20〜30代の女性を中心に、幅広い年齢層に支持されている、今注目のヘア&メイクアップアーティストの河北裕介さん。有名女優やモデルからの指名ナンバーワンの呼び声高く、持ち前のタレント性でテレビ出演や各種SNSでの情報発信も活発だ。飛ぶ鳥を落とす勢いの「河北メイク」、オリジナルブランド「&be」だが、そこには確たる理論と信念があった。
ヘアメイクへの関心はバンドと映画がきっかけ
ヘア&メイクアップアーティストの河北裕介さんは、有名女優やトップモデルから依頼が絶えず、引く手あまたの状態だ。軽快なトークとヘアメイクの手際の良さ、その人本来の魅力を引き出す技術力は、華やかな芸能・美容業界から波及して巷(ちまた)でも話題を呼んでいる。女性ファッション誌の表紙を担当した数も500を優に超える。だが、河北さんに気負いはない。 「僕自身は顔が大きいし、手足は短い。コンプレックスの塊ですし、偉くも何ともない」と苦笑する。河北さんのメイク術は、〝河北メイク〟と呼ばれるほどだが、特別なメイクではない。TPOやインスピレーション、過去の実績を総動員して自由自在。臨機応変な瞬発力と発想力が基本だ。有名なヘア&メイクアップアーティストに師事したわけでもなく、現場のたたき上げで確立したオリジナルだというから驚く。 ではなぜ、華やかな業界の最前線で活躍する女性たちから、これほどまでに支持されているのか。 「田舎育ちの普通の少年でした」と笑うが、美容に興味を持つきっかけは音楽。コピーバンドを結成したのが始まりだという。
一人のモデルとの出会いがトレンドけん引のきっかけに
「学生時代、ちょうどバンドブームで。ただ僕の場合、音楽のクオリティーよりも見た目をいかに格好良く見せるかに興味があって、仲間に髪型やメイクのアドバイスをしたり、実際にやってあげたりしていました。同じライブに出演するガールズバンドの子たちのヘアアレンジを手伝ったら喜んでもらえて、それが楽しくてね」
河北さんがヘアメイクの参考にしていたのが、映画好きな親の影響で見ていた映画や映画誌。『ローマの休日』で、主人公のオードリー・ヘプバーン演じる王女が髪をショートカットにするシーンに衝撃を受けるなど、バンド活動と洋画の影響でヘアスタイリストを志すようになっていった。 「でも、親は猛反対。ヘアスタイリスト=水商売という解釈で、大学進学以外はダメの一点張り。親を説得するためにも、早く国家資格である美容師免許を取らなきゃと思いました」
地元の美容室でアルバイトをするようになり、高校を卒業すると一人東京に向かった。 「当時のヘアメイクの最高峰サロンに迷わず飛び込みましたが、アシスタントではとても食べていけません。それでもヘアスタイリストになるという意地と根拠なき自信はありました」
美容師免許を取得後、日本三大ファッションショーの一つ、東京コレクションに参加したのを機にメイクも手掛けるようになり、23歳でヘアメイクの作品撮影を始めた。 「カメラマンと組んで、モデルの子に声を掛けてはヘア&メイクと撮影の練習をさせてもらいました。とにかく数をこなそうと。でも、正直、いいかどうか分からずにやっていました。雑誌社に営業に行くと、当時はまだ若くてかわいげがあったので運良く仕事をいただけたのですが、ファンデーションは1色しか持っていないし、応用力もない。下手なのがすぐにバレて、数年で壁にぶち当たりました」
業界では常識といわれる師匠という後ろ盾もなく、仕事は減るばかり。悶々とする日々の中、転機となるモデルと出会った。それが当時10代の長谷川潤さんだ。 「ベースメイクは、厚塗りしてあらを隠すのが一般的でした。でも、厚くすればほかのパーツも盛っていかないとバランスが取れません。盛れば盛るほど、個性が失われていく矛盾に彼女と共感し合えて、二人三脚で試行錯誤しながら、誰かのまねではなく、自分らしさとは何かを追求していきました。撮影現場の照明や求められている表情、雰囲気も考慮して、いろいろなヘア&メイクに挑戦したことが、後のキャリアにつながっていきます」
〝見た目〟だけではない美の本質を探求し続ける
河北さんは、漠然と女性を美しくしたいという考えから、一人一人の個性、コンプレックスさえも生かすようになっていく。ヘアとメイクが分業になる現場では、その時に組む相手の「いい所」を貪欲に吸収し、技を磨いた。 「現場では何食わぬ顔をして、帰ったらメモしたり、使っていた道具を調べたりしました。ヘアスタイルもメイクもTPOに合わせて楽しんでほしいし、美しさの引き出しを増やしてほしい。そのためには一人一人違う骨格や顔の起伏、その時の気分を理解した上で、ちょっとプロファイリングして臨むようになりました。次また仕事があると思わず、一瞬一瞬が勝負。それは今も同じです」
長谷川さんはトップモデルとして成長し、河北さんも仕事が回り始めた。厚塗りしない自然体、それでいて色気とツヤ感が出る河北さんのメイクに一人また一人と指名が入る。そして女性ファッション誌『GLAMOROUS』(講談社)の編集者が〝河北メイク〟と名付けると、その呼称が浸透して、2015年には初の著書『河北メイク論』(ワニブックス)が出版される。その後も著書を出し続け、累計20万部を突破。河北さんが紹介するコスメ商品は店頭から姿を消し、有名コスメブランドとのコラボ商品は飛ぶように売れた。 「この経験が自信になりました。プライベートでは結婚、子育てを経験して、安心安全な食生活を考えるようになって、コスメも肌に負担をかけない成分にこだわりたいという思いが強まっていきました。そして開発した初のプロデュースブランドが『&be』です。ケミカルフリーを追求した、自信を持ってお届けできるブランドです」
ライフスタイルブランド「&be」は、子どもから大人まで安心して選べる肌へのやさしさなどをコンセプトとする。コスメをはじめ、シャンプーやトリートメントといったヘアケア製品も展開しており、ゆくゆくは健康グッズの開発も︙︙と構想中だ。 「メイクで小顔に見せる前に、顔のむくみをとるマッサージや、姿勢を正すことで顔は変わります。日頃、自分が何を食べ、どう動き、どんな姿勢かをチェックする方がよっぽど大事であると訴求していきたい。高齢化社会が進む中、美と健康は切り離せません。健康グッズがすでに市場にあふれているからこそ、数年かけて本当に効果のある商品を届けたいです」
今をときめく女性たちのヘア&メイクを担当し、限られた時間と条件下で結果を出し続けている河北さん。現在に全力投球しながらも、美容と健康への追求は、かなり先まで見据えている。
河北 裕介(かわきた・ゆうすけ)
ヘア&メイクアップアーティスト
1975年京都府生まれ。94年にヘアスタイリスト、98年にヘア&メイクアップアーティストとして活動を始める。女性誌や広告のヘア&メイクを担当し、女優やモデルからの指名トップに。2015年に初の書籍『河北メイク論』(ワニブックス)を出版。その後も「河北メイク」を冠した著書多数発刊。18年にはライフスタイルブランド「&be」を立ち上げる。SNSの総フォロワー数86.5万人。TBS系列のバラエティー情報番組「ラヴィット!」に出演するなど、マルチに活躍中
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