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テーマ別企業事例 地域の力を結集してコロナなんかで倒れない! 稼げる農商工連携で逆境を乗り切る

長引くコロナ禍の影響により、事業継続や雇用維持などの面で極めて厳しい経営環境に置かれている中小企業が増えている。今こそ、自社が培ってきた強みを生かし地域の農・水産業と連携し、地域の特産品を売り出す「稼ぐ力」を生む新たな戦略が問われている。そこで、コロナ禍に負けず地域の力を結集して“稼げる”農商工連携を進めている企業の戦略に迫った。

事例1 三陸沖の魚を使った料理を直接販売し地域全体の産業活性化に貢献する

小野食品(岩手県釜石市)

東北地方の三陸沖は、北からの親潮と南からの黒潮が交わり、漁獲量が多いことから世界三大漁場の一つとして知られている。そこに面する岩手県釜石市で、小野食品は地元の新鮮な水産物を使った加工品の製造・販売を行っている。一次産業である漁業関係者と連携して自社通販ブランド「三陸おのや」を構築することで、全国の消費者への直接販売を展開しており、このコロナ禍の中でも業績を大きく伸ばしている。

本社工場。消費者向け商品だけでなく、学校給食や高齢者向け介護食も製造している

東日本大震災の大打撃で通販事業に注力する

小野食品は、社長の小野昭男さんが家業の海産物販売業を継いで1988年に設立し、自社工場で焼き魚や煮魚の冷凍食品を製造して外食産業や産業給食、学校・病院向け給食などに納入していた。しかし、中国から安い食品が輸入されるようになっていく中、納入先から値下げを要求されることも多く、なかなか安定した収益を得ることができなかった。

「そこで、試行錯誤しながら手づくり感覚のあるおいしい魚料理をつくり、多少高くてもおいしいものを求めている消費者に直接販売する事業の『三陸おのや』を始めました。それが東日本大震災の2年ほど前でした」と小野さんは言う。

2011年の震災では、三つの自社工場のうちの二つが全損、一つが半損という大きな被害を受けた。震災から100日後には半損の工場を改修して生産を再開したが、当時の事業の主力だった外食産業と産業給食の売り上げが戻ることはなく、6割以上の減少となった。実はこの分野は震災前からすでに海外生産品に押され、少しずつジリ貧の状態になっていたのだった。

「そこで、自分たちの強みが発揮でき、震災後も伸びしろがあるのは何かと考えました。2年前に始めた通販事業が大きく伸びる手応えがあり、業務用では、学校と病院給食で変わらず注文をいただいていたことから、この二つの事業に集中していくことにしました。それが結果的に功を奏して、その後は業績を大きく上げていくことができました」

価格でなく品質や味で評価される道を選んだことが、地元の漁業にも好影響を与えることになった。

地域の漁協や水産加工業者と連携して原料を仕入れる

通販事業の「三陸おのや」では、サバの味噌(みそ)煮、サケの塩焼など三陸産の原料を主とした焼き魚、煮魚などを冷凍食品で販売している。また、旬の魚料理を毎月定期送付する「海のごちそう頒布会」は、毎回メニューが異なり、自家消費だけでなく、贈答用としても好評を得ている。

「この『海のごちそう頒布会』を定期的に購入されているお客さまは現在約5万7000人で、震災時の5000人から大きくアップしました。これにより会社の売り上げも、震災の年の3月決算は15億円弱だったものが震災により半分にまで落ち込みましたが、その後は通販事業が右肩上がりで、昨年の3月決算では32億円にまで伸びました。この1年間でさらに増加し、39億円にまで達しています」と小野さんは胸を張る。

この成長を支えてきたのが、料理の原料を提供する近隣の漁業協同組合(漁協)や水産加工業者との連携である。例えば、岩手県内の別の地域の漁協から養殖のカキを年間契約で一定量購入しており、水産加工業者からは、指定したサイズのブリやサンマを選定して冷凍したものを、同様に毎年一定量購入している。また、調理の前段階の加工処理を一次加工業者に委託している原料もある。

