テーマ別企業事例 ウィズコロナの新ビジネス戦略 現状を打破する越境ECで販路を開く

コロナ禍における厳しい現状を打破する手段として、オンラインで海外に商品を売る越境EC(電子商取引)が注目を集めている。特に地方の企業や小規模の企業にとって、海外市場への進出は生き残りの切り札ともなり得る。小規模ながらも越境ECを始めた企業や、越境ECを支援する商工会議所の取り組みを追った。

事例1 小規模メーカーが高収益を上げた例も 越境ECは中小企業でも気軽にできる

ゼンマーケット(大阪府大阪市)

越境ECを行うには、海外市場向けECモール(オンラインショッピングモール)に出店・出品する方法や、自社のホームページでECサイトを運営する方法などがある。大阪に本社を置くゼンマーケットは、日本の製品を海外の消費者向けに販売する越境ECモール「ゼンプラス」を運営しており、日本の企業の販路を海外に広げるサービスを行っている。各地の商工会議所とも協力を進めているゼンマーケットに、越境ECの今について話を聞いた。

図1 越境ECの事業モデル(概要)の一部 出典:経済産業省「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業」

将来有望の3モデルだが言葉や決済などの障壁も

インターネットを通じて海外市場に商品を販売する越境ECには、さまざまな形がある。中でも一般的に行われているのは「国内自社サイト」「国内ECモール等出店」「相手国ECモール等出店」の3モデルである(図1参照)。

世界のEC市場規模は大きな伸びを見せており、経済産業省が今年3月に発表した「令和2年度 電子商取引に関する市場調査」報告書によると、2020年の世界のB to C-EC市場規模は4兆2800億ドル(約470兆円)で、対前年比約27・8%増となっている。この増加の背景には世界的な新型コロナウイルスの拡大があると見られており、以降も市場規模の拡大が見込まれているという。

同報告書によると、越境ECにおいても、19年の世界の市場規模は7800億ドル(約85兆5千億円)と推計されており、その後の年平均成長率は約30%で、26年には4兆8200億ドル(約528兆7千億円)にまで拡大すると予測している。日本から海外に向けた越境ECの規模も大きく伸びており、20年の中国への越境EC販売額は1兆9499億円(対前年比17・8%増)で、米国へは9727億円(同7・7%増)となっている(図2参照)。これらの数字を見る限り、今後の商品販売は、日本国内だけではなく海外市場向けにおいても、ECが大きな流れとなっていくことは間違いないと思われる。

しかし、日本の中小企業にとって、越境ECには高いハードルが立ちはだかる。言葉の問題、為替や決済の問題、通関業務を含めた発送の問題、そして海外の消費者に向けた商品アピールの問題など、一朝一夕では解決することができない点が多い。また、越境ECを前述の三つのモデルのどれで始めるにしても、大きな費用がかかることがあり、売れるか売れないか分からないものに多額の費用をかけるのはなかなか厳しい。

安い手数料のサービスで高いハードルを一気に下げる

越境ECモール「ゼンプラス」を運営するゼンマーケットは、海外消費者向け購入代行・発送サービスの「ゼンマーケット」と、日本製品定期購買サービスの「ゼンポップ」を主要事業としている。創業したのは日本の大学に留学していたウクライナ人3人とロシア人1人で、海外の消費者と日本の製品を結ぶ越境ECにビジネスチャンスを見いだし、会社を立ち上げた。創業者の一人であるコーピル・オレクサンドルさんと、ゼンプラス事業部営業担当の北川将一さんに話を伺った。

「最初はロシア人向けの購入代行サービスから始めました。日本の楽天やヤフオクといったサイトからお客さんが買いたいものを代行して購入・発送するサービスです。この業界で初めて300円という固定型手数料を導入すると、お客さんがほぼ毎年2倍になるくらいの勢いで増え始めました。その後は英語版をつくり、それが軌道に乗ってきたので次々に言語を増やしていき、今は14カ国語に対応しています」(コーピルさん)

創業から2年後の16年に始めたのが越境ECモールの「ゼンプラス」で、こちらは日本の企業や商店がこのECモールに商品を出品することで、海外の消費者に販売できるサービスである。その大きな特徴が、商品の売り上げに対して10%の販売手数料が発生するだけで、それ以外の出店登録料や月額手数料といった費用が一切かからないこと。また、外国語は不要で全て日本語でOKで、海外の購入者からの問い合わせやクレームなどにはゼンプラスのスタッフが対応してくれる。決済や海外への発送もゼンプラスが行い、出品者は、購入された商品を大阪にあるゼンプラスの倉庫に送るだけである。これにより、海外に商品を販売するリスクや手間という高いハードルを一気に下げたのである。

