事例1 逆転の発想で人を呼び込む「三好モデル」ワーケーション
阿波池田商工会議所(徳島県三好市)
人口減少が進む徳島県三好市の阿波池田商工会議所では、それに伴う事業者、労働者、消費者の減少という地域の課題に取り組むため、2017年にまちづくり会社を設立した。地域の困りごとを〝お宝〟に変えて、企業や人材を誘致する活動を展開し、ワーケーションに適したまちとして関係人口を増やしている。
魅力ある場所や仕事を創出し企業や人材を呼び込む
『地方消滅』という14年に刊行された本をご記憶だろうか。かつて岩手県知事も務めた増田寛也さんの著書で、「このままでは896の自治体が消滅しかねない」と予測するショッキングな内容のものだ。その中で消滅可能性都市の一つに挙げられたのが、徳島県三好市である。
「地域の人口が年々減少しているのは分かっていましたが、本の中に名前を見つけ、NHKの番組でも消滅可能性都市として取り上げられて、ようやく事の重大さに気付きました。それまでは割とのほほんとしていたんです」と、阿波池田商工会議所会頭の丸浦世造さんは振り返る。
同市は徳島県最西端に位置し、剣山や吉野川など四国を代表する山河を擁する自然豊かなまちである。かつては「阿波刻みたばこ」で栄え、裕福な商家が競って建てた「うだつ」が多く残るが、現在では特徴的な産業があるわけではない。そうした中、1960年代から人口減少に転じ、近年速度を増している。高齢化率が高いため自然減が多いことや、働く場所が少なく若者の流出が多いためだ。
「このままではますます消費者が減って事業所も減り、地域経済が成り立たなくなってしまいます。とはいえ、いきなり外からの移住や定住を促すのは難しいので、魅力ある場所や仕事をつくって、関係人口を増やしていこうと考えました」
その実現に向けて、同所は17年にまちづくり会社(一般社団法人三好みらい創造推進協議会)を設立した。
ワーケーションに求めるのはリゾート性ではない
まずは地域交流拠点施設づくりに取り組んだ。古民家を改修して、外来者が気軽に集まれるスペースを設けた。次に空き家の利用だ。市とまちづくり会社で改修工事を行い、移住者が余計なコストをかけずに住めるように整備した。そして活躍人材を呼び込むための、魅力ある仕事づくりや交流機会の創出、ワーケーションの推進だ。学生なども交えてディスカッションを繰り返し、そこから生まれたアイデアがいくつか具体化した。例を挙げると、古民家を改修してコワーキングスペースや貸会議室などを備えた地域交流拠点施設「真鍋屋」が18年にオープンした。同様に、JR四国が古民家を改装した個性的なホテルを市街地に二つ開業。また、廃校を活用した研修・合宿施設「ウマバ・スクールコテージ」も、今年6月に営業を開始した。
「取り組んで分かったことは、アイデアを出せば賛同者が現れて、事業は動き出すということ。事業が動くと新しい人材を呼べ、人が集まるとまた新しいことが始まるという循環が生まれるのです」
その好例として、野村総合研究所の「三好キャンプ」がある。社員のモチベーションアップや生産性向上を目指して、サテライトオフィス活動を推進していた同社は、「真鍋屋」のレンタルオフィスを1カ月間借り上げ、システム技術者を中心にワーケーションを実施した。昼間は通常と同じ業務を行うが、時間外は積極的に地元の人と交流し、地域貢献活動に参加する。いつもと違う環境で違う時間の使い方をすることで、視野が広がり新しい発想が生まれやすいという成果を得た。さらには、社員が三好から元気になって帰り、「次も行きたい」と希望する者が多いことから、今後、同社は人材開発研修地としての活用を検討している。
「ワーケーションというと海や高原などの有名なリゾート地で、グルメや観光も満喫しながら仕事をするというイメージがありますが、三好はその土俵で展開するつもりはありません。なぜなら、企業がリスクを取り、経費をかけてまでワーケーションに求めているのは、〝その場所ならでは〟の人的支援(価値)があるかどうか。それを企業の上層部が“腹落ち”しないと実現しないし、成功もしません」
外来者に「第二の故郷」と感じてもらうことも重要
現在、三好には企業のワーケーションだけでなく、各方面で活躍する人材の移住も相次いでいる。例えば、耕作放棄地でブドウを栽培しながら葡萄(ぶどう)酒専門店を開店したソムリエ、県内有数の観光地・祖谷(いや)でアウトドアアスレチック施設を運営する経営者、二つの廃校でカフェなどをオープンした女性オーナー、三好で「ウォータースポーツのまちづくり」に取り組むウェイクボード世界協会副会長など枚挙にいとまがない。皆、三好の取り組みに魅力を感じて、ゆかりのないこの地に集まってきたのだ。
「まちに特徴がないからと悲観することはありません。空き家、廃校、耕作放棄地など、困りごとがお宝に変わる可能性があります。さらにまちの人との交流を通じて、外来者に『第二の故郷ができた』という気分を味わってもらうことも大きなポイントです」
丸浦さんは今後の活動のキーワードとして、脱炭素やSDGsを挙げた。それらに取り組んでいる企業がワーケーション先を選ぶ際の動機付けになるからだ。地域一丸となり、逆転の発想で三好モデルワーケーションを加速していきたいと締めくくった。
会社データ
阿波池田商工会議所
所在地:徳島県三好市池田町マチ2191-1
電話:0883-72-0143
※月刊石垣2021年8月号に掲載された記事です。
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