アイドルやアニメ、ゲームなど“推し”を応援する目的でお金を使う―。そんな「“推し活”消費」が、巨大な経済効果をもたらす成長市場として各方面から注目されている。若い世代を中心に、グッズ購入やイベント参加、遠征などの消費は拡大傾向にあり、地域経済の活性化や中小企業の新事業創出の源泉となる可能性を秘めている。そこで今号では、推し活消費をどう捉えればビジネスチャンスにつなげられるか、ニッセイ基礎研究所・研究員の廣瀬涼さんに聞いた。
廣瀬 涼(ひろせ・りょう)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部研究員
「オタク文化」の系譜を継ぐ「推し活」ブーム
―あらためて「推し活」とは何かを教えていただけますか。
廣瀬涼さん(以下、廣瀬) 一般的には、芸能人、アニメキャラクター、ゲーム、Vチューバー、スポーツ選手など、特に好きな「推し」をグッズ購入やイベント参加、聖地巡礼、SNSでの発信などで応援する活動全般のことです。誰かのファンであれば、こうした活動は珍しくありませんが、推し活は時間もお金も注ぎ込んで熱中しているのが大きな特徴で、元は「オタク文化」の流れから生まれたと考えています。
―1980年代頃から始まったムーブメントですね。
廣瀬 オタクのことを私は、興味のある特定の対象に対して熱心に時間やお金を注ぎ込むとともに、精神的に正の方向にも負の方向にも大きく変動するほどのめり込んでいる人と定義しています。例えば、好きなアイドルを応援していると大きな喜びや高揚感を得る一方、そのアイドルが結婚してしまったらどん底に落ちてしまうといったような。それくらい強い感情を注ぎ、時には生きていく指標にさえなり得る対象が「推し」と呼ばれ、その応援活動を「推し活」と呼ぶようになりました。
―では、「推し=人」ということでしょうか。
廣瀬 元はそうですが、変化のフックとなったのは、AKB48の登場と考えています。彼女たちの選抜総選挙が大きな関心事となったことで、テレビ番組や雑誌企画で「あなたの推しは何ですか?」という問いが社会化しました。推しの対象がカフェやラーメンなど有形・無形のものへと拡大し、趣味全般を指すカジュアルな言葉へと変容した結果、「1億総“推し活”社会」と言われるほど対象が広がっています。
―元々趣味で親しんでいたことを推し活とラベリングしたことが、推し活のムーブメントを後押ししたということですか。
廣瀬 その側面は大きいと思います。かつて「オタク」という言葉はネガティブなイメージで捉えられることが多く、趣味を楽しむ人たちとはどこか分断された存在と見なされていました。しかし、推しにせよ趣味にせよ人生観にまで影響を受ける体験は、対象が何であっても共通しています。「推し活」という言葉が広まったことで、相手が何を推しているのか詳しく知らなくても、「推しがいる」「推し活をしている」という状態そのものは理解し合えるようになりました。これが、今日の推し活ブームの背景にあると感じています。
推し活消費は“青天井”!? 数字が物語る現在地
―実際に推し活をしている人は、現在どれくらいいる、と推定されていますか。
廣瀬 先ほど「1億総“推し活”社会」と申し上げたように、誰でも何かしら趣味を持っていると考えると、対象を人に限定しなければ、かなり多くの人がやっていても不思議ではありません。参考値ですが、Z世代に限れば約80%が推し活の経験ありと回答し、女性の方が多い傾向にあります。
―推し活は、若い世代ほど熱心と言えますか。
廣瀬 一概にそうとは言えません。例えば、ディズニーには老若男女にまたがる巨大なファン層があり、高年齢層の方が消費する金額が大きい。一方、資金力の乏しい若い世代が推し活に励むのは、「現在志向」が強いからではと分析しています。仕事や勉強などへの優先順位やモチベーションが低下すると「自分自身を満たすこと」の優先度が高くなります。今を生きるため、自分を満たす活動や消費、つまり推し活が仕事や勉強をやるためのモチベーションになるわけです。そういう意味で、推し活を10個近くもやっているという人もいます。
―推し活をすればするほど、お金がかかりますね。
廣瀬 すごくかかります。新作グッズの購入、ライブやイベントへの参加、交通費や宿泊費、さらにはスーパーチャットをはじめとする投げ銭(金銭を支払って応援する機能)など、消費することが自分を満たすことにつながるので、推し活に熱心になればなるほど、消費することそのものに熱心になっていくという構図があります。
