ファッションを通して日本文化を次世代につなぐ
株式会社Ay 代表取締役 村上 采(むらかみ・あや)
原点は伊勢崎銘仙
私が生まれ育った群馬県伊勢崎市には、かつて「伊勢崎銘仙」という絹織物文化が栄えていました。しかし、私が幼い頃にはすでに産地のにぎわいは薄れ、地元の人でさえ目に触れる機会がほとんどありませんでした。中学生の時、授業で偶然見た銘仙の大胆な柄と鮮やかな色彩に衝撃を受け、「こんなに美しい文化が地元にあったなんて」と胸が熱くなりました。この体験が、私のものづくりの原点です。
高校時代の米国留学では、着物をまとって参加したイベントで現地の方から「美しい」と声をかけられ、日本の織物文化が世界で評価される瞬間を目の当たりにしました。一方で、文化は継がれなければ消えてしまう、という危機感も抱きました。この二つの経験が結び付き、大学在学中に「Ay」を立ち上げる決意を固めました。
Ayは「100年の時を超える、まとうアート」をコンセプトに、日本の伝統織物を現代のライフスタイルへ再編集するブランドです。銘仙の着物を1点ずつほどき、新しい衣服へと再生するアップサイクル事業に加え、日本各地に眠る織物図案をデジタルアーカイブ化し、現代の技術でよみがえらせる取り組みも進めています。伊勢崎銘仙ならではの、遊び心のある色彩や繊細なかすりを、デジタル技術で再現することで、失われつつある美を次世代へつないでいます。
特にエプソン社と協働したテキスタイルプロジェクトでは、デジタルプリント技術「Monna Lisa」を活用し、従来の染色に比べて水や資源の使用を大幅に抑えながら、必要な量だけを生産するサステナブルな仕組みを実現しています。伝統の美しさはそのままに、現代の環境に適したものづくりを可能にする技術は、これからの産地に欠かせない存在だと感じています。
国内外での幅広い活動目指す
創業当初は、生産背景の構築や職人さんとの関係づくりなど、全てをゼロから積み上げる日々でした。銘仙は1点ごとに状態が異なり、扱いも難しいため、パターン調整や縫製方法の研究では何度も壁にぶつかりました。しかし、お客さまが「デザインに引かれた」「毎日着たい」と言ってくださる瞬間に、文化が確かに“今を生きている”と実感します。デザイナーと試行錯誤し、産地で工場や職人と試作を重ね、新しい表現が生まれる瞬間もこの仕事の大きな喜びです。
今後は、群馬と東京を拠点としたテキスタイル開発をより深化させるとともに、パリやニューヨークでの展開を通し、日本の織物文化を世界へ循環させる仕組みづくりに取り組んでいきます。さらに、地域に文化を体験できる拠点をつくり、その魅力を全国へ、そして世界へと発信し、次世代が地元の文化に誇りを持てる環境を整えていきます。
文化は過去のものではなく、関わる人の手で未来へ編み直されるものです。地元の文化に救われた一人として、Ayの活動を通じてより多くの人の人生を照らし、文化がライフスタイルとして息づく未来をつくっていきたいと思います。
会社データ
社名 : 株式会社Ay(アイ)
所在地 : 群馬県前橋市千代田町1丁目14-18
創業 : 2020年
事業概要 : 小売り・デザイン業(伊勢崎銘仙をアップサイクルした衣服や小物を販売するカルチャーブランド「Ay」の展開)
【前橋商工会議所】
HPはこちら : https://www.ay.style/
※月刊石垣2026年4月号に掲載された記事です。
