大手プラント建設会社に勤務していた中村龍一さんは、起業準備を進める中、事業承継・引継ぎ支援センターを介して、防犯カメラ製造販売会社のアイゼックと出合った。交渉の末、2019年11月に株式譲渡契約を締結し、第三者事業承継を果たす。そして、第二創業で経営を刷新。売上成長率1%から30%に押し上げる急成長を遂げた。
事業承継・引継ぎ支援 センターを介してマッチング
防犯カメラやレコーダーなどの製造・販売を手掛けるアイゼックは、2004年に創業した。創業者の吉良修さんは、大手電機企業で培った映像技術を生かし、工場や物流センターの業務自動化やインターネット画像転送装置の開発などに携わっていた。数社を経て最後に勤務していた商社が画像関連事業から撤退したことを機に独立し、同社を立ち上げたのである。
当時は先行技術だったインターネットの遠隔監視システムで事業を展開してきたが、その間、後継者の育成は未着手のまま吉良さんは18年に70歳を迎えてしまった。親族承継、社内承継の見込みもなく、廃業も脳裏をよぎる中、相談したのが東京都多摩地域事業承継・引継ぎ支援センターだった。そこで紹介されたのが後に二代目となる中村龍一さんである。 「吉良さんは研究者タイプの思慮深い人という印象を受けました」と中村さんは振り返る。当時、中村さんは大手プラント建設会社で働く電気設計技術者で、17年には27歳で最年少管理職に就き、順調にキャリアを積んでいた。だが、前途洋々と思いきや給料は同期と同額。責任ばかりが重い職務と、待遇改善は10年先と知って、次第に独立志向が高まっていったという。水面下で創業準備を進める中、事業承継・引継ぎ支援センター主催の起業セミナーを受講し、そこで第三者事業承継を知る。そのまま同センターの「後継者人材バンク」に登録したことに端を発し、19年4月、同社とのマッチングを提案されたのだ。起業準備は、ここから一気に加速した。
約1カ月で意気投合するが実際の引き継ぎは難航
「前職の知見やスキルが生かせる事業内容で、取引先や顧客を引き継げるメリットを感じました。過去3年分の決算書を見せてもらうと大赤字や負債もありません。何度か面談を重ねて約1カ月後には事業承継の同意を得るほど話がスムーズに進みました」
だが、具体的な準備段階に入ると半年の月日を要した。その理由の一つが資金調達だ。同社の株式譲渡額が自己資金だけでは足りず、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金の融資制度を活用し、中小企業庁の事業承継・引継ぎ補助金を申請するなど、資金繰りに奔走した。同年11月に株式譲渡契約を締結すると、今度は半年後の代表交代に向けた引継ぎ業務が難航する。先代は会社の〝これまで〟を伝えることに重きを置き、後継者である中村さんは経営課題を改善し、いち早く〝これから〟に取り掛かりたかった。というのも、同社は赤字や負債はないものの、創業から15年余りの平均売上高成長率は伸び悩み、設備投資も従業員の賃金アップもままならない課題があったのだ。先代と経営方針がすれ違うこともあったが、中村さんは予定通り20年6月に代表取締役に就任する。コロナ禍に突入するが、これをチャンスと捉えて体制の刷新を進めた。
コロナ禍に体制を刷新し経営資源をアップデート
コロナ禍の最中に自社サイト修正、Webマーケティング、顧客管理システムのCRM「Hubspot」導入に取り組んだ。また、これによって、マーケティングと営業、顧客管理をシームレスにつなぎ、業務の〝見える化〟を一気に進め、作業効率を大幅に上げた。すると、就任後1年で売り上げは倍近くにアップ。2期目で製品ラインアップや生産システムの見直しを図ると、3期目で売り上げは前年比の20%増、4期目の24年は50%の成長が見込めるほどの業績を上げる。 「業務を見える化したことで人的ミスも減り、作業効率が上がりました。ホームページの改善でアクセス数は約10倍にアップしています。従来の経営資源をアップデートできたことが功を奏して、年間の従業員の賃金150万円アップも実現できました」
先代も会社を託せることに安堵(あんど)し、中村さんも経営の成長曲線を描けたことで、さらに将来を見据えて人材の確保や育成について考える時間ができつつある。 「といっても、会社の規模を拡大するというより、提供できるサービスや製品のクオリティーを高めて、地道に手堅く事業を進める方針です」
むさし府中商工会議所を会社経営のパートナーと捉え、補助金の活用や事業計画のブラッシュアップなどで、経営上頼れる存在として相談し支援を受けた。 「商工会議所と二人三脚で自社を10年、20年と着実に成長させ、100年企業になれたらと思います。僕自身は50歳になったら後継者を探して60歳で引退するイメージです。その時も自分の経験を生かせる第三者事業承継で進めたいですね」
狭く、深く、堅実を軸とする経営ビジョンに、共感する社員を大切にすることが会社の未来につながると説く中村さん。その表情には業績を回復させた自信と経営者然とした気概が感じられた。
会社データ
社名 : アイゼック株式会社
所在地 : 東京都府中市美好町3-15-30
電話 : 042-369-2041
HP : https://isecj.jp
代表者 : 中村龍一 代表取締役
従業員 : 4人
【むさし府中商工会議所】
※月刊石垣2024年9月号に掲載された記事です。
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