経済産業省はこのほど、2022年版「通商白書」を取りまとめ、公表した。白書では、ロシアによるウクライナ侵略が、食料・エネルギーなどの供給制約・価格高騰、貿易・金融など、世界経済に与える影響を提示。世界で不確実性が高まる中、デジタル変革、地政学リスクの増大、共通価値の重要性の高まり、政府の産業政策シフト、という四つのトレンドへの対応が必要との考えを強調している。
世界的な供給制約の高まりについては、コロナ禍での需給バランス、中国におけるロックダウンやロシアのウクライナ侵略の影響によるサプライチェーンの混乱とともに、海上輸送におけるコンテナ需給の逼迫(ひっぱく)、陸上輸送における労働者不足、航空輸送における旅客便の減少を受けた航空貨物スペースの逼迫、燃料価格の上昇などにより、物流コスト高騰の影響を指摘。さらに、「異常気象による食料の不作、脱炭素に向けた資源・エネルギー需要の急激なシフトなどによって肥料や食料も含めたコモディティ価格が上昇しており、エネルギー安全保障や食料安全保障にも影響を及ぼしている」と分析している。
先進国の金融政策正常化に伴う新興国経済への影響については、景気への懸念材料となっていると指摘。また、世界における政府・民間債務の急増については、「インフレや金利の動向に注視する必要がある」との見方を示した。
コロナショックを契機に加速している「デジタル変革」「地政学リスクの増大」「共通価値の重要性の高まり」「政府の産業政策シフト」のトレンドのうち、特に地政学リスクや共通価値に関しては、「各国政府の国際ルール形成や政策ポジションの違いによってルールのブロック化が発生している」と分析。それを受けた市場のブロック化の進行も確認されている。
白書では、コロナ禍で加速した四つのトレンドを踏まえて、「デジタル化による企業変革、政府が創出する需要の取り込み、経済安全保障・社会的インパクト・共通価値を中核事業における付加価値に転換するビジネスモデルへの変革まで促し、新しい資本主義における付加価値創造型のビジネスモデル・産業構造を実現させていくことが必要」との見方を示している。
グローバルバリューチェーン構築のための課題については、脱炭素・人権などのサステナビリティや包摂性に関する「共通価値」への関心が高まっており、「サプライチェーン全体の可視化、問題発生の予防、問題が発生した場合における適時・適切な対応が企業にとって重要な課題となっている」と指摘。テクノロジーと貿易については、デジタル関連規制の動向、複雑化するルールや高度化する技術リテラシーへの対応、雇用、教育体系の見直しなどの必要性を強調した。
各国で急速に成長しているスタートアップについては、「アジアの成長ポテンシャルを取り込むべく、日本もDX支援などを通じたアジアのスタートアップとの協業やデータ連携の取り組みなど、アジアとの共創による新しい経済機会の創出を図っていくことが求められる」と主張。日本国内のグローバル化、デジタル化、スタートアップを巡る諸課題にも取り組む必要があるとの認識を示した。
詳細は、https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.htmlを参照。
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