Ⅰ まちを取り巻く現状(略)
Ⅱ 近年のまちづくり政策と地域のまちづくり活動の動向(略)
Ⅲ まちなか再生に向けて強化すべき政策の考え方
1 まちなか・中心市街地の低未利用不動産対策の重要性
・国の低未利用不動産施策の多くは地方自治体を受け皿としているが、地方自治体の関心は必ずしも高くない。
・国土交通省調査では、低未利用地で行ってもらいたい業務について、地方自治体の回答は、ニーズ不足などから「特になし」が約6割を占める。一方、日商調査では、低未利用不動産の利活用希望はあるが、権利関係やコストなどの問題から利活用できないとの認識が約5割を占める。
→低未利用不動産対策の重要性を巡り、行政と民間の間に大きな認識ギャップが存在する可能性。
・公的支援策を実施できる行政と、利活用意識の高い民間が一体となって低未利用不動産対策を進めることができれば、新たな店舗の増加・雇用の拡大、まちの活性化・人口の定着へとつながり、地域経済の好循環をもたらす可能性がある。
→中心市街地の低未利用不動産は潜在的な地域資源であり、その活用は日本全体の発展に資する「経済活性化策」として公民共創による積極的な推進が必要。
2 不動産の低未利用化の防止措置の強化
・日商調査によれば、まちづくりの障害となっている低未利用不動産は「住宅・店舗兼用」が最も多く(約68%)、続いて「所有者が遠隔地にいる」(約58%)、「所有者が不明・連絡困難」(約31%)の順に多い。
→従来からの課題である住宅・店舗兼用に加え、管理・利活用意識の低い「不在所有者」がまちづくりの障害となっている実態が浮き彫りに。
・低未利用不動産は、相続をきっかけとして権利関係が複雑化、管理・利活用が困難となる傾向がある。
→先送りにするほど、社会全体で負うコストが増加。将来、低未利用化する恐れがある土地などは、いつ訪れるか分からない相続を待つことなく、より早い段階での譲渡および利活用を促す政策(不動産譲渡益にかかる税制優遇、建物の除却費補助など)の強化が必要。
3 低未利用不動産対策の強化
・行政が実施する市街地整備手法は、一定の法的強制力があり、複雑な権利調整が必要な低未利用不動産対策としても高い効果が得られたとの声が寄せられているが、財政的なハードルが高く、普及に至っていない。
→小規模・短期間・連鎖的な市街地整備手法(低コストで着手しやすい小規模なエリアから始め、段階的・連鎖的に広げていく柔軟な仕組み)の強化と民間のまちづくり会社などによる需要創出活動との連携が必要。
(1)民間発意による市街地整備の推進
・日商調査では、中心市街地活性化協議会などへの参画、まちづくりに関する提言活動など9割の商工会議所が何らかのまちづくり活動に取り組んでいると回答。
・各地域では、商工会議所、まちづくり会社などが、創業支援や空き家バンクなど多様な手法を駆使しながら、低未利用不動産対策・中心市街地の活性化に取り組んでいる。
→これまで行政がニーズを把握できず、手を付けられなかった低未利用不動産対策には、地域の利活用ニーズをよく知る民間からの発意により市街地整備を推進できる体制強化が必要。
→都市機能の集約・再生整備などに係る計画作成・協議の場(市町村都市再生協議会)を設置できる者に商工会議所を追加、まちづくり施策に関する専門家派遣制度の創設による民間の提案力向上が必要。
(2)面的整理を推進する組織(ランドバンク)への支援
・複雑な権利関係を持つ低未利用不動産を早期かつ簡便に処理し、再利用につなげるランドバンクの制度化が必要。
→ランドバンクには、民間ニーズをくみ取りながら、面的整理を強力に推進する専門性が求められる。権利関係の整理・利害調整、建物の解体・撤去、整地など法的・物的クリアランス機能などを期待。
→住民と交渉を行い、市場性の乏しい低未利用不動産を取り扱うランドバンクの運営に対して、行政の認定などによる信用付与および十分な財政支援が必要。
4 デジタル基盤の整備を通じたまちづくりの推進
・各地で進められているスマートシティ構想は、デジタル技術の活用により、さまざまな地域課題の解決に資すると期待。
・特に、人流・交通・気候・災害などに関するデジタル基盤の整備を通じて、都市構造が可視化されることで、地域特性に応じた最適なまちづくり計画の立案、地域住民の合意形成の促進に寄与すると期待。
→スマートシティの実現に向け、5G通信環境の早期全国展開、地域に開かれた形での行政のデジタル化が必要。
→行政のデジタル化については、データ・システムの標準化・共通化によるベンダーロックイン回避、地域課題のオープンな発信により、サービス設計段階から地元スモールビジネス・ベンチャーを巻き込むなど、地場産業育成の視点が重要。
→地域課題の解決分野として、地域住民の生活の場である地域商業のデジタル化も積極支援すべき(商店街などのデジタルマーケティング支援など)。
5 都市の再生・魅力向上を後押しする措置
・高度経済成長期のわが国の都市政策は、行政主導の下で、急激な人口増加・人口流入に対応できる受け皿として、必要な機能・水準を満たす観点から「合理的・画一的なまちづくり」を進めてきた。
・経済社会が成熟し、人口減少・超高齢化社会を迎えた今、わが国のまちづくりの在り方は大きな転換期を迎えている。
