「DXセレクション2024」で準グランプリ、「同2025」で優良事例を受賞したトーシンパートナーズホールディングスのDX改革。2年連続で評価された背景には、経営層による強いDX化への推進意志と、情報システム部の現場に寄り添いながら全社を巻き込み、変革を文化として定着させた粘り強い取り組みがあった。
中間の立場だからこそ社内を巻き込めた
不動産会社は、一般的にデジタル化の遅れが指摘される業界の一つだ。2021年、有馬満男さんは、不動産会社トーシンパートナーズホールディングスの情報システム部に部長として参画し、DXの実行責任を担い、社内を横断する変革に挑んできた。
同社のDXは、2021年策定の「中期経営ビジョン2025」の中で方向性が示され、デジタル人材も社内に存在していたものの、組織全体を巻き込む体制は整っていなかったという。 「私はDX戦略を現場に落とし込む役割を担って入社しました。外部コンサルタントのような完全な外部の人間でもなければ、生え抜き社員のような内部の人間が急に声を上げたわけでもない。その中間的な立場だったからこそ、現場に自然と受け入れられたのだと思います」
当時、同社では「デジタルマーケティング」と「DXによる組織変革」という二つのテーマが併走していた。前者には顧客獲得という明確な目的があったが、後者に関しては具体的な施策が決まっていないまま、有馬さん率いる情報システム部が「DXによる組織変革とは何か?」という根本からの問いに向き合うことになった。有馬さんは、当時をこう振り返る。 「まずは社内の業務改革、つまりデジタイゼーション(アナログ業務のデジタル化)やデジタライゼーション(業務プロセス全体の最適化)を進めました。業務効率化はもちろん、その先にある顧客価値の向上─例えばデータを用いて顧客について深く理解したりデータドリブン経営の実現も視野に入れていきました」
業務プロセスの属人化やシステムと現場の乖離(かいり)など、改善すべき課題も多く、特に基幹システムは現場主導でのカスタマイズが進み過ぎて、非効率な運用が温存されていた。こうした課題を解決するため、同社が導入したのが、プログラミング不要で業務アプリをつくれる「kintone(以下、キントーン)」だった。 「キントーンは、ユーザー自身が画面やフローを柔軟に構築できるプラットフォームです。情報がバラバラに管理されていた状態から、統一されたデータベースに整備していきました」
この取り組みを通じ、各部門の社員を巻き込む「共創」の文化が生まれた。 「各部門にエバンジェリスト(啓蒙(けいもう)的な役割を担う社員)を立て、定期的に相談会を開催しました。現場の人たちが自ら課題を持ち寄り、解決方法を一緒に考える仕組みをつくったのです」