―推し活の市場規模は8000億円という試算もあれば、3兆5000億円という試算もあります。実際のところどれくらいなのでしょうか。
廣瀬 調査によって結構バラつきがあります。私自身、市場規模や経済効果の単純集計には懐疑的で、推し活消費は“青天井”な側面があると考えます。例えば、ある調査でディズニー推しの年間平均消費額が6万円と紹介されていましたが、普通に考えて6万円で足りるはずがありません。実際、ディズニー推しのガチ層(全力で取り組んでいる人)は、年間数百万~数千万円程度消費していると想定されています。
―なぜ、数値がそこまで乖離(かいり)しているんですか。
廣瀬 平均値ですから、中には推し活に全くお金を使わない人も含まれています。実際、Z世代の約4割は“一切お金を使わない推し活”をしているというデータもあり、消費の熱量は個人差や年代差が大きい。資金力のある高年齢層がたくさん消費し、資金力の乏しい低年齢層に対してマウントを取るようなケースもあります。
―今後も「推し」関連の市場は拡大していくでしょうか。
廣瀬 平そうなっていくと思います。
周辺の見えざる消費 「推し活市場」に大きな可能性
―「推し」関連市場は現在、推しの対象が人だけでなくモノやコトにも広がっているとのことですが、その経済実態をどのように理解したらいいでしょうか。
廣瀬 市場としては、大きく「推し市場」と「推し活市場」があると考えます。推し市場は、公式グッズやライブチケットなど、支払ったお金が直接推し本人の利益につながる消費です。一方、推し活市場は、その周辺の見えざるモノへの消費です。
―周辺の見えざるモノへの消費とは……?
廣瀬 例えば、推しのライブに行く際、チケットや公式グッズ以外に、ライブに着ていくファッションやアクセサリー、髪染め、公式うちわやペンライトを収納するケースなど、応援を充実させるために使われるお金です。こうした消費は統計に反映されにくいですが、裾野としてはものすごく広い。
―推し活をしている自分をさらに満足させるための消費ということですか。
廣瀬 その通りです。象徴的な例として“推し色市場”というものが存在します。例えば、「秘密戦隊ゴレンジャー」から始まる戦隊ものシリーズは、5人の変身ヒーローにそれぞれ色が割り当てられています。今ではアイドルグループ、漫画やアニメキャラにもメンバーそれぞれに担当の色があり、ファンは、その色を身に着けることで応援の気持ちを表現します。推しの色が赤だったら、赤い靴下を買う行動も推し活の一環というわけです。
―これなら資金力の乏しい中高生などでも推し活ができます。
廣瀬 そうですね。消費する側もさまざまな工夫で推しを応援することができます。また提供する側としても、推し市場はIP(知的財産権)、つまりは公式ライセンスがないと展開できませんが、推し活市場ならIPがなくても展開できるので、ある意味誰にでもどんな業種でもできてしまうところに可能性があると言えます。
「強み×ニーズ」で切り開く中小企業の参入戦略
―中小企業や地方企業が「推し」関連市場への参入を検討するなら、まずはどのようなことから始めるとよいでしょうか。
廣瀬 どの企業にもそれぞれ自社の強みがあるはずです。その強みが推し活のニーズに合わせられるかどうかが鍵になります。もし、自分が推し活の当事者だったら「本当に使いたいか」を判断軸にするといいと思います。当事者じゃないから見当もつかないというなら、社員に推し活をしている人がいないか探してみてください。1人や2人は、ガチで推し活をしていると思うので参考になるでしょう。中高生の子どもがいるなら、推し活に際してどんな物が欲しいかを聞いてみるのも有用な指標になるはずです。
―自社の強みを生かせるヒントが見つかったとして、具体的にどのようなアプローチをしていったらいいですか。
廣瀬 「推し活市場」へのアプローチになりますが、推し色は、取り組みやすいと思います。商材としては、文房具などがやりやすいですが、例えば既存の自社商品のカラーバリエーションをアイドルやアニメキャラクターなどの担当カラーに合わせるとか、逆にものすごくニッチな色だけに絞って展開することで需要が動く可能性があります。
―やはり「色」は取り入れやすいですね。
