群馬県桐生市で大正時代から続くベーカリーが母体のスタイルブレッド。学校給食を扱う傍ら、複数のベーカリーを展開してきた同社が、シェフの依頼で「食事に合わせるパン」を目指して行きついた先が〝冷凍パン〟だ。焼きたての状態で急速冷凍し、いつでも最高の状態が味わえることから、ホテルやレストラン、一般家庭にもリピーターを増やしている。
急速冷凍で鮮度を閉じ込めいつでも焼きたてが味わえる
買ってきた食パンをすぐに冷凍庫に入れて保存するという人は少なくない。パンは時間とともに水分が蒸発し、でんぷんも劣化して味が損なわれていく。冷凍はそれを防ぐ有効な手段だ。しかし、実際にはパン屋に並んだ時点から劣化は始まっている。そこで焼きたてのパンをマイナス45℃で急速冷凍し、鮮度を閉じ込めているのが、スタイルブレッドが販売する「Pan&(パンド)」だ。
同商品は、群馬県産が主体の国産小麦と、海洋深層水からたき上げた国産天日塩を100%使用。自社研究機関として設立した「桐生酵母研究所」で培養した自家製天然酵母を使い、低温長時間熟成後に焼いて冷凍したパンだ。
「極上の食感が味わえるのは、素材や製法に加えてプチサイズであることも理由です。このサイズなら窯で一気に火を通すことができるので、表面はパリッと、中はもっちりした軽やかな風味がいつでも楽しめます」と同社マーケティングチームの柚木彩花さんは説明する。
同社の設立は2006年だが創業は大正時代で、和菓子を主軸に当時はまだ珍しかったパンづくりも始めた。1930年に製パン業に専念し、戦後からは学校給食用のパンを製造、高度経済成長期にはベーカリーを3店舗出店するなど事業を拡大してきた。そして四代目で社長の田中知さんが冷凍パンメーカーへとかじを切り、現在、全国3000社以上のホテルやレストランなどと取引し、多くのシェフから高い支持を得ている。
料理に合うパンを模索して行きついたのは〝冷凍パン〟
冷凍パンづくりは、市内のフレンチレストランのオーナーシェフから声を掛けられたことが発端だ。田中さんは20歳のころ、家業を継ぐために1年半ほど米国で修業した後、群馬に戻った。家業に入った半年後にフレンチのシェフと出会い、「料理のためのパンを焼いてくれないか」と打診されたという。
「そのシェフとは先代のころから付き合いがあり、ベーカリーに並ぶようなパンではなく、料理に合うパンが欲しいと言われたそうです。ただ、当時の店では本格的なフランスパンを扱っていなかったので、ベーカリー用のパンをつくる傍ら、レストラン用のパンを模索し始めました」(柚木さん)
ところが、シェフの求めるパンのイメージがなかなかつかめず、シェフの提案で本場のパンを視察するために渡仏。三ツ星ホテルやレストランでさまざまなパンを味わい、衝撃を受ける。以降、料理と一緒に食べておいしい「食事パン」をテーマに試作に励み、先代の下を離れて新たにフランスパン専門店をオープンした。しばらく売り上げに苦戦する日々が続き、「どうしたら売れるパンになるのか?」という課題にヒントをもたらしたのが、海外研修先の米国で出合った冷凍パンだ。
「当時日本にも冷凍パンはありましたが、そこまで味は良くなかったようです。そもそも日本では冷凍食品に対して『少し安っぽい』『品質が低い』などのイメージがあるので、それを覆すようなおいしい冷凍パンをつくろうと決意しました」(柚木さん)
その後、冷凍することを前提としたパンづくりにまい進した。使用する素材を厳選し、オリジナルの天然酵母を使って、じっくりと熟成させてから焼く。まだイースト菌が発達していない時代に、フランスの田舎の一家庭でつくられていた製法を再現したものだ。試行錯誤の末、目指したパンの開発に成功したのを機に同社を設立。冷凍パンへと軸足を移していく。
〝冷凍〟のイメージを変えて消費者の認知を上げたい
5年以上の歳月を経て誕生した冷凍パンだが、実はすぐに売れたわけではない。発売後1カ月の売り上げは2万5000円と結果は散々だった。
「実際に食べてもらわないと味や食感は分かりません。そこでまず北関東のホテルやレストランを中心に営業に回り、冷凍に至った経緯や冷凍の意義を説明して食べてもらいました。味に納得していただければ、導入率もアップする傾向にあります」(柚木さん)
また、首都圏のホテルやレストランにはダイレクトメールを送った。およそ7割から「サンプルを食べてみたい」と反応があり、商談して契約に至ったところはその3割に上る。地道に営業を展開した結果、4カ月後には売り上げが300万円に上昇。その後も同じ営業スタイルで販路を全国に広げ、売り上げも順調に伸びて、19年には過去最高益を出した。
同社は17年ごろから消費者を念頭に、スーパーの営業にも力を入れる。18年に「Pan&(パンド)」というブランドを立ち上げてオンライン販売も開始した。スーパーに卸すパンは6種類だが、オンラインでは約60種類を扱っており、スーパーで試しに買って気に入った人が、オンラインでリピートするという流れが生まれつつあるという。
「一般の人からすれば、店頭で焼きたてのパンが買えるのに、わざわざ冷凍パンを買う必然はありません。しかし、冷凍パンがあることで、いつでも焼きたてのパンが自宅で味わえます。炊きたてのごはんが当たり前に食べられているように、焼きたてのパンが当たり前に食べられるライフスタイルをつくりたい」と柚木さんは次なる目標を口にした。
会社データ
社名:株式会社スタイルブレッド
所在地:群馬県桐生市広沢町1-2525-2
電話:0277-47-6200
代表者:田中知 代表取締役
設立:2006年
従業員:約300人(パート・アルバイト含む)
【桐生商工会議所】
※月刊石垣2022年9月号に掲載された記事です。
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