「現在、出店数は1300店以上で、1日2店のペースで増えています。海外のユーザー数は100万人で、すでに200万個の商品を150カ国に発送しています」(北川さん)

小さな企業や町工場も大きな売り上げを上げられる

ゼンプラスに登録されている商品で最も多いのは食品で、そのほかには釣具、雑貨、美容関連も多い。釣具が多いのは、ロシアやウクライナで日本の釣具が人気で、よく売れるからだという。

「釣具以外では、アニメやキャラクターの関連商品や食品、美容関連もよく売れています。意外なところでは、日本ではほとんど知られていないのに、ゼンプラスではなぜかよく売れているシャンプーがあります。これもロシアやウクライナ向けがほとんどで、口コミで評判になっているようです。でも一般的には、日本で知られていない美容関連商品は、値段が高いものだと、品質がよくても海外ではあまり売れません」(北川さん)

逆に食品は、商品の単価がそれほど高くないこともあり、売れやすいという。例えば最近は海外で人気のしょうゆも、大手メーカーの商品は海外のスーパーでも手に入るので、小さなメーカーのこだわりの高級しょうゆやだしがよく売れるという。また、知名度が低い小さな企業の商品が、よく売れるケースもある。

「東京の小さな絵の具メーカーが、インスタグラムで自社の絵の具で描いた絵をアップしていたらファンが増えて、どこで買えるのかと問い合わせが海外から来るようになったそうです。そこでゼンプラスに出品したら、すぐにどんどん売れていきました。また、スポーツカーのカスタム部品をつくっている町工場がSNSで部品の写真をアップしていたら、海外から問い合わせが来るようになって、出品したらすぐに売り切れになりました」(コーピルさん)

どちらの企業も、まさか自社の製品が海外でこんなに売れるとは思ってもいなかっただろう。小さなメーカーでも町工場でも、オンラインで海外に販売できるのが越境ECなのである。

SNSを駆使して海外の消費者にアピール

海外の消費者が越境ECで日本の商品を買う場合、「この商品を買いたい」と決め打ちであることがほとんどだとコーピルさんは言う。

「外国人は、日本の商品の知識を自国の人が書いたブログやSNS、口コミなどから得て、それで気に入った商品を買います。逆に言うと、外国で知られていない商品は、どんなに良い商品でも売れません。ですので、越境ECで自社製品を販売しようと思ったら、まずは外国人の消費者に対して商品の知名度を上げる必要があります」

インターネットを通じて販売する越境ECでは、同じようにインターネットを使って自社製品をPRするのが効果的である。それには、前出の2社のようにSNSが非常に有効な手段となる。「あまり堅苦しく考えず、まずはインスタグラムに商品の写真をアップしたり、会社の周りの風景をアップしたりしながら、気軽に始めてみることですね」とコーピルさんはアドバイスする。

ゼンマーケットでは、各地の商工会議所と協力して、地方の中小企業に向けた越境ECのセミナーをオンラインで開催している。また、商工会議所としてゼンプラスに出店して、会員企業の商品を販売しているところもあるという。

「オンラインセミナーの参加者は以前より増えていて、しかも、自社の製品は海外で売れるのか、海外に送れるのか、どの国で売れそうかといった、具体的な質問を多くいただくようになりました。それだけ越境ECを真剣に検討している企業が増えてきているのだと思います」(北川さん)

中小企業にはハードルが高いと思われていた越境ECも、少しの工夫と努力で、しかも費用もそれほどかけずに実現できる。意外に売れるかもしれないし、売れなくてもそれほどの損はない。うちの製品など海外で売れるはずがないなどと思わず、まずはチャレンジしてみてはどうだろうか。

会社データ

社名:ゼンマーケット株式会社

所在地:大阪府大阪市西区立売堀1-3-11 ダイタイビル2F

電話:06-4560-4070

HP:https://corporate.zenmarket.jp/

代表者:コーピル・オレクサンドル 代表取締役ほか3人

従業員:約250人(正社員、契約社員、アルバイト、海外スタッフ含む)

【大阪商工会議所】

※月刊石垣2021年9月号に掲載された記事です。

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