事例4 海外YouTuber×越境ECモールで 安い、早い、簡単な海外販売を構築
鯖江商工会議所(福井県鯖江市)
鯖江商工会議所は、本誌16ページで紹介した越境ECモール「ゼンプラス」に海外YouTuberのプロモーションを掛け合わせ、海外販売未経験でも挑戦しやすいワンストップサービスを構築した。その名も「CROSS BORDER SABAE」。日本初となるシステムで、商品やサービスの〝国境越え〟を容易にする。
DX推進の一環で「CROSS BORDER SABAE」
世界三大眼鏡産地である福井県鯖江市。眼鏡以外にも漆器、繊維が地場産業としてあるが、コロナ禍前からどれも全盛期ほどの勢いはなく、コロナ禍でさらに厳しさが増している。逆境の中でも業績を上げている企業はあるが、一部の企業が成長しても地場産業としての〝面〟の底上げには至っていない。
そこで鯖江商工会議所が課題解決に向けて本格的に取り組んでいるのが、デジタル技術やデータを駆使してビジネスモデルを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進だ。その取り組みの一環として、今年2月、「CROSS BORDER SABAE」をリリースした。ゼンプラスの仕組みについては前ページで紹介した通りだが、商品プロモーションにYouTuberが関わる画期的なサービスになっている。
一例を挙げよう。鯖江市内のスポーツサングラス専門販売会社ジゴスペックは、世界特許取得の鼻パッドのないスポーツサングラス「AirFly」を開発した。付け心地の良さをPRするべく対面販売で売り上げを伸ばしてきたが、コロナ禍で苦戦を強いられていた。そこで本サービスを活用し、AirFlyをチャンネル登録者数9万人超えの大阪在住の人気香港人YouTuberが、自身の動画で紹介。付け心地や製造現場を丁寧にレポートし、動画の概要欄にゼンプラスのURLを貼って、ワンクリックで商品サイトに飛べるようにした。同時に香港の取扱店舗への誘導も図り、香港の売り上げ増加に導いた。
YouTuberのマッチングは「PROMO JAPAN」という海外YouTuberのプロモーション事業を展開するダイレクトが担当しており、鯖江商工会議所、ゼンマーケット、ダイレクトのトリプル連携で、海外での商品販売を可能にしている。
中小零細企業が気軽に「海外に売る」場を提供
CROSS BORDER SABAEを利用する際には、事前に鯖江商工会議所、ゼンマーケット、ダイレクトがどんな商品を誰に、どんな国で販売したいのかなどを利用者にヒアリングし、商品の強みを引き出す。同時に、海外向きの商品かどうかの見極めも慎重に行い、CROSS BORDER SABAEのクオリティー、信用度を上げることで利用促進を図っている。
「ゼンプラスはB to C向けのサイトなので、B to B商品は不向きですが、小ロットで試しやすいというメリットがあります。まずはB to Cで実績を築き、B to B対象の越境サイトなど複数のサイトと連携することでCROSS BORDER SABAEの完成度を高めて、地域ブランドを気軽に海外へ発信できるようにしたいです」
そう語るのはCROSS BORDER SABAEの発起人である鯖江商工会議所の経営支援課課長の田中英臣さんだ。中小零細企業の誰もが利用できるサイトへのブラッシュアップはこれからが本番と意気込む。国内の市場が縮小傾向にある中、海外市場への進出は避けては通れないが、そのハードルは決して低くはない。今あるノウハウ、人材で海外へ発信する仕組みはできないかという発想からCROSS BORDER SABAEは生まれたという。
デザイン思考で地域の全体最適を図る
そのベースにあるのが「デザイン思考」だと田中さんは説く。これはデザインに必要な考え方や手法でビジネス上の課題解決を図るというもの。生産者ではなくユーザーの視点で、顧客を理解・共感することを経て潜在的なニーズを掘り起こし、問題定義、アイデア創出、試作、検証のサイクルを繰り返すことで商品の完成度を高めて市場にリリースしていく。AppleやGoogleなどで採用されたアプローチ法で、鯖江商工会議所もデザイン思考を活用している。
「地域ブランドの確立とイノベーションの創出を実現するには、ビジネスだけではなく、デザイン、テクノロジーの視点が不可欠です。まずは鯖江商工会議所の『全体最適』を図り、地元の金融機関や市、大学とも連携し、CROSS BORDER SABAEを発展させて地域全体の『全体最適』を図れたらと考えています」と田中さん。CROSS BORDER SABAEは軌道に乗れば、鯖江以外の商工会議所も応用できるシステムである。各地の地場産業や風土、文化の底上げ、ひいては県境や国境を超えたイノベーションも想定して設計しているという。
「宇宙ビジネス産業が勢いづく時代で、今や『世界』は最大単位ではありません。鯖江には唯一無二のモノづくり産業がある以上、世界一を狙えると思っています」
そのためのシステム化が、デザイン思考で加速している。
会社データ
鯖江商工会議所
所在地:福井県鯖江市本町3-2-12
電話:0778-51-2800
※月刊石垣2021年9月号に掲載された記事です。
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