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まちの解体新書 人のつながりと知恵で地域活性化 日本一のコンパクトシティ

蕨本陣跡:皇女和宮のほか、明治天皇も利用したことがあるいう

“蕨”の起こり

蕨市は、埼玉県南東部に位置し、東京都心からの距離は約20㎞、北はさいたま市(旧浦和市)、西は戸田市、東は川口市に接している。平均海抜は4・8mで、地形はおおむね平坦、大きな山や川などはなく、市域の多くが住宅地。戦後、首都圏の拡大とともに東京のベッドタウンとして発展してきた。

全国の市名を五十音順に並べると最後に登場する蕨市は、周辺に植物名由来の地名が見られることから、同様に植物のワラビが市名の由来であるとの説がある。一方で、蕨市立歴史民俗資料館の資料によれば「藁(わら)火」がなまって「蕨」になったとする二つの説もあり、現在に語り継がれている。

その「藁火」説の一つは、平安時代の初めごろ、六歌仙の一人として知られる在原業平(あいわらのなりひら)が、東北地方に向かう途中に立ち寄ったこの里の家で、藁を燃やして暖をとるというもてなしを受けたところから、当時まだ名のなかったこの里に「藁火の里と呼びなさい」と言ったというもの。

もう一つは、平安時代の終わりごろ、奥州平泉から鎌倉に向う途中の源義経が泊まった鳩ケ谷の里から見た夕焼け空の下に、夕食の支度で立ちのぼる煙の美しさを見て、その里を「藁火の里と呼ぶがよい」と言ったというものである。

なお、文献上、初めて「わらび」の名が見られるのは、1352(観応3)年6月29日付『賀上家文書』。「蕨郷上下」と記載されており、ここでは「藁火」ではなく「蕨」となっている。 江戸時代の蕨は、中山道の江戸(日本橋)から二番目の宿場町(蕨宿)として、1612(慶長17)年ごろに成立し栄えた。参勤交代の大名が宿泊する本陣(二軒)と脇本陣があり、多くの大名が利用した。江戸後期には皇女和宮が徳川幕府14代将軍家茂に降嫁されるとき、戸田の渡しの前に小休止したという記録も残っている。

現在は毎年11月に「中仙道武州蕨宿宿場まつり」が開催され、華やかな衣装や江戸時代の装束を身に着けた「織姫道中大行列」が中山道本町通りで行われる。通りには、今でも当時の面影を残す日本家屋や呉服店、酒屋、和菓子屋、煎餅屋などがあり、中には創業が江戸時代という老舗もある。

蕨商工会議所 会頭 牛窪 啓詞 氏

成人式発祥の地としての誇り

「当市が誕生したのは1959(昭和34)年4月1日です。今年(2019年)4月で市制施行60周年を迎えます。市が中心となりさまざまな記念事業を実施しますが、当所も協力していきます。ちなみに、そのキャッチフレーズは、応募のあった982作品の中から“笑顔 希望 ずっとぎゅっと蕨”に決定しました」と話すのは、蕨商工会議所の牛窪啓詞会頭。

「当市の面積は5・11㎢しかなく、日本で一番小さな市です。しかもこの面積で人口が7万5000人ですから、人口密度も全市の中で一番です。文字通りのコンパクトシティである蕨は、住民同士のコミュニティー活動が活発で、一年を通じて祭りなどの行事が多いことが特徴です。私は、蕨で生まれ育った“土地っ子”です」と、牛窪会頭は地元愛いっぱいの笑顔で蕨を紹介する。

「ところで、蕨市が『成人式発祥の地』であることを知っていますか」と牛窪会頭。 「日本の成人式のルーツは、戦後間もない46(昭和21)年11月22日に、蕨第一国民学校(現・蕨市立蕨北小学校)の校庭で実施された『青年祭』の中で行われた『成年式』なんです。これは蕨の誇りであり、自慢です」

当時の日本は敗戦直後で多くの国民は虚脱状態にあり、将来の希望は若い世代の奮起に委ねられていた。蕨も例外ではなかった。そこでいち早く誕生した「蕨町青年団」では、復員してきた先輩たちを温かく迎え入れ、蕨を平和で住みよいまちにしようと話し合いを重ねた。そしてその最初の仕事となったのが、団長の高橋庄次郎(後に蕨市長や埼玉県議会議長などを歴任)が主唱者となり、未来を担う青年たちに明るい希望を持ってもらうために企画された青年祭である。その中で全国に先駆けて行われた成年式は、蕨の青年たちの熱意から生まれたもので、国にも大きな影響を与えた。

48(昭和23)年に公布・施行された「国民の祝日に関する法律」(祝日法)で、「おとなになったことを自覚し、みずから生きぬこうとする青年を祝いはげます」という趣旨の下、49(昭和24)年から1月15日が「成人の日」として制定された。その後、日本全国で成人式が行われるようになったことから、蕨が「成人式発祥の地」といわれている。なお、蕨では「成人式」を、現在も「成年式」の名で実施している。

