岡山市に本社を置く解体用建機のアタッチメントメーカー、タグチ工業。同社の主力は、解体現場でコンクリートを割ったり、砕いたり、切ったりする「ガジラ」シリーズだ。この業界では後発メーカーだが、圧倒的な圧砕(あっさい)力や切断力、頑丈さを兼ね備えた製品づくりで注目され、信頼を獲得。国内約20%のシェアを獲得している。
需要へのベストアンサーを探りながらオリジナル製品を開発
コンクリートの厚い壁や鉄骨・鉄筋の入った太い柱を小気味よく砕き、切り刻んでいく。その様子は肉食恐竜を彷彿(ほうふつ)とさせる。
「ガジラ」シリーズは、油圧ショベルのアームに装着する解体工事用アタッチメントだ。コンクリートの建物を解体する際、まず外壁や柱を砕き(一次圧砕)、砕いたコンクリートをさらに細かくしていく(二次圧砕)。こうした一連の作業を行う大割機や小割機などの圧砕機、鉄骨・鉄筋を切断するカッター、それらを回収するためのマグネットを装備したものなど、約10種類のモデルを取りそろえている。
「1950年代頃に建築された鉄筋コンクリートの建物が耐用年数を迎え、解体需要が増えてきたことを受けて『ガジラ』を開発しました。その第一号は、主に二次圧砕に用いる小割機です」と、タグチ工業社長の田口博章さんは説明する。
同社は1957年、溶接を扱うまちの鉄工所として創業した。その後、建機ディーラーからつかみ機の製作を依頼されたことをきっかけに、アタッチメントの製造に乗り出す。つかみ機は壁や屋根、基礎などをつかんで挟み、壊していく解体の用途で使われるものだ。独自の工夫を加え、既存品より性能が良くて壊れにくいとの評判で製作依頼が増加していく。93年にガジラ小割機を発売後、レンタル事業もスタートし、シリーズ製品の開発製造に力を入れた。
「製品は『こういうものが欲しい』というお客さまの要望を受けて開発を検討していきます。ニーズに対するアタッチメント製造のプロとしてのベストアンサーを探りながら製品をつくるうちに、大割機やカッターなどラインナップが増えていきました」
日本初の特許技術と驚異の切れ味で注目を集める
シリーズの中で最も汎用性があり、高い人気を誇るのが「ガジラカッター」だ。同製品の最初のモデルは、ハサミを開閉させるシリンダーが1本のタイプだった。当時の解体物は今ほど強くなかったため、これで十分に事足りたのだ。しかし、時代とともに建物は大きく強固になり、アタッチメントもそれに対応しなければならない。
「ガジラカッターが注目を集めるようになったのは、2本シリンダーになり、オートマ機能を搭載してからです。当社が開発した日本初の特許技術で、開閉動作に回転機能をプラスしたものです。これにより切断する角度を自在に変えられるので、対象物をより効果的に挟んで切ることができるんです」
少し専門的になるが、アタッチメントは基本的に油がアームを伝って1往復することで開閉し、角度は固定されている。それを回転させるにはもう1往復の追加配管をしてショベル側を改造する必要があるが、市場で使用されている油圧ショベルは1往復のものが圧倒的に多い。その1往復で開閉と回転を同時に行うオートマ機能を開発したことで、使い勝手は飛躍的に向上した。
もちろん、そのベースにはどんな強固な建物でも、次々と切断する切れ味の良さがある。その秘密はこだわりの製法にある。
「当社では高炉メーカーと共同開発した、強度と適度な粘り気を併せ持つオリジナルの鉄板を材料に使っています。さらに溶接すると強度が下がってしまうため、1枚の鉄板をひたすら削ってカッターの形に成形しています。手間は掛かるし、廃棄部分も増える贅沢(ぜいたく)な使い方ですが、1枚物だからこそ強く、切れ味も良くなるんです」
その後、シリンダーを2本にしてパワーアップさせたり、開口部をより広くしたりして厚みのある柱も容易に挟めるようにするなど、市場ニーズに合わせて常にアップデートを重ねている。それを可能にしているのは、開発製造から販売、カスタマーサポートに至るまで、一連の工程を自社とグループ会社で行う仕組みにある。できることは全て自社でやろうとする姿勢は、創業当時から受け継がれてきた同社のDNAなのだ。その結果ガジラシリーズは、後発メーカーながら国内で約20%のシェアを獲得するに至っている。
建物の進化に合わせて今後もアップデートし続ける
順調に業績を伸ばしてきた同社だが、コロナ禍では解体工事自体が減少して、製品の売れ行きやレンタルの動きは鈍かった。その代わりに、解体工事とは用途の違う「クサカルゴン」という草刈り機の需要が急増したそうだ。コロナ禍でも草は容赦なく伸びる。これまで草刈りを担ってきたシルバー人材や外国人労働者が確保できなくなったため、急に注目を集めた格好だ。同社が市場ニーズをキャッチして、バリエーション豊かなアタッチメントを取りそろえていることが奏功した。最近では解体工事の需要も戻りつつあり、今後はさらに伸びていくことが予想されるという。
「現在の建物は耐震性が重視され、高層化もしているので、建物の構造や使用されているコンクリート、中に入っている鉄骨・鉄筋がどんどん進化しています。それに置いていかれないように、今後もトライ&エラーでアタッチメントをアップデートし続けます」と田口さんは意気込みを語った。
会社データ
社名 : 株式会社タグチ工業
所在地 : 岡山県岡山市北区平野561-1
電話 : 086-292-4377
HP : https://www.taguchi.co.jp/
代表者 : 田口博章 代表取締役社長
設立 : 1962年
従業員 : 230人(グループ合計)
【岡山商工会議所】
※月刊石垣2023年4月号に掲載された記事です。
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