事例3 「売り物」「売り方」を多角化し職人気質で時代の荒波を乗り越える
ヤマミ醸造(愛知県半田市)
「自家製野菜を使ったオリジナル商品をつくりたい」という農家に対し、醤油(しょうゆ)メーカーのヤマミ醸造は、調味料製造をサポートしている。それも問い合わせから納品まで最短で約20日という早さで、ラベルメーカーと連携してパッケージデザインも担う。この農商工連携の経験から今、事業は多角的に発展している。
〝たまり〟の持ち味と技術力でニッチを攻める
全国に醤油メーカーは1000社ある。そう聞いて「多い」と思うかもしれないが、ヤマミ醸造の代表取締役、竹内三之さんは大きく首を横に振った。
「1955年には全国に約6000社がありました。それが年々減少して、1000社です。近年では毎年30社ペースでなくなっています。その中でいかに生き残っていくか、シビアな業界です」
加えて同社は後発メーカーである。57年の創業だが当初は販売のみで、製造を始めたのは3年後の60年だ。そこで注力したのが地元、愛知県半田特産の「たまり醤油」に特化したオンリーワンの醤油メーカーというポジションだ。OEMを主軸に、77年にはあられやせんべいなどの米菓業界に米菓用調味液を、84年には焼き肉のたれなどの調味液の製造にも着手している。
「醤油には濃口(こいくち)や淡口(うすくち)など大きく5種類ありますが、全体の約83%が濃口で、約14%が淡口、たまりはわずか2・2%。量、価格とも太刀打ちできません。その半面、たまりは熟成期間も長く、大手メーカーはつくりたがらないのです。たまりは色が濃厚ですが塩分は控えめで、なんといっても天然のうま味が豊富。ここに勝機があります」と竹内さん。
さらに米菓メーカーからの「醤油の色を抑えてほしい」という要望に端を発して、うま味はそのままに脱色、脱塩できるオンリーワンの技術を開発した。2009年には愛知ブランド企業に輝き、たれやつゆ、ドレッシングなど、多種多様なニーズへの対応力を発揮していく。
飛び込み営業から農商工連携をサポート
そんな同社が農商工連携に取り組んだのは11年、六次産業化法が施行され、政策的支援が活発だったときだ。
「当時、近畿地方の取り組みが盛んで、なかでも和歌山県に次いで滋賀県が熱心でした。うちの担当者が滋賀県の農家に飛び込み営業したときに、タマネギのドレッシングができないかと相談を受けたんです。それを皮切りに、たくさんの農家からネギやゴボウ、ニンジンといったドレッシング製造のオーダーが入るようになりました」
農家にとって、焼き肉店や居酒屋、ラーメン店など、取引先には外食産業も多く、〝売れる味〟のノウハウを持つ同社は頼れる存在だ。同社も各農家の野菜の魅力を生かした加工品開発に努め、製造以外にも要望があれば、認定農家になるために必要な書類の作成や、取引先のラベルメーカーと連携してパッケージデザインのサポートをするなど、親身になって対応した。
「こうして生まれた商品は、どれも小ロットなので、手間と時間とコストがかかります。それでも問い合わせから最短で20日ぐらいのスピード納品を知見とスキルで可能にしてきました。しかし、残業続きで、どこまでお客さま第一主義でできるか、最低ロットやコストの線引きをどうするかで悩む時期でもありました」
納品後、どこにどう売るかは農家の力量にかかってくる。が、そこでつまずく農家は多く、補助金切れとともに受注は減っていった。
商品も販路も豊富なバリエーションを構築
「今でもコンスタントに取引があるのは、最初に飛び込み営業した農家を合わせて2件程度。売り上げに占める割合はわずかです。付き合いのある農家に声を掛けたこともありましたが、立ち消えになるケースがほとんどですね」と苦笑する竹内さん。だが、この経験を経て、「売り物と売り方の多角化」を意識して事業を広げたと語る。
業務用調味料と米菓調味液を主軸に、自社のオリジナル商品やプライベートブランド商品の開発、うま味成分豊富な調味液は、和洋中問わず使えるバリエーションを誇る。販路も食品メーカーや外食産業、米菓産業だけではなく、コンビニエンスストアなどの小売業にも広げ、和食ブームとオーガニック志向の世界の潮流にのって数カ国にグルテンフリーのたまり醤油も輸出している。
「こうした多角化で、前期の2019年9月から20年8月の売り上げは2・8%落ちた程度です。しかし、これからは売り上げより経常利益や純利益が重要になってくると考えています。お客さまの満足度を高めるために職人気質で品質を追求し、少量多品種に重点を置きます。とはいえ最低ロットは250㎏から。前に100㎏で苦労しましたから」と笑う。
だが、コロナ禍よりも今秋からの輸入大豆の高騰が深刻と言い、経営の舵(かじ)取りはまだまだ予断を許さない状況のようだ。
会社データ
社名:株式会社ヤマミ醸造(やまみじょうぞう)
所在地:愛知県半田市港町3丁目106番地
電話:0569-23-0703
代表者:竹内三之 代表取締役
従業員:99人
【半田商工会議所】
※月刊石垣2021年8月号に掲載された記事です。
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