中山道(上町地区):蕨宿の面影を残すまち並み。大正11(1922)年撮影

“音楽”でまちを元気にする

「蕨は、これといった地域資源がないまちです。だから人と知恵を使って盛り上げるイベントに取り組んでいます」と話す牛窪会頭。その一つが、同市が提唱している「音楽のあるまちづくり」の一環として開催している「蕨市民音楽祭(通称・わら音)」だ。牛窪会頭が2018年度まで実行委員長を務め、今年(19年)度から同所の德丸平太郎副会頭が実行委員長を務める同市最大級のイベントの一つである。

わら音は、市民13人が実行委員となり、「音楽を通して蕨をもっと元気にしたい」という思いから開催しているもの。18年は11月10日、11日の2日間行われた。

会場は蕨西口駅前ロータリーや市民公園などの屋外のほか、市民会館や市民病院などの公共施設、幼稚園や飲食店、企業など15会場に及び、歌や楽器による演奏など23ステージが繰り広げられた。この日ばかりはジャンルや経験、世代が異なるアーティストの音楽が市内いたるところで楽しめる。特に好評だったのが、日本を代表するジャズサックス奏者で、蕨在住の坂田明さんのステージ。幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師、日本画家で、蕨ゆかりの河鍋暁斎(かわなべきょうさい)の世界観をイメージした楽曲を披露し、来場者の心をとらえた。また、フィナーレは元AKB48の松井咲子さんによるトーク&ピアノ演奏と、日本では数少ないアルパ奏者で、唯一の男性プロである志賀昭裕さんのスペシャルライブ。松井さんは同市出身で、市内の小・中学校に通った蕨ゆかりの一人だ。

こうしたプロらによる演奏のほか、18年から始まった「紅白歌合戦」は、昭和の歌謡ショーをテーマにしたアマチュアメインのステージだ。予選を通過した16歳から86歳までの38組の市民が出場し、生バンドの演奏の下、往年のスターに成り切った衣装を身にまとい、自慢の歌声を披露した。見て聴いて参加もできる“わら音”は、これからもまちに元気を届けるイベントとして開催されていく。

河鍋暁斎(1831〜89年)の作品:幕末から明治にかけて活躍した天才絵師。明治14(1881)年に内国勧業博覧会で日本画の最高賞受賞。「新板大黒天福引之図」と鳥獣戯画 猫又と狸」。河鍋暁斎記念美術館所蔵

“食”でまちを元気にする

「実は会頭に就任するまで、(東京)都心に近いこともあり、蕨で食事をすることは正直あまりありませんでした。しかし、就任後、改めて市内飲食店に出掛けたり紹介してもらったりすると、いいお店がいっぱいあることに気付きました。そこで“まちの元気は飲食店から”という考えの下、飲食業の方々との情報交換の場を設け、そこでの意見やアイデアを参考に、15年度から飲食店活性化プロジェクトを始めました」

その第一弾が市内飲食店と農家が初めて連携し、16年1月下旬に実施した“ベジフェス”だ。蕨産の野菜を使ったオリジナルのメニューを飲食店ごとに開発、提供した。地元マスコミにも大きく取り上げられ、話題となった。

16年度は、市内飲食店20店をPRするためのオリジナルポスターの制作に取り組んだ。ポスターのモデルになったのは一般公募で選ばれた20人の女性たち。蕨にちなんでWRB20と命名された彼女たちは、各店のモデルとして特徴ある料理を紹介し、好評を博した。

17年度は、そば店、イタリアンレストラン、カフェなど14店が参加し、オリジナルドレッシングの開発に取り組んだ。専門家の協力も得て完成した商品は、成人式発祥の地にちなみ、めでたい紅白2種類の「蕨大人ドレ」。紅はリンゴを使用したフルーティーな味わい、白はタマネギ、卵、チーズを使い、濃厚でピリ辛風味。「大人」をテーマに仕上げた逸品は、健康にも留意し、添加物は使っていない。

18年度は「100年後も愛されるホンモノ志向」をコンセプトに、こちらも成人式発祥の地にちなみ、大人向けの高級銘菓の開発に取り組んだ。商品名は「わらびの蕨もち」。同商品のポイントは、2週間の賞味期限を保ちながら生タイプの食感を実現したこと。味は和の定番「こしあん」「抹茶」に加えて、洋の要素も取り入れた「きなこクリームクランチ」「チョコクリームクランチ」の計4種類。市内イベントや都内店舗(日本百貨店しょくひんかんなど)で行ったテストマーケティングは大変好評で、今後、テレビなどで著名なベーカリー「365日」のオーナーシェフ杉窪章匡氏や市内和菓子店からのアドバイスも加味して、本格販売への準備を進めていくという。大人の銘菓誕生が今から待ち遠しい。

ふタコ:“双子織”のマスコットキャラクター。双子織が大好きなタコの女の子。頭に「ふ」をのせた

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