日本商工会議所は1月21日から27日まで、三村明夫会頭を団長とする経済ミッションを、GDP成長率が新興国首位のインドと地政学上の重要拠点として近年認識されるスリランカの二カ国に派遣した。本ミッションでは、インド・スリランカ両国政府幹部らとの会談や現地経済界との懇談などを実施。経済関係の協力強化およびビジネス・投資環境の改善などについて意見を交わした。特集では、今回のミッションの概要などを紹介する。
スリランカ シリセーナ大統領・ウィクラマシンハ首相Win‐Winの関係を
スリランカでは、シリセーナ大統領とウィクラマシンハ首相を相次いで表敬し、「優先振興産業の絞り込みと投資インセンティブの付与」「予見性のあるビジネス環境の実現」など、日本側の要望を盛り込んだポジションペーパーを手渡した。
現地時間1月25日の午前9時30分から大統領公邸で行われたマイトリパーラ・シリセーナ大統領への表敬で、三村団長は「今回のミッションには70人以上が参加し、日本企業のスリランカへの関心の高さを示している」と発言。一方で「現在、約130の日本企業が進出しているが、スリランカの魅力や可能性を考えると少ない」との認識を示した。
これに対してシリセーナ大統領は、「日本とスリランカは、長期にわたり友好的な関係にある」と発言。国会議事堂、病院の建設や保健、教育、農業および道路、電力など同国の発展に寄与する日本からの長期的な支援に感謝の念を示した上で、「わが国の発展にはさらなる投資が必要。日本から確実に投資いただけるよう支援していく」と語った。
また、同席したマリク・サマラウィクラマ開発戦略・国際貿易大臣は「大統領の指導の下、高速道路や港湾、LNG施設などの開発が進んでいる」と述べるとともに、電力、ITなどの分野への投資や技術移転に期待を示した。
場所を首相公邸に移して同日10時15分から行われたラニル・ウィクラマシンハ首相への表敬では、三村団長のあいさつに続き、飯島彰己副団長(三井物産代表取締役会長)が発言。同社の現地事務所が昨年6月に再開したと述べた上で、「コロンボ港は南西アジア地域の重要なハブ港としての将来性を有することから、日本企業の参画に期待している。今後は質の高い流通へのニーズが想定されるため、低温・定温物流事業も可能性がある」との認識を示した。
続いて日本側の大西賢顧問(日本航空取締役会長)は、スリランカが豊富な観光資源を持つことに触れた上で、同社がスリランカ航空とコードシェア便を運行していることを紹介。「今後、一層の人的交流の拡大に努めたい」との意気込みを語った。
また、自衛隊によるソマリア沖の海賊被害対応にチャーター便を運行しているが、コロンボ空港寄港の際の同国からの手厚い支援に感謝の意を述べた。
小林洋一顧問(伊藤忠商事副会長)は、同社が約40年前にコロンボに進出し、特に農地開発事業による農業生産の拡大や保健医療機器の納入を通じた保健医療水準の向上に貢献してきたことを紹介。さらに、日本企業の同国におけるビジネス・投資の拡大に向け、「魅力的な投資インセンティブの提供」「中小企業の進出増加のため投資金額の下限緩和・撤廃」「法令の簡素化と改正時の現場への周知徹底」を要望した。
こうした要望に対し、ウィクラマシンハ首相は、「ビジネスの展開先としてスリランカを選んでもらえるよう法令・環境を整備し、法令改正時の対応を改善していきたい」と発言。インセンティブについては、中小企業や特定の業種に対する法人税の優遇措置(14%、通常は28%)があることを紹介した。
また、同国におけるビジネスの将来性を挙げた上で、「日本とは政治的に強力な絆を持っており、この絆を強化するために、貿易と投資を通じた経済協力をさらに密にし、Win‐Winの関係を築いていきたい」と語った。
最後に、三村団長より、2025年の大阪万博誘致について同国の支援を依頼し、会談を終了した。
インド プラブー商工大臣・シン電力、新・再生可能エネルギー大臣など日本企業の進出に期待
インドでは、プラブー商工大臣、シン電力、新・再生可能エネルギー大臣など政府幹部らを表敬し、「交通、エネルギー、通信などのインフラ整備」「税制における適用の透明性確保」「中小企業が進出しやすい工業団地の整備」など日本側の要望を盛り込んだポジションペーパーを手渡した。
現地時間1月22日午後1時からホテルITCモーリアで開催されたスレッシュ・プラブー商工大臣主催の昼食懇談会で冒頭、あいさつした三村団長は「2025年大阪万博誘致への協力」を要請した。
