総論
中小企業・小規模事業者の動向
業況・業績
・ 中小企業の業況判断DIは、2020年4-6月期にリーマンショック時を下回る水準まで急激に悪化。
・ 足元では、持ち直しの動きも見られるが、依然として厳しい状況。
・ 22年2月時点においても、新型コロナウイルス感染症は、引き続き多くの中小企業に影響を与えている。
・ 宿泊業、外食業を中心に、20年の売上高は多くの企業が新型コロナウイルス感染症流行前を大きく下回った。(図1)
倒産の状況
・ わが国の倒産件数は、09年以降は減少傾向で推移。21年は資金繰り支援策などの効果もあり、6030件と57年ぶりの低水準となった。
・ 一方で、新型コロナウイルス関連破たんの件数は、昨年9月から4カ月連続で月別件数として過去最多を更新するなど、月別件数は増加傾向にある。
休廃業・解散の状況
・ 昨年の休廃業・解散件数は、前年から減少したものの、民間調査が開始された00年以降で過去3番目の高水準となっている。
資金繰り
・ 感染症流行後では、いずれの金融機関においても貸出残高が増加しており、実質無利子・無担保融資制度を活用しながら、積極的な融資が行われている状況がうかがえる。
・ 宿泊業をはじめとする各業種において感染症流行前と比べて借入金月商倍率が上昇しており、借入金の返済余力が低下している可能性がうかがえる。
持続化給付金
・ 都道府県別では、東京都、大阪府、神奈川県の順に、全国に占める給付比率が高い。
・ 業種別では、建設業、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業の順に、全業種に占める給付比率が高い。
家賃支援給付金
・ 都道府県別では、東京都、大阪府、神奈川県の順に、全国に占める給付比率が高い。
・ 業種別では、宿泊業、飲食サービス業・卸売業・小売業、建設業の順に、全業種に占める給付比率が高い。
雇用の状況
・ 中小企業の人手不足感は、感染症流行の影響により一時的に弱まったものの、依然として人手不足の状況が見られる。
・ 技能実習および資格外就労(留学)の在留資格における外国人労働者数は、足元で減少。(就労業種の内訳を見ると、技能実習では、製造業、建設業が約7割、資格外就労(留学)では、宿泊業・飲食サービス業、卸売業・小売業が約6割を占めている)
賃金
・ 最低賃金は継続的に引き上げられており、20年を除き、近年は引上げ幅も大きくなっている。
・ 中規模企業における労働分配率について、09~18年度は、人件費の減少に対して付加価値額は増加し、低下した。これに対して、18~20年度は、人件費の減少率を上回る形で付加価値額が減少したことから、上昇した。
サプライチェーン
・ 中小企業の製造業は、約6割が感染症によるサプライチェーンへの影響を受けていると回答。
・ 感染症流行による影響を受けた業務は、営業・受注が最も多いものの、生産活動や部材調達といった供給面に影響を受けた業務も一定数存在。
原油・原材料価格の高騰
・ 足元では、ウクライナ情勢が緊迫化している中で、燃料や非鉄金属などの取引価格が上昇傾向にある。
・ 足元では、木材・鋼材といった資材や電力価格も上昇傾向にある。
・ 交易条件指数は、仕入価格DIの上昇が販売価格DIの上昇より大きいため、悪化の傾向にある。
・ 原油先物価格(WTI石油先物)は、感染症流行前の19年12月末時点から約8割上昇。
・ 同様に、原油などの輸入価格が8割上昇したと仮定した場合、石油・石炭製品部門では約5割、電力・ガス・熱供給部門では約3割といった度合いで原油などの投入が多い部門において産出価格が上昇すると推計される。
・ 産出価格の上昇率の高い10部門に対応する中小企業について、従業者数や付加価値額が中小企業全体に占める割合を見ると、従業者数で12・5%、付加価値額で15・1%と一定の割合を占める。
事業継続計画(BCP)の取り組み
