企業経営は、平穏な日々ばかりというわけにはいかない。時には業績悪化やビジネス環境の変化による倒産の危機といった逆境もある。会社存続の危機を乗り越えるのは、経営者の企業存続への強い決意とそれを行動に移す「リカバリー力」だ。
度重なる“しくじり”から学んだ経営術で置き薬分野で県内No.1企業へ大躍進
急逝した父親の会社は、借金の山。社内改革は失敗し、債務超過、離職率は高止まり、ビジネス詐欺にもだまされる。挙げ句の果てには台風被害で会社が水没……。数々の失敗と苦難を乗り越えて、現在では離職率ほぼ0%となり、フカイは置き薬分野で岡山県内トップクラスの売り上げを誇る。「しくじり社長」と自嘲しながらも、ピンチをチャンスにしてきた、同社の不屈のリカバリー力に迫る。
信頼があだとなって度重なる窮地に立たされる
フカイは、医薬品配置販売業を主力事業として、1965年に岡山県倉敷市で創業した。以来、同市の有数の工業地帯である水島コンビナートを中心に、医薬品やサプリメント、栄養ドリンクなどのBtoB展開で業績を伸ばしてきた。 「置き薬は330年以上続く、日本独自の常備薬システムです。薬箱を無料で配置し、使用した薬の代金のみの後払い。クレジットカードの先駆けともいえる仕組みです」
そう説明する代表取締役の竹内和博さん。置き薬事業は手堅い事業分野だが、95年に仕入れ先が倒産。義理立てして仕入れ先を絞っていたことが裏目となり、共倒れの危機にひんするが、同じ境遇に立たされた企業3社と連携して、共同仕入れという手法で窮地を脱した。共同仕入れに賛同する企業も増え、県外にもネットワークが広がったが、そうした交流を通じて「販路拡大に協力したい」と提案してきた企業に、1500万円をだまし取られてしまう。 「新規顧客の獲得に苦戦する中、優秀な営業マン2人を派遣してくれて、わずか1日でいくつも契約を取ってきてくれました。試用期間の2週間ずっとその調子で、正式に1年契約を申し出ると、先払いを条件に出されて、銀行から借り入れた大金が一瞬で消えてしまいました」
5年で売り上げは2倍 栄枯盛衰の売り上げ至上主義
詐欺に遭って間もなく、先代が心筋梗塞で急逝し、経営スキルがないままに竹内さんは、99年に32歳で二代目社長に就任した。すると、詐欺被害のほかにも巨額の借金があることが判明する。 「借金返済には売り上げを伸ばすしかないと、社員に過重労働を強いるしかありませんでした」
状況改善に向けて先輩経営者に相談すると、経営理念の必要性を説かれた。竹内さんは、松下幸之助や稲盛和夫の著書を読みあさり、5カ月かけて経営理念と5カ年計画をまとめるが、社員には響かない。 「経営理念は『スマイルハート』。売り上げも社員数も今の2倍を目指す。私の熱意と、社員の会社に募る不信感の乖離(かいり)は予想以上で、翌日、4人の社員に辞表を突きつけられました。残ったのは私と母と最古参の社員の3人のみ。何度か新卒採用をしましたが続かず、離職率はずっと高止まりでした」
それでも掲げた経営方針を貫き、新規にネット通販事業を始めた。すると、健康食品やサプリメントが時代の潮流と合致し、さらに大物タレント監修の商品が大ヒットして、5年で売り上げは2倍に。5カ年計画の目標を達成し、インフルエンサーを活用したビジネスの先駆けともいえる実績を上げた。 「すっかり天狗(てんぐ)になってしまい、労働環境悪化を顧みず、売り上げ3倍を掲げました。しかし、その大物タレントがまさかの不祥事で逮捕されると、その商品は即時販売停止に。年間売り上げ1億円が0円になり、一気に資金繰りに行き詰まりました。さらに役員・社員が次々と辞めて、残ってくれた古参社員までもが脳梗塞で倒れて辞めてしまいました」
この時、竹内さんは初めてノルマ、残業、休日出勤を廃止するなど、社員と共に社内改革を進めた。これが功を奏して経営回復する中、またしても災難が降りかかる。
リカバリーを繰り返し行き着いた「感謝経営」
2011年の台風による本社水没。竹内さんは初めて「倒産」の二文字が頭をよぎったという。 「コンピューターや商品、営業車など何もかもが駄目になりました。ぼうぜんとする中、ニュースで事態を知った仕入れ先の医薬品メーカーが、無償で商品を提供すると言ってくれたのです。それも1社だけではなく、取引先20社全て。これには涙が止まりませんでした」
竹内さんは、売上至上主義だった過去を猛省し、〝感謝〟を軸とした「感謝経営」を志したという。 「社員にコーヒーを入れたり、会社被災を案ずる新卒社員のご両親に手紙を書いたり、クリスマス家族会の開催など、社員に感謝を伝えることから始めていきました」
感謝の気持ちが社員の士気を高め、水没した翌年、置き薬業界の月間売り上げランキングで、社員の一人がトップに輝く。社員教育にも力を入れ、社内勉強会では、医薬品の知識向上だけではなく、ホスピタリティーにも力を入れた。顧客に寄り添う社員を育て、同時に一つの地域に絞って特定の1商品を丁寧に販売する「ランチェスター戦略」で、不得手だった新規顧客を増やしていった。借金完済、営業所や社員数増加、16年には県内の置き薬分野で売り上げトップとなる。
さらに18年には高齢化する地域に貢献すべく、介護事業にも参入。ドローンによる離島への置き薬配送にも着手して、23年から倉敷商工会議所や地域企業と協働し、実証実験を始めている。 「感謝することで運が回り、縁が広がり、黒字経営となりました」
リカバリーを繰り返した末にたどり着いた感謝経営。「しくじり社長」の笑顔に自信がみなぎる。
会社データ
社 名 : 株式会社フカイ
所在地 : 岡山県倉敷市羽島798-1
電 話 : 086-476-8621
HP : https://www.fukai-yakuhin.co.jp
代表者 : 竹内和博 代表取締役
従業員 : 40人
【倉敷商工会議所】
※月刊石垣2025年8月号に掲載された記事です。