続いてプラブー大臣があいさつし、「日印両国首相・政府と企業は良好な関係を構築しており、今回の訪印は最も良いタイミング」と述べた。さらに「こうした関係を背景に、インドは日本の協力を得ながら世界第3位の経済大国を目指したい」と発言。「日印関係は両国の発展のみならず、グローバルな規模での経済発展に貢献できる」との認識を示した。
大西賢顧問(日本航空取締役会長)は、「日印両国の人流の活発化のためには、査証発行手続き・要件においてさらなる緩和の余地がある。インドは治安・環境・衛生に関する情報、日本は旅行・観光に関わる情報の積極的発信がまだまだ不足している点を改善していくことが必要」と述べた。
さらに、日本は訪日外国人増加に官民を挙げて取り組んでいることを紹介。日本航空とインドのVISTARA航空の提携により、同国の拠点が大幅に増加し両国民の自由な行き来につながり、双方の人流が今後拡大していくことへの期待を示した。
現地時間1月24日午前10時30分からインド電力省で行われたラージ・クマール・シン電力、新・再生可能エネルギー大臣表敬で、釜和明副団長(IHI相談役)は、発電設備の納入やLNG受入設備としてのタンク施工など、同社のインドにおける電力・エネルギー関連分野への貢献について紹介した。その上で、入札時におけるライフサイクルコストを含めた総合評価方式の導入など、日本からのインフラ輸出に対する同国政府の支援を求めた。
シン大臣は、「支援を約束する」とした上で、インド国内での部品製造や組み立てを提案。釜副団長は、優れた技術を持つインドの事業者による製造、組み立てが既に行われていると答えた。
飯島彰己副団長(三井物産代表取締役会長)は、「政府が土地・送電線を確保するなど、事業者の開発リスクは限定的で競争の厳しい入札が予想されるが、本件を切り口に、市場規模が大きく成長著しいインドのインフラ市場に参入したい」との意気込みを示した。
シン大臣は、「太陽光や風力、洋上発電など再生エネルギー分野はわが国における大きな市場であり、100%外資でも合弁でも進出可能である。世界中から参入希望があり競争は厳しいが、日本企業の進出を大いに歓迎する」と語った。
伊東孝紳副団長(本田技研工業締役相談役)は、インドで七つの工場を操業する電力の大口ユーザーとして、電力の安定供給を要望。
シン大臣は、「安定供給とともに料金の値下げも考えている」と回答した。さらに「インドはやがて世界最大の電気自動車市場になる」との認識を示し、「政府として2022年までに国内を走る自動車の30%を電気自動車にしたいと考えている。ぜひインドで電気自動車を生産してほしい」と述べた。加えて、シン大臣は「人口も増え、かつ1人当たりの電力需要も急速に拡大しており、インドにおける電力関連産業は早いスピードで成長する」「送配電のコントロール、スマートメーターの普及や地下ケーブルの設置など、電力セクターの近代化に関わる市場も巨大なものになる」と発言。同分野への日本企業の進出と、関連機材の製造・納入への参画に対する期待を示した。
最後に、三村団長が「いただいたメッセージをぜひ125万会員に伝えたい」と述べ、会談を終了した。
日本・スリランカ経済フォーラム 絶好の投資機会を提供
現地時間1月25日午後3時から始まった本フォーラムの開会式で、スリランカ投資庁(BOI)のドゥミンドラ・ラトナヤカ長官は「スリランカはインドやパキスタン、シンガポールと近い戦略的な立地にあり、世界的な玄関口。投資先として価値を提供できる」とあいさつ。「この国に根を下ろし、スリランカを次に進めてくれる企業に来てほしい。絶好の投資機会を提供できるよう、政府として必要な政策を進めたい」と語った。
続いて、セイロン商業会議所のラジェンドラ・テアガラジャー会頭、日本商工会議所の三村明夫会頭、スリランカ・日本経済委員会のダヤ・ウェッテシンハ委員長があいさつ。さらに駐日スリランカ大使館のダンミカ・ディサーナーヤカ特命全権大使、国家政策・経済省のハルシャ・デ・シルバ副大臣が来賓としてあいさつした。
基調講演ではマリク・サマラウィクラマ開発戦略・国際貿易大臣が「日本はインフラ開発や1982年の投資協定締結を通じて、安定的で長期的なパートナーである」と述べ、スリランカ進出企業の多くが成功していると紹介した。また「スリランカは経済成長モデルを従来の公共工事主体型から民間主体型へと軸足を移している。そのため、外国からの投資誘致が重要で、周辺国を含め多くの国とFTAを締結・交渉している。30億人のアクセスを持つ戦略的な要衝として、ぜひスリランカをビジネスの足掛かりとしてほしい」と語った。その上で「日本とさらにパートナーシップを高め、互いに繁栄していきたい」と意気込みを示した。