廣瀬 商品に限らず、色を工夫したサービスも考えられます。例えば、ケーキやドリンク、装飾に至るまで、特定の色で統一したアフタヌーンティーを提供しているホテルがあります。推し色を背景にして写真を撮れば、SNS映えするじゃないですか。そんな需要を狙ったものです。同様に、東京・原宿にはお客が望む色でドリンクをつくってくれる「推しドリンク」の店があります。高額な公式グッズを買う資金力がない中高生でも、500~600円のドリンクなら買えるし、「自分と推しの接点」を可視化する体験ができるということではやっています。
―推し色以外に、どのような着眼点がありますか。
廣瀬 自社商品をリブランディングする方法があります。例えば、ライブ中に飛んでくる銀テープをきれいに巻いて収納したいというニーズを狙って、100円ショップがそれまで別の用途で販売していたケースを、「リボン入れ」と改称して販売したらヒットした例がありました。同じく防災グッズの耐震ジェルを「フィギュア固定」や「アクリルスタンド固定」と名付けるだけで、需要が伸びたという例もあります。こうした用途の言い換えだけで、注目が集まる可能性があります。
―「推し市場」でのアプローチになりますが、人気キャラとコラボする方法などはいかがですか。
廣瀬 「けいおん!」というアニメに登場する「ムギちゃん」というキャラは眉毛が太く、たくあんと言われていたところから、漬物メーカーがコラボして「ムギちゃんの眉毛」という商品をつくり、公式グッズとして販売されたという例があります。こうしたケースはスタンダードになっているので、自社商品がどんな人にどのような場面で消費されているかを認識することが大事だと思います。
―「推し」関連消費を刺激するサービスの例はほかにありますか。
廣瀬 「オタク向け」をうたったパーソナルジムがあります。アニメキャラのポスターを館内の至る所に貼ったり、声優ボイスが流れる演出をするなどしてターゲットを絞り、「推しに会うために痩せたい」「コスプレのために筋肉をつけたい」といったニーズをつかんで集客に成功しています。
―「推し」関連市場に参入するには、まず自社商品やサービスが推し活にどう使われるかを考えてみることが重要ですね。
廣瀬 自社の類似商品が推し活でどう使われているか、SNSで情報収集することをお勧めします。自社商品やサービスが「何に生かせそうか」が見えてくれば、価値の提案やリブランディングが可能になります。やはり「強み×ニーズ」の再発見が、新たな市場の扉を開く起点となるでしょう。
人がバズる→商品がバズる SNSで推し活市場を開拓
―「推し」関連市場で事業展開する際、SNSを活用するポイントについてお聞かせください。
廣瀬 SNSを活用するとき、商品をどうバズらせるかを考えがちですが、むしろ「商品を使っている人」をバズらせるのが基本です。推し活をしている人の欲求は、他者の消費行動の影響を強く受けるので、ほかの誰かの使用体験やストーリーの方が拡散しやすい。実例として、焼き肉店でカップ焼きそばを食べている人の動画がバズって、短期間にそのカップ焼きそばが5万食売れたケースがありました。これは、カップ焼きそばメーカーが焼き肉店と組んで仕掛けたものでしたが、商品ではなく人がバズったから商品が注目された構図です。「売ってやろう」というにおいを消して、一般人による自然発生的な拡散に見せることがポイントです。
―「使っている人(消費者)」というのは、なかなかハードルが高いですが……。
廣瀬 もちろん、中の人(社内の人)がやってもいいでしょう。地方のスーパーの店長と副店長が店内で歌を歌うという動画にたくさんのフォロワーがついた例や、老舗豆腐店の若い後継ぎが投稿する豆腐をつくる日常がバズった例などがあります。そこで典型的なパターンとして、「社長! 質問が来ています」といった形で、商品にまつわる質問に社長が答えるという動画を配信するのも方法です。社長の話し方やキャラクターが面白いと思われれば、ファンがついて閲覧数も増えていくし、実際にそういう事例はたくさんあります。
―SNSでバズが生まれれば、消費を喚起するきっかけになりますね。
廣瀬 そうですが、必ずうまくいくとは限りません。何かをきっかけに炎上してしまうケースだってあり得ます。そうした状況を回避するためにもエゴサーチをして、常に自社のSNSに対する反応を観察し、少しでもネガティブな反応があったときには、すぐに対応できるようにしておくことが大事です。
―ほかにも注意すべき点はありますか。
