事例2 オンラインに着目し既存の取引先プラスα 海外に出向かず手堅く販路を獲得
志津刃物製作所(岐阜県関市)
刃物のまち、岐阜県関市で、1959年に創業した志津刃物製作所は現在、家庭用刃物の製造販売を中心に国内外で事業を展開している。コロナ禍により海外の展示会が軒並み中止となる中、ジェトロ(日本貿易振興機構)が展開する越境ECモール「ジャパン・モール」を活用し、既存の取引先プラスαの海外販路を手堅く開拓している。
「デメリットなし」の判断でジャパン・モールに参画
岐阜県関市の刃物の歴史は古く、800年前の鎌倉時代にさかのぼる。同市でつくられた日本刀は「折れず、曲がらず、よく切れる」と武士の間で話題になり、日本刀を筆頭に刃物産業が栄えていった。今ではドイツのゾーリンゲン、英国のシェフィールドと並ぶ〝世界三大刃物産地〟として海外の認知度も高い。
「ゾーリンゲンの刃物メーカーの工場が関市にあって、ドイツ土産に刃物を買ったら、メイド・イン・ジャパンと記されていたという笑い話もあるほどです」
そう言って笑うのは、志津刃物製作所の三代目で代表取締役社長の堀部久志さん。コロナ禍で勢いを増す越境EC市場だが、同社はコロナ前、それも創業当初は海外輸出向けのポケットナイフのOEM事業で成長したメーカーであり、輸出実績は豊富だ。輸出相手国はヨーロッパやアジアを中心に20カ国以上に及び、海外展示会の出展経験も多い。そのため、越境ECへの参画にも抵抗がなかったという。数ある越境ECサイトの中で活用しているのはジャパン・モールのみだ。
これは2018年度からジェトロが展開している海外向けEC販売プロジェクトで、世界60カ所以上の海外ECサイトと連携して日本の商品を海外に販売する。複雑な輸出手続きや登録料は一切不要で、原則として、国内納品、国内買い取り、円建て決済で取引が完結する。バイヤーがジャパン・モールをチェックして気になる商品があれば、その商品を出品した企業との商談(オンラインまたはオフライン)のアレンジやサンプル依頼などの調整が行われる。商談成立の商品は「委託」ではなく「買い取り」になるため、バイヤーから返品されるリスクもない。
「デメリットを感じない以上、やらない手はない」と堀部さんはためらいなく参画したという。
入金後の発送で安心して利用できるメリット
もともと同社は、ジェトロが03年に設立された当初から交流がある。12、13年からはドイツのフランクフルトで開催されるアンビエンテ(世界最大級の消費財見本市)に毎年出展、海外販路を広げてきた。
「来場されるバイヤーに認知されるまでには4、5年かかります。それを覚悟して出展し続けた結果、欧州を中心に販路が広がりました。会場で会うだけではなく、お客さんの所にも足を運ぶと、その後、ほとんどの人が関市まではるばる来てくださる。そうして信頼関係を築いてきました。しかし、コロナ禍で渡航が難しくなり、新たな出会いの場としてジャパン・モールを活用しています」(堀部さん)
だが、長年の交流が参画の決め手ではない。同社の海外事業を担う営業企画の和田浩明さんは言う。
「ジャパン・モールは、簡便なつくりで、使いやすいです。それに越境ECサイトの多くが商品発送後の入金ですが、ジャパン・モールは入金後の発送。金銭トラブルなく安心して利用できる点が最大のメリットと捉えています」
ジャパン・モールを介して、オーストラリアのProvider StoreとSUSHIFACTRYと成約し、コロナ禍にあっても海外に新たな販路を獲得している。
既存の顧客を重要視しさらなる信頼関係を築く
だが、ジャパン・モールに出品すれば必ずしも引き合いがある、というわけではない。バイヤーの目に留まるように創意工夫が必要なのは、海外展示会と同様だ。商品力の高さのほかに〝見せ方〟にも注力し、同社ではプロのカメラマンを起用した商品写真を登録し、英文での商品説明も丁寧にしている。
「すでに自社の公式サイトの英語版を作成しており、自社ECサイト用の写真ストックもありました。ジャパン・モールへの出品で新たに用意したのは、会社紹介用のスライドショーだけです」と和田さん。かねてより英語のスキル、商品写真のクオリティーを追求していたからこそ、ジャパン・モールでの出品も奏功したようだ。
だが、新規顧客の拡大を狙わず、既存顧客を重要視し、出品は1シリーズ1国1バイヤーとの取引を原則とし、既存顧客が扱っている商品とかぶらないように配慮している。
「コロナ禍で、家庭用の刃物の需要は総じて伸びています。弊社も1回目の緊急事態宣言の際には週休3日制を採用したものの、前年比で10%アップ、実質20%ほどの伸び率です。追い風とはいえ、どれだけ信頼関係のある販路を築き、維持できるかが鍵です。その手段としてジャパン・モールは非常に有効ですが、深追いはしません」(堀部さん)
今後は中東や南米の販路も開きたいとオンライン、オフラインを柔軟に使い分け、冷静に海外市場に繰り出す狙いだ。
会社データ
社名:有限会社志津刃物製作所(しづはものせいさくじょ)
所在地:岐阜県関市小瀬2771-1
電話:0575-22-0956
HP:https://www.shizuhamono.net/
代表者:堀部久志 代表取締役社長
従業員:15人
【関商工会議所】
※月刊石垣2021年9月号に掲載された記事です。
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