「必要になったときに必要な量を購入するのではなく、(それぞれの魚介類の)シーズンの初めに年間購入の約束をして、そのときに決めた量と値段で購入しています。ある程度のボリュームを購入しますし、値段も厳しいことは言いません。そして、約束した量を常に責任持って全部買い取っています。そうすることで先方の業者さんは仕事量や収入が安定するので、喜んでいただけていると思います。例えばカキを養殖している県内の漁協さんからは、最初は350㎏ほどのむき身を年間購入していましたが、今ではそれが4tほどになっています」

取引先へのアドバイスで質を守り、技術を上げる

ただし、原料を提供してくれるなら業者はどこでもいいというわけではない。消費者の手元に届ける製品の品質や味を守るためには、原料となる魚介類が一定の品質でなければならない。そのために同社では、原料を提供する業者を厳選し、品質管理について指導もしている。

「まず、量や値段ではなく、品質を第一にしている業者さんとお付き合いしています。そして、こちらが求める品質を先方に理解していただくことはとても重要なので、うちの社員が加工工場を訪問し、衛生管理や品質管理の状況を見せていただき、技術的なアドバイスをすることもあります。また、先方が一次加工した魚の切り身に小骨が残っているなどの問題があった場合は、身のどこにどれだけ残っているかまで伝えています。そうすることで私たちは品質を守ることができますし、先方にしても、私たちと仕事をすることで技術を磨くことができるので、お互いにハッピーなわけです。先方はうち以外にもほかに多くの取引をされているので、向上した技術を用いてほかの販路にも生かせるのなら、どんどんやってくださいと先方にも伝えています」と小野さんは笑う。

地元の水産加工業者とこのような信頼関係を結んでいくことで、品質の高い原料を年間を通して仕入れることができるようになる。それにより同社は二次加工に集中することができ、増えていく販売数に合わせて生産量を上げていくことができるのである。

三陸沖の魚を使って海外にも通用する魚料理を

原料の良さだけでなく、もちろん味にも強いこだわりを持っているからこそ、同社の製品は多くの定期購入者を全国各地で獲得している。

「味については、まず鮮度の良い原料を仕入れることと、下ごしらえをいかに丁寧にするかです。20年ほど前に実際に板前さんに来ていただき、和食の基本を教わりました。私たちはそれを数値化し、工場で再現できるよう努力してきました。味付けはうま味調味料を一切使わず、大鍋でかつお節を山のように入れてダシをとっています。つまり、和食店の板前さんがしていることを、工場で愚直にするということに尽きます。今では毎週月曜日の午前中に、開発担当チームが新しい料理や味を改良したものを、私を含めた社内の8人ほどでチェックしています。新規商品のメニューについては、20回以上の試食を重ねて半年前に決めています」

同社の事業は消費者への直接販売が主であることから、コロナ禍では大きな影響を受けず、むしろ巣ごもり需要から売り上げを以前よりも伸ばしている。

「10年後、20年後には、海外にも通用する魚料理を広めていきたいというビジョンを持っています。そこでは、いろいろな種類の新鮮な青魚が集まる三陸沖の魚を使っていきたい。こうすることで、地域全体の産業の活性化に私たちが少しでも貢献できたらと思っています」と小野さんは結んだ。

三陸沖の豊かな漁場という強みを生かし、同社は地域の業者と連携して、これからも地域とともに発展し続けていくことを目指している。

会社データ

社名:小野食品株式会社(おのしょくひん)

所在地:岩手県釜石市両石町4-24-7

電話:0193-23-4675

HP:http://www.onofoods.com/

代表者:小野昭男 代表取締役

従業員:145人

【釜石商工会議所】

※月刊石垣2021年8月号に掲載された記事です。

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