昨今の先の読みづらい経済環境の中では、過去の実績や常識に頼って乗り切ろうと考える経営者もいるだろう。一方で、「企業が売りたいモノ」より「消費者が欲しいモノ」を、と視点を変えて新たな一歩を踏み出す女性経営者がいる。モノが売れない時代だが、女性経営者は、いかにして壁を越えることができたのか。
靴の仕入れ卸業から自社ブランド創出へ 「キレイなあしを創る」企業へ転身
レディースシューズを中心にアパレル商品の企画・販売・小売業を展開しているWellegは、女性ユーザーの「履きたい靴」を追求し、人気を博している。自社サイトや大手ネットモールでの販売数は、年間約80万足。業績アップをけん引した四代目社長が女性であり、その意志を継ぐ五代目社長もまた女性だ。9割が女性社員という同社は、女性の壁を感じることなく足取り軽く前進する。
アウトレットシューズの在庫処分をネット販売し活路
男性より女性の方が、とかく靴のトラブルは多い。それでいて機能性重視の靴一辺倒ではなく、ファッション性に富んだ靴選びを楽しみたいという女心もある。
そうしたユーザーの気持ちに丁寧に寄り添い、「キレイなあしを創る」を企業理念に、業績を上げているのがWellegだ。年間販売数は約80万足。その売り上げは実店舗ではなく、オンラインストアによるもので、「試し履きしないと買えない」という発想を根本から覆す。
このビジネスモデルをけん引したのが、四代目社長(前社長)で現代表取締役会長の植村暁美さんだ。Wellegは、1925年に履物商「ひしや商店」として創業し、50年に法人として「菱屋(ひしや)商店」を設立。国内大手シューズメーカーと代理店契約を結んで、総合履物卸売業として成長した。90年代には中国の上海工場を建設し、カタログ通販業者に靴を卸すようになった。だが、このカタログ通販の検品ではじかれた商品の在庫は増えるばかり。その課題解決に白羽の矢を立てられたのが、植村さんだった。 「2002年に入社して、義父である先代の社長から、カタログ通販で売れ残った在庫品について相談されました。アウトレットシューズの実店舗を開設するには、固定費も人件費もかかります。そこで注目したのがインターネットです」
ネット販売のスキルがあったわけではない。だが、可能性を感じて、手探り状態で楽天市場にアウトレットシューズを出店した。社内でも「ネットじゃ売れない」という意見多数の中、数年で在庫を一掃した。
「売るべき靴」ではなく「履きたい靴」を届けたい
しかし、勢いづくネット業界に同業他社が続々と参入し、価格競争に巻き込まれた。人気商品を出品しても思うように売れない。 「当初は仕⼊れる靴がメーカーから提案されたものばかりで、華やかに⾒えるラインアップに偏重していきました。売っている靴と、履きたい靴のギャップは多くの女性社員が感じていたものでした」
その⽭盾を打破したのが、後に五代⽬社⻑となる⼩島好視さんの⼊社だ。 彼⼥がきっかけで⾃分たちが⼼から履きたい靴をつくろうと、社員を巻き込んで、奮闘していくこととなる。 「企画力、行動力のある頼れる人材です。楽天の協力を得て、ブランディングやチームビルディングを学んでいけたのも大きかったです。試し履きができない分、商品写真を多く載せ、特にアウトレットになった箇所を細かく紹介しました。女性社員の履き心地に対する、正直な感想を掲載し、納得した上で買ってもらえるように工夫しました。問い合わせメールにもすぐ対応するなど、お客さま目線で、お客さまに寄り添うサイトづくりを意識しました」
社内にマーチャンダイザーを配し、お客さまの声に応える商品開発を進め、オリジナルブランド「Menue(メヌエ)」を立ち上げた。特徴的なのは21〜27㎝までの幅広いサイズ展開と、シンプルで洗練されたデザイン。役員自らシューフィッターの資格を取得し、〝女性が元気になる〟靴づくりを徹底し、自社ブランドを次々と生み出した。
女性の働きやすさを整え経営者マインド育成
11年には靴ジャンルで、楽天市場内の成長著しいショップに贈られる「楽天ショップ・オブ・ジ・エリア」を受賞し、翌年には売り上げや注文件数、お客さま対応などのベストショップとして選ばれる「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」の靴ジャンル賞に輝く。以後、同賞の常連となるほどの結果を出し続け、14年には主力だった卸売事業を廃し、シューズメーカーに転身した。 「15年に社長に就任しましたが、女性だからと経営上の壁を感じたことはありません。女性社員が9割を占めますが、理念に賛同してくれるかどうかと、個々の人柄や能力を判断して採用した結果、自然と女性が多くなっていきました」
女性が働きやすい職場づくりを心掛け、フレックスタイムや時間単位の有給休暇を付与した。社員数30人強で1年に2人前後は産休・育休に入るというが、復帰率はほぼ100%。福利厚生と同時に、原価や利益を社員に公開し、経営者意識を持つ社員育成にも取り組んだ。植村さんが入社当初は100万円台だったネット販売の売り上げが、10年後には約10億円、24年度は約19億5000万円と飛躍的に伸びていった。 「楽天市場はおしゃれなパンプス、ZOZOTOWNはトレンドシューズ、Amazonはビジネスシューズなど、モールごとに打ち出し方を変えています」
どこでどのように販売し、どう伝えていくか、戦略を立てた自信作の提供に、おのずと社員の士気も高まった。 「新作の社内展示会は、仕事以上に社員の目が輝いています」と笑う植村さん。今後は地元の女性たちを足元から元気にしたいと、オフラインでの活動強化も視野に見据えて、穏やかに語った。
会社データ
社 名 : 株式会社Welleg(ウェレッグ)
所在地 : 香川県高松市朝日新町18-22
電 話 : 087-851-6400
代表者 : 植村暁美 代表取締役
従業員 : 33人
【高松商工会議所】
※月刊石垣2025年8月号に掲載された記事です。
