酒ケーキ」は誕生した。幕府直轄の天領だった上下町は、かつて石見(いわみ)銀山からの銀の集積中継地として栄えたまち。上下の名は、日本海側と瀬戸内海側に流れる分水嶺があり、水が上下に分かれる地という意味だとか。パッケージには、華やかだった時代を懐かしむように、〝上下銘菓〟と記されている。
洋酒ケーキは、高級感あふれる銀色の袋の中に一つずつ収められている。袋の端っこを切っただけで、中から甘く魅惑的なブランデーの香りが漂ってくる。カステラを洋酒シロップに浸したケーキだが、希少なラム酒に2種類のブランデーをブレンドしたシロップは、他では味わえない愛おしさがある。ケーキは職人が毎日生地を一枚一枚丁寧に焼き上げ、一つ一つ手作業でシロップに漬け込んでいるという。この手間が愛おしさに伝わってくるのだろう。
上品な甘さ、芳醇(ほうじゅん)な香り、しっとりした舌触り。夏は冷やして、ひんやりとした味わいを楽しみたい。使用する卵は、上下町に隣接する世羅(せら)町産の新鮮卵。熟練の技とこだわりの素材と手間があってこその名物ケーキなのだ。おいしい。
Data
社名:くにひろ屋
所在地:広島県府中市上下町上下1514-1
電話:0847-62-2449
【府中商工会議所】
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