意見書の背景と主旨(略)
はじめに
エネルギーの安全保障と量・価格両面での安定供給を図りつつ、カーボンニュートラルへの挑戦を加速し、わが国経済の長期停滞からの脱出と新たな成長のエンジンとするために(後略)
Ⅰ カーボンニュートラル移行期におけるエネルギー安全保障と安定供給の確保を
1.原油・LNGの安定供給確保
・ カーボンニュートラル実現に向け、再生可能エネルギーの主力化は必要だが、移行期における安定供給に原油・LNGなど化石燃料が果たす役割は大きい。2030年度電源構成目標でも約4割(LNG20%、石炭19%、石油など2%)
・ ウクライナ危機によりエネルギーの脱ロシア政策が進み、原油・LNGの価格高騰が続く可能性
【要望事項】
→エネルギー安全保障の観点を踏まえた原油・LNG調達の多重化・分散化を
→エネルギー市場の安定化と安定供給の確保に向け、国際協調による備蓄放出や増産の働き掛け、官民一体でのLNG上流開発推進を
→国内でのエネルギー価格高騰対策においては市場メカニズムを重視し、慎重な検討を
2.原子力発電の位置付け明確化と早期再稼働
・ CO2排出削減、安定・安価な電力供給、準国産エネルギーの確保の点で、原発はわが国エネルギー政策に不可欠な電源。再稼働した原発は10基のみで、来冬も電力需給ひっ迫予想
・ 原発建設や部品製造の空白期間が続くことにより、企業の撤退や人材流出、技術力低下の懸念
・ 福島第一原発は、廃炉や除去土壌処分、賠償など多くの課題が残り、ALPS処理水海洋放出には新たな風評懸念の声
【要望事項】
→安全性確保を最優先させつつ、原子力発電の早期再稼働および設備利用率向上を
→クリーンエネルギー戦略において原子力の位置付けを明確にし、政府が前面に立って原子力政策を力強く前進させること(リプレース・新増設検討、核燃料サイクル推進、高レベル放射性廃棄物処分、革新炉などの技術開発など)
→原子力関連産業および技術の発展と人材育成の推進を
→原子力政策の重要性と安全性に関する丁寧な情報発信と対話による国民理解の促進を
3.電力の安定供給を支える送配電網の増強、蓄電設備など変動吸収システムの整備
・ 太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入拡大(2030年度電源構成目標36~38%)に向けた課題の一つは、天候など自然状況による発電量変動への対応
・ 2022年3月には東京・東北エリアで電力需給ひっ迫(地震による火力発電停止+気温低下が原因)。気候変動により激甚化する風水害や地震がもたらす電源トラブルによる供給不足、猛暑・厳寒による一時的な電力需要の増加は今後も十分予想される。エネルギー源の多重化および分散化と、それをつなぐ電力ネットワークが必要
【要望事項】
→地域間で電力を融通する送配電網の整備・増強の早期実現
→需給変動に対応する定置用蓄電システムなどの導入拡大
4.自立・分散型エネルギーシステムによるレジリエンス強化
・ 地震や風水害など自然災害のさらなる激甚化が予想される中、災害時のエネルギー供給に、電源を需要家の近くに分散設置する「自立・分散型エネルギーシステム」活用に期待
・ 大部分が埋設されているガス導管は風雨の影響を受けにくく耐震性も備える。災害に強いまちづくりの観点から、再生可能エネルギーとガスコージェネレーションシステムを組み合わせることで、レジリエンス強化とCO2削減を同時に実現
【要望事項】
→再生可能エネルギーによる電力供給とガスコージェネレーションシステムによる発電・熱供給を組み合わせるなど、レジリエンス強化とCO2削減を実現する「自立・分散型エネルギーシステム」の導入推進
Ⅱ カーボンニュートラル関連技術の開発・実装・普及を加速し、新たな成長エンジンに
1.成長が期待されるカーボンニュートラル関連技術に対する支援の大胆な拡充と重点化
・ 日本には、成長が期待されるカーボンニュートラル関連産業分野の優れた技術とそれを担う企業・人材が多く存在
・ カーボンニュートラル関連ビジネスの国際競争はますます激しくなり、重点化とスピードアップが必要
・ 政府による「グリーンイノベーション基金」は2兆円のうちすでに1兆6412億円の拠出が決定しているが、カーボンニュートラルへの取り組みは関連する産業分野も広く、かつ長期間に渡る継続が求められる
【要望事項】
→カーボンニュートラルへの挑戦をわが国経済の長期停滞からの脱出と新たな成長のエンジンとするべく、①わが国企業におけるカーボンニュートラル関連技術の開発、②量産化によるコスト削減、③アジアなど海外展開も含めた実装・普及の推進を
→わが国が目指すカーボンニュートラル時代の経済社会の全体像と道筋を示すことで、ビジネスの予見可能性を高め、民間企業の積極的な投資と技術開発・事業創造の促進を
