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まちの解体新書 魅力と活力に満ちた雑節日本一のまち

牛深の市街全景、牛深港とハイヤ大橋を望む

全国に伝わるハイヤ節発祥の地

熊本県天草市の牛深地域に春の訪れを告げる、牛深ハイヤ祭り。春を彩る、市民総参加のにぎやかな祭りだ。毎年、4月の第3土、日曜日、金曜日には前夜祭が行われ、3日間はハイヤ一色に染まる。新型コロナウイルスの感染拡大により、今年は残念ながら延期が決まっているが、48回の歴史を誇る。

祭りで唄(うた)われる、牛深ハイヤ節は江戸時代の酒盛り唄。昔、貝殻やサンゴなどを南方に求めた牛深の人々は、南方の産物と一緒に南国のリズムを持ち帰った。このリズムに、当時、熊本を中心に唄われていた二上がり甚句で味付けをし、独特の節回しを持つ牛深ハイヤ節が生まれた。ハイヤとは、九州で南風のことを〝ハエの風〟と呼ぶことから、それがなまったものといわれる。

地元の熊本県立牛深高校には「郷土芸能部」があり、牛深ハイヤ節の唄と踊りの練習に励んでいる。牛深ハイヤ節は、徳島県の阿波踊り、広島県の三原ヤッサ、新潟県の佐渡おけさなど、全国各地に残る民謡の元唄とされる。市の無形民俗文化財にも指定されている。牛深港は、古くからの天然の良港。風待ちやシケ待ちのため、牛深に立ち寄った船乗りたちは、牛深ハイヤ節と酒に酔いしれ、楽しかった牛深の思い出の唄を次の港へ伝えていき、全国に広まった。

牛深の祭りは、元々は航海の安全祈願として始まったもの。平和記念祭に始まり、大漁祈願祭、慰霊祭など、漁業と結びつきのある行事が多い。ほかにも、海上船団パレードや名産ハイヤ市、漁港ならではの水産フェアといった催しもあり、多くの観光客でにぎわう。

最大の見せ場は、2日にわたって繰り広げられるハイヤ総踊り。各団体がそれぞれ趣向を凝らし、そろいの浴衣やハッピに身を包んだ老若男女がビートの効いたリズムに合わせて商店街大通りを練り歩く。その数は約3500人に上るという。三味線と太鼓の軽快なリズムに乗って身振りおかしく唄い、熱狂的に踊る姿は圧巻だ。

南国情緒あふれるエネルギッシュなハイヤ踊り。見るだけでなく、誰でも踊りの輪の中に飛び込んで祭りに参加でき、飛び入り可なのも観光客にはうれしい。

牛深商工会議所 会頭 益田 政昭 氏

三方が海に囲まれる海洋都市・天草

大小120余りの島からなる天草。雲仙天草国立公園に指定された牛深海中公園に代表される風光明媚(めいび)な自然景観、南蛮文化やキリシタンの歴史など、多くの観光資源に恵まれている。2018年7月に世界文化遺産となった﨑津集落や、天草の海に生息するイルカなど、多数の地域資源を生かした周遊型観光を推進するため、天草市はうしぶか海彩館をはじめとする七つの道の駅の整備に取り組んでいる。これらを拠点に島内を巡ることで、観光客の滞在時間を延ばし、さまざまな自然や文化に触れ、新鮮でおいしい魚介類や海産物を食して宿泊してもらうことを目指している。

天草市は、06年3月に牛深市、本渡市、天草郡8町が合併して誕生、約8万人の人口を有する。市域は約684㎢、三方が外海と内海に囲まれている海洋都市だ。有明海には112の河川が流入している。その広大な干潟の干満差は最大6mある。八代海は閉鎖性が高く穏やかで、魚介の産卵や育成の場にもなっている。天草灘は外海で対馬暖流が流れているため、回遊魚が獲れる。この三つの違う特徴を持つ海のおかげで、約40の漁法により、小さな魚から大きなもの、大衆魚から珍しいものまで、約300種類の魚が獲れるという。

天草市の水産業は、海面漁業と養殖漁業などが行われている。17年の漁獲量(海面漁業)は1万3237t。漁獲量の55%がイワシ類で、次いでサバ類・タイ類と続く。ただ、全国的な傾向ではあるものの、漁獲量は減少している。海の環境変化に加え、海外でも魚の消費量が増え、日本近海で外国船が操業していることも一つの要因と考えられる。また、漁獲量に比例するように漁業者も減り続け、1993年には5000人を超えていた天草市の漁業者は、この25年で半分以下の約2000人にまで減っている(漁業センサスより)。

市内にある43の漁港では、獲れた魚介が魚市場で取引される。市内には、牛深と本渡の二つの地方卸売市場があり、牛深では250魚種が取引されている。魚市場では、魚屋やスーパーなどの仲卸業者が買い付け、その後、店頭に並んだり、飲食店で提供されたりして、消費者の元に届く。

養殖業の2017年の生産量は1万5923tとなっている。ブリやタイ、クロマグロといった魚類のほか、海藻(アオサやワカメ)、車エビ、ヒオウギガイなどを養殖している。全国でも有数の生産量で、養殖マダイは市町村別で全国3位となっている。