廣瀬 これは「推し」関連市場に限りませんが、人の消費行動は年々流動的かつ短命になっています。今日はやっていたものが明日には廃れてしまう可能性さえあります。SNSで自社商品がはやっているからと生産量を増やしたら、ブームが去って大量の在庫を抱えてしまうケースも考えられます。予測は難しいですが、自社商品がなぜはやったのかを分析し、市場の動向を常に知っておくことは必要だと思います。
―安易なSNS活用は、リスクが伴うということでしょうか。
廣瀬 大企業でさえSNSはプロがやらないとついていけない時代なので、中途半端にやるのはお勧めしません。やるならコストはかかりますが、SNSの専門部署をつくるなどして、本腰を入れて取り組んだ方がいいでしょう。その上で消費者と接触する回数が増えれば、人や商品にまつわる歴史やエピソードも伝わり、親近感や愛着が湧いて消費につながる可能性が高まります。
―推し活のガチ層にはガチで取り組むことが大切ですね。
廣瀬 そもそも人は消費することが好きなんです。推し活をしている人は、推しのために消費することが精神的満足感や生活の潤い、仕事や勉強などへのモチベーションにつながっています。それを常に念頭に置いて新事業を考えるといいと思います。
―推し活が何か特別なものではなく、さまざまなモノやコトが推しにつながる可能性を秘めていることが分かりました。最後に、推し活市場に新たな期待を寄せている中小企業に向けてメッセージをいただけますか。
廣瀬 推し活に自社の事業を結び付けようと検討することは、自社の強みや自社商品のニーズをあらためて考える機会になるはずです。いま一度、自社商品やサービスが世の中にどう受け入れられているのかを、SNSを通じてのぞいてみるだけでも、新しい世界が見えてくるのではないでしょうか。
「推し」関連市場の二層構造
●推し市場(オフィシャル)
公式グッズやCD、ライブチケットなど、支払いが推し本人に直接利益として届く
●推し活市場(周辺消費)
ライブ・イベントなどの遠征費や宿泊費、推しに関連したファッションや髪染め、ライブグッズを収納するケース、ダイエットなど、推しの応援を充実させるための消費。統計には表れにくいが、裾野は圧倒的に広い
中小企業のための「推し」関連市場への参入戦略
アプローチの例
●「推し色」展開 アイドルグループ、漫画・アニメキャラクターなどには、各メンバーに固有のイメージカラーが割り当てられていることが多い。推しの担当カラーと同じ色のものを身に着けたい、持っていたいというニーズに合わせて、自社商品のカラーバリエーションを展開する
●リブランディング ライブで飛んでくる銀テープやリボンを収納しておきたいというニーズに対し、もともと別の用途で販売していた商品を「リボン入れ」と名称変更してヒットさせた事例がある。防災グッズの耐震ジェルも「フィギュア固定」「アクリルスタンド固定」と打ち出すだけで訴求力がアップする
●異業種コラボ(推し市場) アニメキャラクターの特徴に通じる要素があったことで、たくあんとアニメのコラボ商品が誕生し、公式グッズとして販売された事例がある。あるいは、人気アイドルが「○○県特産品の○○が大好物」と言ったというエピソードから注目が集まるケースも多い
●異業種コラボ(推し活市場) バルーン装飾、推し色のスイーツやドリンク、大画面プロジェクターなどで彩った「推し色パッケージ」を展開しているホテルが複数ある。周囲を気にせず、思い思いに推し活を楽しめると好評
●推し活の前段需要の創出 声優ボイスによる演出や館内デコレーションなどを施し、「オタク専用」をうたったジムがある。「推しに会うために痩せたい」「コスプレのために筋肉をつけたい」といった動機に直結して集客に成功
SNS運用のポイントとリスク管理
●商品ではなく「人」でバズらせる 商品をアピールするより、商品を使っている人にスポットを当てる。人に注目が集まってバズが起これば自然とファンがついてくる
●エゴサーチで常時観察する 投稿がネガティブに捉えられたり、炎上してしまうケースもある。回避するにはエゴサーチをして反応を観察し、早めに火消しの対応が取れるようにしておく
●消費行動が流動的・短命である可能性を理解する 今日はやっていたものが明日もはやっているとは限らない。年々、人の消費行動は流動的かつ短命になっており、無駄な在庫を抱えないためにも動向を冷静に分析したい
●専門部署をつくり本腰を入れて取り組む SNS活用は余裕があればプロに任せたい領分。自社でやるなら本腰を入れて取り組みたい。継続的に配信して消費者との接触機会を増やすことで、親近感や愛着が増し、推してもらえる可能性が高まる