→「グリーンイノベーション基金」など資金面での支援の欧米に劣後しない規模への拡充とともに、排出削減と経済成長・産業の国際競争力強化への寄与の両面で、より効果の高い分野へ支援の重点化を
→「環境国債」発行などによる財源確保を
→新技術の開発・実装・量産化・普及を加速するべく、①規制緩和・撤廃、②国・自治体ならびにGXリーグ参加企業などによる積極的な導入による初期需要の創造、③二国間クレジット制度(JCM : JointCrediting Mechanism)の戦略的活用と官民による経済外交を通じた東南アジアなど海外展開への支援、④技術開発成果の実装・普及に向けた標準化の取り組みへの支援を
2.個別のカーボンニュートラル関連技術に関する期待と要望
【要望事項】
(1)水素・アンモニア
→安定供給を支えるサプライチェーン構築
→供給効率を高める地域や工場集積地全体での活用推進と貯蔵・輸送インフラの集中整備
→低温・低圧での次世代アンモニア製造プロセスの実用化と、石炭火力における混焼技術と合わせての東南アジアなどへの展開支援
(2)CCUS(CO2分離回収・利用・貯蔵)・メタネーション
→より低コストでの実用化に向けた、高効率なCO2分離回収技術の開発、CO2リサイクルまで含めたプロセス全体での開発・実装
→メタネーション技術と既存のガスインフラを活用したCO2の地域循環モデル実現に向けた取り組み推進
(3)洋上風力発電(浮体式)
→クリーンエネルギー戦略における洋上風力発電設置計画(地域・規模・時期)の明確化
→日本企業によるアジアなど海外での洋上風力発電開発の支援
(4)原子力発電(革新炉)
→革新炉に関する研究開発・実証の加速(小型モジュール炉、高温ガス炉など)
→欧米などの国際プロジェクトへの日本企業の参画促進
3.コスト負担とカーボンプライシングに関する議論の推進
・ カーボンニュートラル実現にはコストを誰が負担するのかという視点が不可欠。炭素税、排出量取引、クレジット取引などカーボンプライシングに関する議論も避けて通れない
【要望事項】
→「経済と環境の両立」という大前提の下、国際競争上のイコールフッティングにも配意の上、「成長に資するカーボンプライシング」について具体的かつ現実的な議論を
Ⅲ 地域社会と中小企業によるカーボンニュートラル挑戦への支援拡充を
1.地域脱炭素の取り組み推進~地域自らが「賢く」考え、「優しく」変えていく~
・ 各地域で、自治体と商工会議所などの経済界が連携し、エネルギーの地産地消と地域活性化に向けた取り組みが進展
・ 政府は、2030年までに100カ所以上の「脱炭素先行地域」を実現し、脱炭素を通じた地域課題解決を推進
【要望事項】
→各地域の自治体、企業、住民が自ら、2050年カーボンニュートラル実現に向けて目指す社会の在り方を「賢く」考え、丁寧な働き掛けにより「優しく」地域を変えていく取り組み推進を
→カーボンニュートラルへの挑戦をどのように地域の発展につなげるか、幅広い観点からの検討推進を(エネルギーの安定供給と地産地消、快適性と安全・安心・防災、自然環境や景観の保護など)
→再生可能エネルギーおよびエネルギーの面的な融通やデマンドコントロール導入など、地域による脱炭素関連設備・技術導入への支援を
→「地域脱炭素ロードマップ」実現に向け、「脱炭素先行地域」における主体的な取り組み促進、地域間の情報交換・知見共有の仕掛けづくりを
2.中小企業のカーボンニュートラル推進~「知る・測る・減らす」の支援を~
・ 中小企業による温室効果ガス排出量は1・2~2・5億トン、日本全体の1~2割弱と想定
※地球温暖化対策法の報告対象企業(年間3千万トン以上排出)のうち中小企業約6千社の排出量合計1・2億トンから推計(経産省)
・ 日商が昨年8月に中小企業を対象に行った調査では、2050年カーボンニュートラルに対する考え・対応について「現時点では見当がつかない・分からない」との回答が46・8%で最も多い
【要望事項】
→中小企業のカーボンニュートラル推進に向けて、①「知る」…カーボンニュートラルに関する情報提供、②「測る」…専門家による指導や簡便なツールの提供による排出量計測・把握の支援、③「減らす」…省エネ・脱炭素型設備導入などへの資金面での支援の拡充を
→CO2削減のインセンティブとなるJ-クレジット制度の中小企業への認知拡大、活用推進を
→脱炭素支援施策の利用促進へ、情報の見える化、手続きの簡素化、中小企業と接点を有する自治体、金融機関、商工会議所との連携を
→サプライチェーンでつながる大企業による取引先中小企業の取り組み支援・協力推進を
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