県下最大の牛深港を有し基幹産業は水産関連

中でも牛深は、第一次産業の漁業と、第二次産業である製造業の割合が高い。製造業のうち、水産関連業の事業所数が4分の3以上を占めている。

牛深は天草市の最南端に位置し、熊本市から車で140㎞の距離にある。牛深商工会議所の益田政昭会頭が「牛深港は、熊本県下最大の漁業基地」と自信をのぞかせるように、多種多様な魚介類や海産物が、県内一の水揚げ高を誇る牛深港へ水揚げされる。16年の牛深港の水揚げ高は19億3000万円。益田会頭は語る。

「牛深の基幹産業は、水産関連業です。雇用の場をつくり、地域外から資金獲得できる地場産業で、当地域の経済を支えていると言っても過言ではありません」

また、水揚げされた漁獲物を利用した水産加工業が多く営まれており、養殖魚を活用したフィレ加工も盛んに行われている。水産関連業の売上高は、商工会議所が19年度に実施した調査によると、雑節製造は65億円で割合が一番高く、次いで養殖業、養殖魚フィレ加工、塩辛・練り製品製造の順となっている。

雑節とは鰹(かつお)節以外のサバ、イワシ、ソウダカツオなどを原料として製造した、主にうどんなどのだしの原料となる節類の総称。だし市場での鰹節と雑節の割合は逆転し、現在は雑節が6割、鰹節が4割だという。雑節の生産量は熊本県が全国一位、シェアも50%以上であり、牛深が県内の生産量の大部分を占めている。

イワシなどを原料に雑節が出来上がる

だし業界で有名な節のうまみを直接消費者にも

「節の原料の魚は、海水で煮ています。海がきれいな牛深独自のつくり方で、やさしいうまみが生まれる。その後、天草産のまきでいぶすことで日持ちが良くなります。廃材でなく、カシやシイの木などの天然木を使っているので、良い香りの節に仕上がります」と牛深の雑節の特徴を教えてくれたのは、株式会社江良水産の四代目で、代表取締役社長の江良浩さん。同社は、サバ、イワシなどの雑節やイリコを製造し、売り上げを伸ばしている。「早めに情報収集し、営業に力を入れて買い先と売り先を見極めてきました。品質管理を徹底し、そこに投資してきたことも大きいと思います」と江良さんは言う。近年、原料となる魚の水揚げ状況の変動が大きく、年々その確保が難しくなっていたことから、三代目の父親が「将来、会社をたたむ」と言うのを聞き、家業を守りたいと一念発起。福岡市で医療関係の仕事をしていたが、牛深に戻って家業を継ぎ、現在に至る。

また、江良さんは天草漁業協同組合牛深総合支所加工部会の会長として、牛深の節を多くの人たちに知ってもらえるよう、さまざまな活動に取り組んでいる。「牛深は、だし業界では有名な産地ですが、私たちが生産している雑節は、主に県外の卸売業者を通して全国の料亭や業務用の調味原料として使われているため、消費者の目に触れることが少なく、あまり知られていません。地元の人たちにも、だしのうまみを体感してもらいたい」と、2月上旬の取材時には「2020出汁(だし)サミット天草牛深」の開催に向けて奔走していた。

株式会社江良水産 代表取締役社長の江良浩氏

小規模事業者支援に力を入れる商工会議所

牛深は、水産業のほか、温暖な気候を生かした柑橘(かんきつ)類の栽培や畜産業も盛んだ。

「海のそばの急傾斜地でつくられる晩柑やデコポンなど、柑橘類は品質が良く、自信を持っておすすめできます。水産業や農業を前面に打ち出し、商業や工業と連携させて収益を上げ、さらなる地域の発展につなげていきたい」と益田会頭は意気込む。

その一方、牛深も他のまちと同様、人口減少に加え高齢化が急速に進み、生産年齢人口の減少が地域経済に影を落とす。管内の商工業者数は約1050。その9割以上を占める小規模事業者がより影響を受けることから、商工会議所は、特に小規模事業者の支援に取り組んでいる。「不景気感を取り除き、廃業などによる事業所の減少を食い止めるため、事業者を支援していく。商工会議所をどんどん活用してほしい」と旗を振る。

例えば、牛深ふるさと便事業。毎年、お中元用に7月とお歳暮用に12月に、贈答品として牛深の特産品を9品3500円、13品5000円のセットを選定会で選び、販売している。選定された延べ事業者の内訳は、水産加工品16社、柑橘類1社、菓子類2社。単独では難しい事業者の販路拡大に寄与する一方で、牛深の特産品の詰め合わせは購入者にも好評だ。また、年末12月29日にお正月用のタイとブリを発送する、天草牛深直送便も人気を呼んでいる。幅広い商品展開とあって、県内のみならず、全国から2500人以上の申し込みがあるという。

「経営者自身が勉強してレベルアップしていかなければ、企業は生き残っていけません。時代に合わせて変化していくことも欠かせません」と、益田会頭は自身の取り組みを引き合いに出しながら、企業の自助努力の必要性も説く。

16年から商工会議所の会頭職を務める益田会頭は、牛深でスーパーマーケットを営んでいる。40年間経営に携わり、共働きの増加を見据えて惣菜の取り扱いや、〝魚屋〟の機能を持たせることなどをその時々で決断し、商品構成を変えてきた。そして、事業承継を地域の最重要課題と位置づけ、「若手が安心して働けるよう、商工会議所として環境を整えていきたい」と抱負を語る。

水産加工業をけん引するリーダーが育ってきているのも、将来に希望が持てる。水産加工業と地域が誇る資源とを結び付けた観光開発も伸びしろがありそうだ。雑節日本一を引っ提げ、牛深の挑戦は続く。

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