中小企業ほど脱炭素化は進めやすい。その理由として、社内の意思統一がしやすく、素早く行動に移しやすいことが挙げられる。省エネを進め、廃棄ロスを見直し、新規事業や販路拡大につなげた小さな企業の成功事例を紹介したい。
ホタテの貝殻と廃プラスチックを活用し、“ゴミ山を宝の山”にアップサイクル
プラスチック製品製造業の甲子化学工業は、大量廃棄が深刻化するホタテの貝殻と、廃プラスチックを掛け合わせ、新素材「シェルテック」を開発した。同素材を使ったサステナブルなヘルメット「ホタメット」は、大阪・関西万博の防災用公式ヘルメットに採用され、国内外で多数受賞。同社の技術革新によって、環境分野において廃プラスチックが注目を集めている。
「モノづくりで社会貢献」を行動指針に自社開発に挑戦
環境保全の領域で、とかくプラスチックは劣勢だ。1969年創業の甲子化学工業は、2008年のリーマンショック以降、受注が激減していた。そこで19年から取り組んだのが自社開発だ。陣頭指揮を執ったのは、企画開発部部長の南原徹也さん。同年に家業の甲子化学工業に入社し、自ら企画開発部を立ち上げ、事業展開を図った。
「当社には、大手企業が視察に来るほど、プラスチック加工の先進的な技術力がありました。しかし、受託製造のみでは業績は先細る一方。社会に寄与する新規事業を模索し、まず介護・医療業界にアプローチしました」
その頃、新型コロナウイルスが感染拡大し、医療物資が全国的に不足する。同社は、大阪大学と本社工場のある東大阪市と共同でフェイスシールドを開発。全国指定病院に約10万個を寄付し、医療用防護服の製造も手掛けた。単独事業としては赤字、だが東大阪市CSR経営表彰の地域・社会部門で優秀賞を受賞するなど、社会的評価を得た。従業員の士気も、受注も上がり「モノづくりで社会課題を解決する」が会社の行動指針になっていく。
それを機に、廃棄物活用、脱炭素事業への挑戦が始まり、21年には再利用できる身近な廃棄物として、卵の殻に着目した。殻に含まれる炭酸カルシウムは、プラスチック素材との親和性が高い。試行錯誤の末に素材化に成功するが、殻の色にばらつきがあり、素材の色調が安定しにくい。先行商品があり、自社開発としてのインパクトにも欠けた。
だが、ツイッター(現・X)に投稿すると、予想外に多くの人の目に触れることとなった。
「企業アカウントではなく、個人アカウントで 『こういう製品、どう思いますか?』と問いかけたのが功を奏したのか、いろいろなアイデアをいただけました」
そこで得た情報にホタテの貝殻があった。投稿を機に、大手メーカーや大手広告代理店のTBWA HAKUHODOからも協業の声が掛かる。そして情報収集を続ける中、目に留まったのが、北海道最北の村、ホタテの水揚げ量で国内最大級を誇る猿払(さるふつ)村だった。
処分に困るホタテの貝殻を再資源化して脱炭素を促進
一方で、猿払村も深刻な地域課題を抱えていた。21年よりホタテの貝殻の再利用目的の輸出ルートが途絶え、年間約4万トンもの貝殻が堆積する状態が、環境問題に発展していた。早速、現地に赴いた南原さんの行動が、大きな転機になる。
「ホタテの貝殻を煮沸洗浄して持ち帰ろうと、役場に鍋とガスコンロの調達を相談しました。これまで課題解決に訪れた人たちはスーツ姿だったのに、僕だけ鍋を抱えた作業着姿だったそうで、村長をはじめ役場の方は驚いたそうです」
