業務アプリを自社開発してDXを進める関屋リゾートは、大分県別府市を拠点に旅館・ホテル事業を展開する創業120年の老舗。DXの取り組みが高く評価され、「日本DX大賞」と共同開催された2023年の「第1回日本ノーコード大賞」で特別賞を受賞した。評価のポイントは、現場に寄り添って開発したアプリだった。
ノーコードツール選びのポイントは自由度
関屋リゾートのDXが進んだのはコロナ感染拡大がきっかけと、社長の林太一郎さんは振り返る。 「2020年に緊急事態宣言が出されましたが、当社は、コロナ前に採用した新卒10人が入社する予定だったので、いきなり自宅待機というわけにもいかず、既存の社員も含めて改めて研修を行うことにしました」
研修の一環として、『ビジネスプランコンテスト』を開催した。第1回のコンテストで、マネジャーで人事部部長の金丸紘二さん(当時課長)が、アプリを開発して自社のデジタル化を加速させると同時に、外交販売して収益源とするプランを提案し、採用された。
最初に見直したのは、「チェックリスト」アプリ。関屋リゾートは3施設を運営しており、従業員は広い敷地内や建物内を移動しながら、何十項目もあるタスクをそれぞれが分担してこなしている。それまで使っていた既製のチェックリストアプリは、チェックリストの更新にリアルタイム性がなく、また利用料金も高かった。そこで、プログラミングの知識がなくてもドラッグ&ドロップでアプリが作れるノーコードツール「Bubble(以下バブル)」を使い、オリジナルの「チェックリスト」を作成することにしたのだ。
要件定義を金丸さんが行い、開発を担当したのは、当時入社1年目だった島大智さん。「理系とはいえ農学部出身で、プログラミングの経験はありません。ノーコードならなんとかなりそう」と考え、現場で使いながら改善する現場に寄り添ったアプリ開発に徹した。 ノーコードツールは、米国産の「バブル」の他にも複数あるが、その中から「バブル」を選んだ理由を、島さんはこう説明する。「多くのノーコードツールは、テンプレート通りにしかつくることができませんが、『バブル』は白紙に絵を描くように自由につくれます。ノーコードでは実装できないものは、コードを書くことで実装できます。拡張性が高いのです。マニュアルは英語ですが、分からないことはバブルのコミュニティーに聞くこともできます」。 利用料金も格安だという。チェックリストの他にも、宿泊客の送迎予約アプリ、清掃管理アプリ、リネン事業に関連したアプリなど合わせても、円換算(米ドル払い)で月額5000円程度に収まる。
アプリで社員の働きを正当公平に評価
林さんは経営の立場でDXを進める最大の理由を「見える化」と説明する。「誰がどれくらいの仕事をしたのか、頑張ったのかということを『可視化』して、フェアに評価をしたかったのです」。 例えば清掃。紙の報告書でも清掃の有無や所用時間は分かるが、質までは分からない。もしもの話だが、上手に手を抜いて、帳尻を合わす人が現れるかもしれない。 「そこで第三者が掃除の状況をチェックして、不備があれば画像でフィードバックする仕組みをアプリ上に構築しました。真面目に働いている人は評価されるし、手を抜いている人には指摘が入る。IT技術を使うと、働き方を正当に評価する仕組みをつくることができます」 紙をアプリに置き換える上で、現場からの反発が出たが、そこは経営と開発がうまく連携して乗り切った。林さんが会社の方針としてアプリ移行を宣言し、島さんは現場とのコミュニケーションを大切にした。島さん自身も現場で使っているので、「指摘があれば改善点を話し合って、早ければ数時間という短いスパンで修正しました。意見を提案すれば改善してもらえる、という信頼を得ることが大事だと考えたのです」。トップダウンとボトムアップが融合した成功例といえそうだ。 同社は今後、新事業進出や店舗の拡大を計画している。「そうなると、それぞれに新たなアプリが必要になるので、自社開発を続けるためには専門チームが必要になるでしょう。今後は業務改善だけでなく、マーケティングや集客まで踏み込んで、当社の強みにしていきたい」。同社のDXは新たな段階に入ろうとしている。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・初期に紙のチェックリストから、LINEとチェックリストアプリに移行したが、かえって煩雑になり、紙の管理の方が効率が良かった。また、アプリの利用料金も費用対効果で計ると高額だった
DX推進のための工夫
・ノーコードツールの「バブル」を使い、紙をそのままアプリ化した。紙の使い勝手を踏襲し、現場に寄り添ったアプリ開発を行った。また改善の要望は、数時間から1日程度の短時間でアプリに反映させた
成果
・成果を具体的な数字で表すことは難しいが、アプリでの報告に移行したことでコミュニケーションが改善し、ストレスのない報告業務の環境がつくれた。従業員の働きを可視化し、より正当公平な評価ができるようになった
会社データ
社 名 : 株式会社関屋リゾート(せきやりぞーと)
所在地 : 大分県別府市堀田5組
電 話 : 0977-85-8841
HP : https://www.sekiyaresort.jp
代表者 : 代表者 林太一郎 代表取締役社長
従業員 : 85人(正社員45人、パート社員40人)
【別府商工会議所】
※月刊石垣2025年5月号に掲載された記事です。