スリランカへの投資機会をテーマとした「全体会議」では、チャンピカ・マラルゴダ氏(BOIエグゼクティブダイレクター)がスリランカへの投資の現況とチャンスについて説明。日本の製造業がスリランカへ投資・進出すると、日インドCEPA(包括的経済連携協定)に比べ、ネガティブリストの品目が少ないインド・スリランカFTAを活用でき、グローバルなバリューチェーンへのリンクが可能になると述べた。また「進出にはBOIが全面的にサポートする。投資先の一つとして検討してほしい」と語った。
パネルディスカッションでは、ラジェンドラ・テアガラジャー氏(セイロン商業会議所会頭)が進行役を務め、ドゥミンダ・アリヤシンハ氏(BOI事務総長)、マンガラ・ヤーパ氏(同取締役)、インドラジット・クーマラスワミー氏(スリランカ中央銀行総裁)、段谷繁樹氏(双日副会長執行役員)、竹原亨氏(コロンボドックヤード社会長)がパネリストとして参加。
スリランカ側は「経済は安定化してきている」「どんな問題も早く解決する国」「金融サービス部門は比較的発達している」と発言。一方、日本側は「インド洋のハブとしての成長は間違いない。そうなればパキスタンなど近隣国への部品供給基地としての役割を果たせる」などの発言があった。
閉会に当たり、ドゥミンダ・アリヤシンハ氏は「スリランカは安全で教育水準も高く、投資環境は良い。BOIは現地法人の設立だけでなく、運営のプロセスを通じて最大限サポートをする」と語った。
第42回日印経済合同委員会会議 ビジネス環境の一層の改善を
現地時間1月23日午後2時30分から始まった本会議の開会式では、印日経済委員会のオンカール・カンワール会長の開会あいさつに続き、日印経済委員会の飯島彰己会長(三井物産代表取締役会長)があいさつ。「インド経済は高い成長を維持しており、日本企業の進出は加速していく」との認識を示し「進出日系企業を取り巻くビジネス環境がさらに改善されることを期待する」と述べた。また、来賓として、インド商工会議所連合会(FICCI)のサンディップ・ソーマニ上級副会頭、日本商工会議所の三村明夫会頭、在インド日本国大使館の平松賢司大使がそれぞれあいさつした。
続いてインド商工会議所連合会が「インドと日本―ビジョン2025の実現に向けたロードマップ」の作成を報告。さらに印日経済委員会のロヒット・レラン共同会長が、合同委員会会議の開催に感謝の念を示した。
本委員会の全体会議1では、RCMレディ氏(ILFSクラスター開発イニシアティブ社社長)が、製造業の成長に向けた取り組みを説明。「競争力の強化には人材開発が重要」と述べ、両国政府が合意したインターン・訓練生の相互派遣の計画があることを紹介した。
日本側の森本卓氏(三井物産専務執行役員アジア・大洋州本部長/アジア・大洋州三井物産社長兼シンガポール支店長)は、メイク・イン・インディアに関する同社の取り組みを紹介。「インドでは、製造業の発展に必要な電力の安定供給、物流インフラの整備、人材育成など中長期で取り組むべき課題が多い」と指摘した。
全体会議2では、プラシャント・ミシュラ氏(インド高速鉄道公社本部長)が、ムンバイ・アーメダバード高速鉄道プロジェクトの概要とインド国内での鉄道整備の現状と将来に関して説明した。
また、ウラブ・スリヴァスタバ氏(インディア・エンジェル・ネットワーク会長)は、インドがITや教育・医療・バイオテクノロジー・物流・農業などあらゆる分野の企業のスタートアップのハブとなっていることを紹介した。
日本側は、深澤祐二顧問(東日本旅客鉄道副社長)が、ムンバイ・アーメダバード高速鉄道プロジェクトと日本での駅周辺開発に関して説明。高速鉄道プロジェクトは「2023年の開業を実現するためには、日本側とインド側それぞれの実施事項を確実に進めることが肝要であり、特に、インド側が用地取得をスケジュール通り行うことが重要」と指摘した。さらに鴻池忠嗣氏(鴻池運輸取締役常務執行役員海外事業本部副本部長)は、「日印ビジョン2025」の実現に向けた貨物輸送面での取り組みを紹介。「メイク・イン・インディアを可能にするために貨物専用道路、高速鉄道が重要な役割を担っている」と語った。
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