南原さんの本気度が伝わり、猿払村の協力を得ると、廃棄ホタテの貝殻を使った研究開発が始まる。卵の殻よりも、原材料を1カ所から大量に調達でき、卵の殻で培ったノウハウも生かせる。さらにホタテの貝殻は、卵の殻以上に炭酸カルシウムの含有率が高い。昼夜問わず繰り返した試作は、100パターンを優に超えた。そして22年、廃棄ホタテの貝殻と廃プラスチックを掛け合わせたエコプラスチックの新素材「カラスチック®」(後に「シェルテック®︎」に進化)が完成。新素材を使った防災用ヘルメット「ホタメット」を発表した。大阪大学大学院と技術連携し、博報堂グループのTBWA HAKUHODOがコンセプトを、quantum(クオンタム)がプロダクトデザインを担当して「自社単独ではできなかった完成度」と南原さんは胸を張る。実際、従来のプラスチック製品に比べ、CO2を最大約36%削減し、曲げ弾性率は約33%向上を達成している。再生プラスチックは、純正プラスチックより精度が劣る。そんな既成概念を覆す、社会課題を解決しつつ、安全性とデザイン性を兼ね備えた新素材と新商品となった。
高品質なエコ商品であることを数値化してブランド力を上げる
「思い切った挑戦ができたのは、技術面では3Dプリンターを活用し、コミュニケーション面ではオンラインを駆使できた点が大きく、SNSの活用もビジネスチャンスを引き寄せました」と南原さん。
もともと国内外の最新テクノロジーに関心のある南原さんは、一時期はXに最新情報を毎日投稿していたほどで、今やフォロワー数1万人超のインフルエンサーでもある。持ち前の情報収集力を生かし、25年開催の大阪・関西万博に向けて日本国際博覧会協会が募集していた「Co-Design Challengeプログラム」の情報をキャッチ。このプログラムは、〝これからの日本のくらし(まち)〟に寄与する多彩なプレイヤーとの共創を、万博を通じて実現させるもので、79件の応募の中から見事採択され、ホタメットは万博の公式防災ヘルメットに選ばれた。南原さんのSNSアカウントには、国内外のさまざまな企業や団体から問い合わせが相次いだ。展示会では大手ゼネコンの清水建設とも話をし、共同開発が実現する。プラスチックではなく、世界で年間500億トンも消費されているという砂の環境問題に着目。砂の代替として廃棄ホタテの貝殻を50%使った消波ブロック「ホタテトラポッド」や、屋外ベンチ「ホタベンチ」を開発し、ベンチは万博に常設された。
それだけではない。南原さんは、「エコっぽい商品」との差別化を図るべく、カーボンフットプリント(CFP)にも着目。環境省のCFPセミナー募集に即応募し、23年度のモデル事業になった。CFPとは、原材料調達、生産から使用、廃棄、リサイクルまでに生じる温室効果ガスの排出量をCO2排出量に換算した数値。ホタテの貝殻の活用効果を数値で提示することで、アップサイクル商品としてのブランド力、信用度を高めていった。
「取引先との信頼強化、環境意識の高い海外顧客とのコミュニケーションツールとして有効です」と、業界内の認知はまだ低いものの、CFPの活用をリードしていきたいと語る南原さん。世界最高峰のインテリアとデザインの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」(パリ開催)に招待されたり、猿払村のエコツアーを企画・運営したりと、事業内容は多岐にわたっている。「既存のプラスチック加工事業の受注が増え、エコ素材・エコ製品製造事業も順調です。今は、さらに廃棄物再利用事業を3本目の事業の柱にするべく、いろいろ計画しているところで、28年には工場を新設したいと考えています」
脱炭素の事業戦略は、時代の潮流にのって、着々と進んでいる。
会社データ
社 名 : 甲子化学工業株式会社(こうしかがくこうぎょう)
所在地 : 大阪府東大阪市菱江2-5-14
電 話 : 072-962-6012
HP : https://koushi-chem.co.jp
代表者 : 南原在夏 代表取締役
従業員 : 16人
【東大阪商工会議所】
※月刊石垣2026年1月号に掲載された記事です。