・地域の資源を生かした個性あるまちの再生を目指す地方圏、経済のけん引役を担い、高度な都市機能の集積を目指す大都市圏・中核都市圏など、都市の再生および魅力向上に向けて、地域課題を克服し、その特性に即したハード・ソフト両面での取り組みが求められる。
(1)地域経済の好循環の実現・まちの魅力向上に資する措置
①廃業や、撤退後に放置されたままの商業施設、役割を終えたアーケードなどの解体費用への支援、除却後の土地に係る固定資産税について、一定期間の軽減
②歴史的・文化的資産などを有するまち並みの再生・活性化への支援(リノベーション、古民家活用、歴史的景観の維持、オープンスペース整備、無電柱化、景観と調和した道路整備など)
③空き地・空き店舗の利活用希望者に対する創業支援(家賃負担軽減やリノベーションに対する補助・金融支援)
④まちの拠点施設など(庁舎、スポーツ施設、図書館、福祉施設、文化施設、公園など)整備における、地域企業を核としたPPP/PFIの推進
⑤関係人口拡大に向けたワーケーション施設、サテライトオフィスの設置促進など
(2)国際競争力の強化・高度な都市機能の集積を後押しする措置
①都市再生緊急整備地域、国家戦略特区の特例などに基づく都市再生プロジェクトの積極的な推進
②国際競争力の強化に向けた、道路・鉄道・港湾・空港整備による交通・物流ネットワークの強化
③木密地域など密集市街地の不燃化の推進(建て替え、斜線制限や日陰規制の緩和、無電柱化の一体的推進・除却への助成など)
④老朽マンション、団地、ニュータウンの再生・耐震化、解体撤去の促進(区分所有法の見直し、容積率緩和など)
⑤コロナ過で加速した新しい働き方・住まい方への対応、過密な都市構造の改善に向け、大都市圏における土地利用のさらなる高度化と都市計画の柔軟な運用の促進
⑥暫定利用の青空駐車場やビル屋上などの空きスペースや公開空地などを活用したまちのにぎわい創出事業への助成制度の創設
⑦物流を考慮した建築物の設計・運用の周知、物流の効率化・高度化に資する荷さばきスペース・駐車場の確保、渋滞対策の促進など
6 まちの価値を向上させる社会資本整備の促進
①コロナ禍で苦境に立つ地域公共交通事業者への継続支援、廃業の危機にある地域鉄道の支援策である「上下分離」の導入促進、地方自治体への財政支援の強化
②災害に備えた道路、鉄道、港湾など重要インフラの検査強化、老朽化したインフラの更新促進
③地域産業の発展・地域経済の活性化の基盤となる道路・鉄道交通網などの整備促進、単純なB/C(費用便益比)にとらわれない評価手法の確立
④社会資本整備に対する国民の理解促進に向けたインフラのストック効果の見える化・見せる化、インフラツーリズムの推進
⑤分散型エネルギーインフラ構築の推進(地域の特性に即した再生可能エネルギー、エネルギーマネジメントシステムの導入促進など)
⑥グリーンインフラを活用した自然共生地域づくりの推進(官民連携による都市の屋上・壁面の緑地化、中心市街地の緑地活用の促進)
⑦インフラ整備のスピードアップのための円滑な公共用地取得の促進(後略)
Ⅳ エリアマネジメント活動の推進
1 公民連携によるまちづくり体制の構築促進
・近年、公共空間を活用したにぎわい創出イベントの実施など、まちづくり会社などによる地域価値の向上を目指すエリアマネジメント活動が活性化。公益性・公共性が高いエリアマネジメント活動に対して、国は、都市再生推進法人制度などまちづくりに民間の参画を促す制度を積極的に導入。
・一方、日商調査では都市再生推進法人の指定を受けたまちづくり会社などは約1割にとどまる状況。
→国は、公民連携のまちづくりを一層推進するとともに、まちづくり会社などの活発な事業活動を後押しする環境整備が求められる。
→商工会議所・まちづくり会社などは、長期性・継続性を持ったビジョンを打ち出し、行政と民間の連携を推進する役割が求められる。ビジョンには、地域の多様なステークホルダーを巻き込むため、地域のヒト・モノ・情報を最大限活用する「ローカルファースト」の視点が重要となる。
2 民間のまちづくり活動の基盤強化
・まちづくり会社などは多岐にわたる活動を展開しているが、その多くは小規模な組織であるため、地域の多様な主体をコーディネートできる人材が必要。また、その活動は利益追求より地域課題解決の側面が強く、負債を抱えた状態からのスタートである場合が少なくない。
・公民連携を進める上で民間にリスクが偏在するようでは持続的な取り組みは望めない。日商調査では、弱体化・見直しが必要なまちづくり会社などが約36%に上るなど、人材・財政面での支援が急務。
【人材確保】
地域内外の「応援団」を巻き込める仕組みが必要(地域おこし協力隊など地域外からの人材支援の継続・強化、地域内でのまちづくり人材の共有・活用に対する支援制度の創設など)。
【財務基盤強化】
指定管理者制度などに加え、民間の「志ある資金」の供給を促進させる仕組みが必要(まちづくり会社などへの出資に係る所得控除制度の創設や、クラウドファンディングの手数料などへの支援など)。
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