日本商工会議所は2月17日、「『観光立国推進基本計画』改定に向けた意見~観光の変革と創造による地域経済の再生~」を取りまとめ、公表した。意見書は、次期「観光立国推進基本計画」において、観光関連産業の再生・変革に向けた道筋を示すとともに、地域経済をけん引し、成長と分配の好循環を促す新たな観光の確立に向けたビジョンを示し、観光の持続可能な発展に資する政策を重点的に打ち出すべきと主張している。日商では、政府など関係各方面に意見書を提出。その内容の実現を働き掛けていく。
意見書では、基本的な考え方として、困窮する事業者に対する支援の継続、GoToトラベルなど需要喚起策の早期再開を要望。また、早期の国際交流の再開、入国制限の緩和を主張している。
今後の観光政策については、コロナ禍からの観光再生の道筋を示すとともに、成長と分配の好循環を促す「新たな観光」の確立に向けたビジョンを提示するよう主張。先延ばしになっている次期基本計画については、可能な限り早期に改定すべきと提言している。
観光政策の基本的方針については、観光が抱えてきた構造的課題である「大都市や有名観光地への過度な需要の集中」「地方部における消費単価の伸び悩み」などを克服し、地方部でもインバウンドの経済効果を最大限受け止められる体制構築を促す政策を重点的に打ち出すべきと主張。計画期間中に達成すべき目標については、これまでの「量的価値」に加え、オーバーツーリズム問題への対処も含めた持続可能な観光地経営に関する指標や、地方部での観光消費額、消費単価、付加価値額の向上など「質的価値の向上」に着目した目標を掲げるべきと提言している。
詳細は、https://www.jcci.or.jp/news/2022/0217140000.htmlを参照。
Ⅰ 基本的な考え方(略)
Ⅱ 観光再生に向けた課題と地域の取り組み(略)
Ⅲ 基本的な方針・目標とその実現に向け国が講ずべき施策
1.次期計画の基本的な方針で示すべき方向性
(1) 地域経済を支える観光関連産業の再生・変革
・コロナ禍が収束し、事業環境が正常化するまで、国内観光の需要喚起・創出に注力すべき。
・デジタル技術によるビジネスプロセスの変革、高付加価値化、働き方改革・労働環境の改善など、観光関連産業の持続可能でレジリエントなビジネスモデルへの変革に取り組む必要。
(2) インバウンド再開時を見据えた観光が抱える構造的課題の克服
・大都市・有名観光地への過度な需要集中、地方部における消費単価の伸び悩みなど、観光産業が抱える構造的課題を克服し、各地域で経済効果を受け止められる態勢構築が必要。
➡①地域の観光マネジメント体制の強化、②地域資源の活用などによる観光需要の地方・地域への波及、③デジタル技術の活用(観光DX)など、観光の再生・高付加価値化に重点を置いた政策展開が必要。
➡観光再生における地方自治体の役割を基本計画に位置付け、DMO・商工会議所・民間事業者などと一体となって観光再生・観光まちづくりに取り組む地方自治体への支援強化を打ち出すべき。
2.基本計画で掲げるべき目標
・コロナ禍からの経済再生には、インバウンドによる外需獲得は引き続き重要。一方、過度な需要集中によるオーバーツーリズムなどへの対処も含め、持続可能な観光地経営を推進する観点が必要。
➡訪日外国人旅行者数・消費額など、「量的価値」については、基本的に高い目標を維持しつつ、「日本版持続可能な観光ガイドライン」を踏まえた持続可能な観光地経営に関する指標を設定すべき。
・「地方創生の切り札」である観光が、地域の重要な基幹産業としての地位を確立できる目標の設定が必要。
➡地方部における観光消費額・消費単価の向上や、観光関連事業者から生み出される付加価値額の向上など、「質的価値の向上」に着目した目標を設定すべき。(参考)付加価値の構成要素:人件費、営業利益、減価償却費など
3.基本的な方針・目標の実現に向けて国が講ずべき施策について
(1) 観光関連産業の経営基盤の再生・強化
・最大限の資金繰り支援(資本制劣後ローンの柔軟な運用、納税猶予に係る延滞税の免除など)
・雇用調整助成金の特例措置などの延長
・「新たなGoToトラベル事業」の早期再開とインバウンド回復までの十分な事業期間の確保
・GoToイート事業の拡充・延長、地方創生臨時交付金の拡充による飲食店などの売り上げ確保支援の強化など
(2) 地域の観光マネジメント体制の強化
・観光地域づくり法人(DMO)の活性化
➡デジタルマーケティングや持続可能な観光地経営などに係る専門家派遣や人材マッチング、安定的な財源確保支援、地方自治体の観光振興計画などに対するDMOによる提案制度の創設など
・観光再生を担う人材の確保・育成支援の強化
➡副業人材などとのマッチング支援、大学における観光教育の充実、社員のリカレント教育の推進など
・観光危機管理対応力の強化
➡DMOなどによるBCP策定支援、観光客への災害時対応の強化など
(3) 観光需要の地方・地域への波及
<地域への誘客促進>
・関係人口の拡大など、人流の活性化による国内観光関連需要の創出
➡平日休暇の取得促進、ワーケーション、ブレジャー、国内MICEなどの法人需要の創出支援など
➡旅行・観光需要の地方分散に資する交通網の整備支援
➡主要交通拠点から観光地、観光地間のアクセス改善、観光用モビリティの整備・運用支援など
<観光消費機会の拡大・消費額の増加>
・地域資源を活用した高付加価値な観光コンテンツの提供
➡観光コンテンツ造成、戦略的ブランディングやプロモーションの展開、持続可能な観光促進支援など
・観光地の再生・高付加価値化に向けた老朽施設の撤去・リノベーションの促進
➡廃屋撤去、老朽施設のリノベーションなどに対する積極的な支援の継続・拡充
・インバウンド再開に向けた受け入れ態勢の整備
➡外国人旅行者を含む国際往来の早期再開に向けた入国制限の緩和、安心・清潔さなどわが国の強みを生かした効果的な訪日プロモーションの推進、国際的なMICEの継続的な誘致促進など
・省庁連携による観光施策の推進
➡観光振興に関する予算、権限を所管する省庁との連携体制の構築
<国民の観光への理解促進>
・科学的データの検証と旅行機運の醸成
➡科学的知見に基づく旅行・移動のリスク評価、コロナ収束後の観光キャンペーンの後押しなど
(4) 観光消費機会の拡大、コンテンツの高付加価値化に資するデジタル技術の活用
・デジタル技術の活用による観光ビジネスの変革支援
➡専門性の高いデジタル人材の確保・育成、地方公共交通機関との連携、MaaS・自動運転導入の推進など観光DXの基盤整備など
・観光統計などのデータ整備および活用促進
➡観光統計の一層の充実・精緻化、国による官民のビッグデータの一元化および提供など
最新号を紙面で読める!