・ 中小企業におけるBCPの策定状況を見ると、策定している企業は3年間でわずかに増加しているものの、依然として半数近くが策定していない。
・ 事業継続計画(BCP)の策定は、リスクへの意識が高まるだけでなく、策定プロセスを通じて自社の事業を見直すきっかけにもなる観点から重要。
商店街の状況
・ 来街者数が「減った」と回答した商店街は、全体の約7割を占め、前回調査(18年)から10ポイント以上増加。
・ 特に「減った」要因について、「魅力ある店舗の減少」や「地域の人口減少」などの回答割合が低下した一方、「集客イベントなどの未実施」の回答割合が、10ポイント以上増加。
事業承継
・ 年齢の高い経営者の比率は高まっており、事業承継は引き続き社会的な課題となっている。
・ 経営者年齢が若い企業では、試行錯誤を許容するなど新たな取り組みに果敢にチャレンジする傾向にあり、事業承継を適切に実施し、次世代の後継者に引き継いでいくことが重要。
・ 中小企業におけるM&Aは、近年増加傾向。
・ 後継者不在企業の割合は低下しており、経営者の事業承継に対する意識の変化が見られる。
・ 先代が培ってきた技術など既存の経営資源を生かし、後継者が新たな取り組みや販路開拓に積極的に取り組む企業も存在。(図2)
新たな取り組みへの意欲
・ 近年、中小企業においても、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みへの意識が高まってきている。
・ 感染症流行前から現在に至るまで毎年徐々に優先順位は高まっており、事業方針におけるデジタル化の優先順位が「高い」、または「やや高い」と考える企業は2割以上増えている。
テーマ別分析
1 中小企業における足元の感染症への対応
・ 中小企業においては、今後の経営上の不安要素として、「原材料価格・燃料コストの高騰」や「人材不足・育成難」を挙げる割合が上昇。経営基盤の強化に向けた注力分野としては、「人材の確保・育成」などの割合が上昇。
・ こうした中で、不安要素として、「国内の消費低迷、販売不振」は引き続き上位に位置している(注力する分野として、「営業・販売力の強化」を挙げる企業も一定数存在)。
・ 事業再構築は各業種で実施されているが、特に感染症の影響の大きい宿泊業・飲食サービス業で実施割合が高い。
・ 感染症下において事業再構築を行い、既に売り上げ面での効果を実感する企業も存在。また、早期に取り組んだ企業ほど既に効果を実感している。
・ 事業再構築に取り組む企業は、売り上げ面の効果だけでなく、既存事業とのシナジー効果(新規開拓した販路の既存事業への活用など)も実感している。
・ 新たな市場に、新たな商品・サービスを提供する事業再構築に取り組み、実際に既存事業とのシナジー効果を感じる企業も存在している。
2 企業の成長を促す経営力と組織
無形資産投資に着目した背景
・ 企業の成長(付加価値向上)を促す方法として、労働力の確保や有形資産投資の増加も挙げられるが、ブランドや人的資本・研究開発・IT資本などへの投資をはじめとする無形資産投資の増加も、成長を促す方法の一つである。
・ 無形資産投資は、イノベーションをよりもたらすなどの経済的特性から近年注目を集めている。無形資産投資の増加が有形資産投資と比べて生産性をより向上させるとの分析があることも踏まえ、今回着目。
ブランド構築
・ 無形資産投資の一つであるブランド構築は、オリジナルの付加価値を有し、適正価格を付けられる価格決定力を持つことが考えられる。
・ ブランドの構築・維持を図る取り組みを行っている企業は、自社ブランドが取引価格へ寄与している割合が高い。
・ ブランドの構築・維持のための取り組みとしては、自社のブランドの発信だけでなく、ブランドコンセプトの明確化や従業員への浸透などを行うことも必要。
・ 自社のブランドコンセプトの見直しを行い、改めてブランドコンセプトを明確化したことで、ブランド力が高まり、販路の拡大などにつながっている企業も存在。
