中小企業ほど脱炭素化は進めやすい。その理由として、社内の意思統一がしやすく、素早く行動に移しやすいことが挙げられる。省エネを進め、廃棄ロスを見直し、新規事業や販路拡大につなげた小さな企業の成功事例を紹介したい。
省エネと脱炭素で新規事業と販路拡大へ 地域の自動車整備会社が挑む「エコ経営」
岡山県北西部の新見市にある自動車整備会社の北陽商会は、20年近くにわたり環境経営に取り組み続けてきた。創業は1952年で、以来、地元密着で自動車整備と販売を手掛けている。同社は「環境負荷への対応」を単なるCSRとしてではなく、自動車整備会社として新たな競争力を生む経営戦略として位置付け、常に新たな道を模索し続けている。
自社独自の技術を模索し 新エンジン洗浄技術を導入
自動車部品販売店として創業した北陽商会は、モータリゼーションに合わせて車の販売・整備に事業を広げてきた。現在は整備事業が売り上げの中心だが、その柱が揺らぎ始めたのが2000年代半ば。車の性能向上によって、12カ月点検(義務ではあるが、受けなくても罰則はない)や一般整備の需要が減り、法律で定められた車検の売上比率が5割を超えるようになっていた。
当時は同社の二代目社長で、現在は会長を務める山﨑保彦さんは、このままでは事業の先行きが厳しくなると危機感を持った。 「他社にはない自社独自の新しい技術はないかと模索していく中で、研修会で『エコ整備』というエンジン洗浄技術があることを知りました。これは、エンジンを分解せずに内部のスラッジ(不純物のごみ)やカーボン(すす)を洗浄することで、燃費を改善するというものです。これだと思い、早速会社で協議しました」
ところが、現場からは懐疑的な声が上がった。エンジン洗浄というのはエンジンをばらしてブラシできれいに磨くもので、専用の洗浄機械をエンジンにつないで内部洗浄する手法には、「そんな方法でカーボンが落ちるはずがない」と否定的だった。
「そこで、その機械を開発した方をお呼びして実演してもらいました。すると、スラッジやカーボン汚れが驚くほど出てくる。これで従業員たちも納得して、導入することにしました。ただし、10年後にはEVやハイブリッド車が主流になるだろうと予測し、機械を購入するのではなく、10年間のリース契約にしました。これならば1カ月に3、4台洗浄すれば、少なくとも元が取れる計算でした」
「エコアクション21」認証で環境経営を進めていく
「エコ整備」によりエンジンの燃焼状態が改善され、排気ガスに含まれる有害物質が減少し、環境負荷の低減につながる。ところが、「エコ」を前面に打ち出しても、顧客の反応は鈍かった。そこで、エコ整備で燃費が約10%向上するというデータを基に、年間走行距離からガソリン代の年間削減額を算出するシートを作成し、具体的な効果を示して顧客に訴求した。
「同じエコでも、エコロジーからエコノミーに路線を変えたわけです。ガソリン価格が高騰していた時期だったのも追い風になりました」
山﨑さんは、この強みをブランド化するため、環境省の「エコアクション21」(自社の環境負荷を把握・管理して環境経営を可能にする環境マネジメントシステム)の認証を取得した。そして、その認証マークを店の看板とともに掲げた。
エコアクション21では、二酸化炭素と廃棄物の排出量の削減、水と化学物質の使用量の削減が求められる。そのために同社では、照明のLED化や省エネ性の高いインバーターエアコン、低消費電力型コンプレッサーへの更新など、補助金を活用した設備面の改善も進めた。それだけでなく、電気のこまめな消灯、洗車の水を井戸水に切り替えることによる二酸化炭素間接排出の削減、廃油のリサイクルなど、小さな省エネ活動を積み重ねていった。
「さらに、車の部品を交換する際には、お客さまに、この部品は新品だと10万円だけど、リビルト品(中古部品を新品同様に整備した再生部品。品質保証がある)なら5万円、保証はないけど中古品でいいなら2万円で済みますよと、リサイクル部品を勧めていきました。これも二酸化炭素の削減と経費の削減につながっています」
環境経営による経費削減で変化が激しい時代を乗り切る
北陽商会の取り組みは、さまざまな雑誌で取り上げられた。しかし、多くが専門誌であったため、地域の人の目には留まらなかった。そこで山﨑さんは国や県の環境関連の賞に応募し、受賞するとプレスリリースを地元メディア向けに発信。それが地元紙で報じられ、地域へのPRにつながった。
「すると、お客さんから『新聞に出てたね』と言われるようになり、それが社員の喜びや自信につながり、仕事に対する意識も向上してきました。経営効果としては、社員の間で自発的に省エネを考える文化が根付き、それが経費削減につながっています」
20年近くにわたりエコアクション21を続けて社内の仕組みが十分に整ったことから、同社は次のステージとして国際基準の「SBT(Science Based Targets)」(企業が設定する温室効果ガス排出削減目標)の認定取得に挑戦し、認定を取得した。
今後の取り組みについて、山﨑会長の長男で、現在は社長を務める山﨑篤史さんはこう語る。
「車の品質向上やEV化の進展により整備需要は確実に減少し、将来的には厳しい状況が予想されます。当社では『自動車の整備』から『自動車の健康診断』へと移行するとともに、整備以外の顧客サービスを充実させ、環境経営による経費削減を進めることで、この地域で事業を継続していきます」
また、自社の脱炭素化を考えている経営者に対して、山﨑会長はこうアドバイスする。
「まずは、身近で簡単なことから始め、これだけ削減できたという成功体験を積み重ねることで、次の改善策が自然と生まれてきます。不要な電気を消す、空調温度を一度調整するなど、小さな行動から着実に始めればいいのです」 同社の歩みは、環境経営が中小企業にも多くのメリットをもたらすことを示している。
会社データ
社 名 : 株式会社北陽商会(ほくようしょうかい)
所在地 : 岡山県新見市新見327-1
電 話 : 0867-72-2173
HP : https://ecohokuyo.fc2.page
代表者 : 山﨑篤史 代表取締役社長
従業員 : 10人
【新見商工会議所】
※月刊石垣2026年1月号に掲載された記事です。
