リンゴの生産量全国1位を誇る弘前市は、重要な地域資源としてまち全体でリンゴを使ったスイーツをPRしている。そんな同地域で50年以上にわたって愛されているのが、洋菓子店ボンジュールのアップルパイだ。地元客はもちろん、近年では他県からも同商品を目当てに客が訪れ、多いときには1日600個を売り上げるロングセラーになっている。
「弘前アップルパイ総選挙」で3連覇を達成
リンゴ王国・弘前市には、アップルパイを提供している店が50店舗以上あるそうだ。それも洋菓子店だけでなく、和菓子店、ベーカリー、煎餅店、レストラン、喫茶店、ホテルなど幅広いジャンルの店で扱っているのが特徴だ。同市には厳しい筆記試験に合格したアップルパイコンシェルジュがいて、彼女らがドライバーとなり有名店や地元民しか知らない穴場店などをガイドしてくれる「アップルパイタクシー」まで存在する。まさに「アップルパイのまち」だ。
そんな同市で50年以上も愛され続けているのが、ボンジュールのアップルパイである。 「甘く煮た紅玉をパイ生地にのせて焼いた、本当にシンプルな一品です。特徴を言えばシナモンを使っていないことと、パイ生地のサクサク食感でしょうか」
同店のオーナー兼パティシエの関浩司さんはそう語るが、小麦粉に発酵バターを折り重ねて焼き上げたミルフィーユ状のパイ生地と、甘酸っぱさを残したリンゴが絶妙にマッチし、食べるとどこか懐かしい味がする。それがいかに市民に支持されているかは、同市が開催している「津軽の食と産業まつり」で行われた「弘前アップルパイ総選挙」で、同店が3連覇を果たしたことからもうかがわれる。
常に焼きたてのサクサク食感を提供することに苦心
そんな人気の同店だが、実は2000年頃に一度閉店している。同店は、関さんの父親が始めた店で、当初からアップルパイが看板商品だった。ところが、経営が軌道に乗ると父親が店に出る頻度が徐々に減り、代わりにスタッフがつくるようになる。売れ筋だったアップルパイを大量につくり、残ったら冷蔵庫で保存するということをやっているうちに売れ行きが落ちていき、とうとう店を閉めることになってしまったのだという。 「当時私は店を継ごうと、神奈川県でパティシエの修業をしていたんです。その間にいろいろなアップルパイに出合いました。スポンジが入っていたり、シナモンを利かせたり、形も丸かったり四角かったり。でも、私はうちのアップルパイが子どもの頃から大好きだったし、すごく売れていたので、あの味を自分が受け継ぐつもりでした。そうして帰ってきたら店がなくなっていたんです」