人的資本への投資
・ 中小企業が重視する経営資源は「ヒト」であり、従業員の仕事に対する意欲向上の観点からも、従業員の能力開発に取り組むことが重要。
・ 計画的なOJT研修、OFF-JT研修いずれも実施している企業では、売上高増加率が最も高い。計画的なOJT研修やOFF-JT研修を実施し、従業員の能力開発を進めることが重要。
・ 従業員に継続的に学びの機会を提供していたことで、感染症流行による影響を受けながらも、従業員の工夫で急回復している企業も存在。
海外展開
・ 中小企業においても、16年以降、越境ECを利用している企業の割合は増加傾向。
・ 越境ECを利用している企業でも、販売先に関する情報不足や自社ブランド認知度向上の難しさなどの課題を抱えている。
・ JAPANブランド育成支援等事業やジェトロの新輸出大国コンソーシアムなど、自社の課題に合わせて国の支援制度を活用し、海外展開を進める企業も存在。(図3)
グリーン
・ 脱炭素化に向けた具体的な取り組みでは、エネルギー効率の高い機器・設備の導入や、太陽光発電設備の設置、電化の促進などが実施されている。
・ 脱炭素化を進めることで、多くの企業はコスト削減効果を感じており、企業によっては市場における競争力強化につながっていると実感。
・ 脱炭素化に取り組んだことで、新たな取引先の創出や企業価値の向上につながっている企業も存在。
スタートアップ
・ 起業家の多くが、起業において、身近な起業家の影響を受けているが、日本では、こうした起業家が身近にいる人の割合が他国と比べて低い。また、「失敗に対する危惧」や「学校教育」も日本で起業が少ない要因として挙げられ、こうした環境の整備が求められる。
・ 日本におけるスタートアップ向けの投資額は増加傾向にあるものの、米国と比較すると依然として大きな差があり、スタートアップの資金調達環境の整備が求められる。
3 小規模事業者における事業見直し・地域課題の解決
小規模事業者における現下の事業見直し
・ 21年の売上高は、宿泊業・飲食サービス業を中心に、多くの小規模事業者が感染症流行前の水準に戻っておらず、厳しい経営環境に直面している。
・ 組織形態や資本金の多寡によらず、小規模事業者は積極的に事業見直しに取り組んでいる。
・ 事業見直しは、対象とする市場と提供する商品・製品・サービスの二つの軸で、①市場浸透、②新商品開発、③新市場開拓、④多角化の四つに分類することができる。
・ 感染症による売り上げへの影響があった小規模事業者の約7割は、市場浸透に取り組んでいる。
・ 具体的取り組みの実施状況を見ると、既存の市場、既存製品・商品・サービスの下で情報発信の強化や商品・サービスの向上に取り組む小規模事業者が多い。
・ 小規模事業者は、事業見直しに取り組むに当たって、知識・ノウハウの不足や販売先の開拓・確保、資金調達、人材の確保といった課題に直面している。
・ 支援機関は、自信を持って助言ができる経営資源として、人材や取引先(仕入れ先・販売先網)を上位に挙げ、小規模事業者が事業見直し時にさまざまな課題に直面する中、支援機関による助言は重要な役割を担う。
・ 事業見直し時に支援機関を活用した小規模事業者は、活用していない小規模事業者と比べて今後の売り上げへの期待度が高い。
・ 実際に、売り上げの減少を契機として、支援機関の支援を受けながら事業見直しに取り組み、業績の回復を図る企業が存在。
持続的な成長を促す小規模事業者の中長期的な取り組み
・ 売り上げの減少以外を契機として事業見直しに取り組んだ小規模事業者では、今後の市場動向を見据え、中長期的な事業見直しに取り組む者も存在。
・ 他の事業者との共同の商品開発などの取り組みにより、新たな取り引きの創出や取引先との関係強化といった経営上の効果が高まることが期待される。
・ 商工会の支援やバイヤーとの連携で、新たな取引の創出や販路開拓につながった企業も存在。
小規模事業者による地域課題解決
・ 地域の課題解決に向けた中心的な役割を担う存在として、小規模事業者への期待は大きい。
・ 小規模事業者による地域課題解決に当たっては、事業者が単独ではなく、他の事業者と互いの経営資源などを共有する場合が考えられる。
・ 支援機関は、事業者に対して具体的な連携先の紹介や連携方法に関する助言を行っているため、事業者が他の事業者との協業を行う際には、支援機関が有するネットワークやノウハウの活用も有効。
・ 自地域にはないインフラを提供することで、地域課題解決に向けた連携をより効率的に進めている企業も存在する。
4 共通基盤としての取引適正化とデジタル化、経営力再構築伴走支援
取引適正化
・ エネルギー価格・原材料価格の高騰への対応だけでなく、中小企業における賃上げといった分配の原資を確保する上でも、取引適正化は重要。
・ 業種別に価格転嫁の実施状況を見ると、金属などにおいて進展。
・ 販売先との交渉機会が設けられていない企業では、「価格転嫁できなかった」とする割合が6割超と高く、価格転嫁に向けては、販売先との交渉の機会を設けることが重要。
・ パートナーシップ構築宣言を行った企業について、取引先への周知方法を確認すると、約4割の大企業がホームページ掲載を行っており、周知方法として最も多い。
・ こうした中で、宣言文配布やメールにより、個別の取引先に丁寧に周知を行っている企業も一部存在。
・ パートナーシップ構築宣言を行った企業について、自社内の調達・購入担当への周知方法を確認すると、企業規模を問わず、会議や打ち合わせなどで周知している割合が高い。中には、社員教育や研修などに組み入れている例もある。一方で、周知を行っていない企業も一部存在。
・ パートナーシップ構築宣言の宣言文では、サプライチェーン全体の付加価値向上に取り組むこととされている。
・ 大企業ではグリーン化支援が最も多く、健康経営などに関する取り組みの支援、EDI導入支援、働き方改革に関する取り組みの支援、BCP策定支援と続く。一方で、特に行っていない企業も一部存在。
・ パートナーシップ構築宣言の宣言文ひな形では、価格協議の申し入れがあった場合は協議に応じることとしている。
・ 企業規模によらず、申し込みを受けた都度協議を実施している企業が多数だが、申し入れがあった場合でも協議を「実施していない」企業も一部存在。(図4・5)
デジタル化
・ 感染症の流行前後で、デジタル化により業務効率化などに取り組む事業者は増加している。
・ 一方で、依然として紙や口頭による業務が中心の事業者が一部存在するとともに、デジタル化によるビジネスモデルの変革など、DXに取り組めている事業者も約1割にとどまる。
・ 取り組み段階が進展するにつれて、営業力・販売力の維持・強化をはじめとする個々の効果を実感する事業者の割合は高くなる。
・ 引き続き、デジタル化の進展に取り組み、最終的には新たなビジネスモデルの確立につながる段階への到達を目指すことが重要。
・ 感染症流行下で、外部専門家からの指導・支援により、業務プロセスの効率化や社内の情報共有から取り組む意義に気付き、デジタル化の取り組みを進展させた企業も存在。
経営力再構築伴走支援
・ 経営者自らが自己変革を進めるためには、支援機関との対話を通じて、経営課題を設定することが重要。
・ そのためには、第三者である支援者・支援機関が、経営者などとの信頼関係を築き、対話を重視した伴走支援を行うことが有効。
・ 経営環境が激変する時代に中小企業の「自己変革力」を高めるためには、経営課題解決だけではなく、「経営力そのもの」に迫る的確な課題「設定」が重要。
・ 実際に支援機関による伴走支援を受け、経営力を向上させた企業も存在。
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