一定期間の定額サービス、サブスクリプション(サブスク)ビジネスが注目を集めている。サブスクは、大手企業だけでなく、モノやサービスを提供する中小企業にとっても魅力的なビジネスになる。今年、大化けしそうな新たなビジネスの現状を探った。
総論 “モノ”ではなく“利用権”を買う新たなビジネスモデル
日本サブスクリプションビジネス振興会(東京都渋谷区)
月額配信サービスで音楽や動画が聴き放題、見放題になる。そんな定額サービスが広まり、今、サブスクリプション(以下、サブスク)ビジネスが注目されている。大手企業だけではなく、中小企業にも勝機がある。日本サブスクリプションビジネス振興会(略称サブスク振興会)に、その傾向と可能性について聞いた。
「サブスクは関係ない」そんな業種、業界はない
「2016年が日本のサブスク元年といわれています。18年に日経ビジネスで取り上げられてから19年に一気に加速したように感じます。当振興会にも不動産、金融、食品など、ありとあらゆる業界から問い合わせがあり、講演依頼や女性誌の取材依頼も増えました」
そう言ってサブスク振興会の事務局長、杉山拓也さんは笑った。サブスク振興会はサブスクの第一線で活動する経営者らが理事となり、18年12月に設立した法人だ。代表理事はサブスク支援企業のテモナの代表取締役社長、佐川隼人さんが務め、同社社員の杉山さんが事務局長に抜擢された。
振興会ではサブスクで事業を展開している企業の情報や成功事例、ノウハウを提供することで、普及と啓蒙(けいもう)に寄与している。杉山さんによると、サブスクは都会の流行のビジネスでもIT企業に限った話でもなく、すでに多種多様な中小企業が参入し、勢いづいているという。
そこで、まずはサブスクとは何か、そもそも論から聞いた。
「サブスクはネットフリックスやAmazonプライムのように、米国が先行しているビジネスモデルです。月額の音楽配信サービスを例に話すと、月額1000円ほどで好きな時に好きなだけ音楽を聴くことができます。CDを買って聴き込むのに対し、聴ける音楽の曲数は膨大です。CDの売り上げの減少は相変わらずですが、サブスクの浸透で音楽業界は14、15年を境にV字回復しています。このように、モノではなく利用できる期間に対してお金を払うのがサブスクの基本的なスタイルです」
従来の事業の呼び水ではなく、サブスクそのものが新たな需要を引き出しているようだ。
ITやパソコンより大切なのは算盤勘定
だが、通信販売の頒布会など、会員制によって毎月届く販売方法は以前からあった。何が違うのか。
「データとIT技術の活用の仕方が違います。頒布会は商品と一緒に会報誌などでお客さまの声や新商品情報を届けてファンづくりに力を入れる手法が取られますが、サブスクは一人一人のユーザーへのフォローが細やかです。その人がいつ、どのくらいの頻度でどのように利用しているかをITを駆使して分析し、個々への最適な提案、フォローを自動的に配信します。それも人為的な作業を超えた精度の高さで可能です」
ITと聞いただけで「うちには関係ない」と思う人もいるかもしれないが、杉山さんはITやパソコンスキルを重要視しない。
「必要なのは算盤(そろばん)勘定です。従来のフロービジネスは、季節や天候、景気変動や世界情勢など外的要因に左右されやすく、経営者の抱えるストレスも大きい。一方、サブスクのようなストックビジネスは、リピーターによる定期的な取引で、外的要因による影響を受けにくい。業績の見通しも立ちやすいので、経営者の精神的ストレスもやわらぎます。ビジネス体系が違うことを理解し、採算が取れる仕組みをつくることが重要です」と語る。
押さえておくのは「顧客数」「顧客単価」「契約期間」の三つで、これらを軸に収益の増加と経営の安定化を図る。それがサブスクの特徴であり、デジタル分野以外にも食品やファッション、飲食など多岐にわたる業界で採用されている要因だ。
綿密なニーズの掘り起こしと的確な悩み解決が成功の鍵
実際、町工場がサブスクで売り上げを伸ばした成功事例がある。
「ある排気モーターの製造工場の話ですが、納品するモーターは24時間フル稼働のため、数年に一度は調子が悪くなることがあったそうです。取引先にとっては予期せぬ出費であり、その工場も早急な対応に追われます。そこで始めたのが排気モーターの月額定額サービスです。安さではなく、毎月の定期点検サービスを付与したのがポイントで、毎月メンテナンス訪問することで、故障の回避だけではなく、些細な相談事から新たな取引が生まれ、故障時のみや売り込み営業にはない信頼関係が築かれました。その後、業績は緩やかに伸びています」と杉山さん。
さらにサブスクが活況のアパレル業界にも話が広がる。250人のスタイリストがコーディネートした洋服が借り放題の「エアークローゼット」や、人気ブランドの新品を月額定額で借り放題の「メチャカリ」などが好調だという。どちらもクリーニング不要で、気に入れば買い取れる月額制ファッションレンタルサービスだが、前者は洋服を仕入れてそれをリユースするエコ展開、後者はメーカーによる自社ブランド中心で、返却された服を古着として販売できるようにしている。似たサービスでも、企業ごとに自社に見合った仕組みを構築しているという。
だが、サブスクでも失敗例は当然ある。毎月カミソリの替え刃が届くサービスは提供過多で、大手紳士服メーカーの20代対象のサブスクでは40代の利用者が集中し、そのズレを修正できずに撤退している。どちらもマーケティング、企画の詰めの甘さが主な敗因だ。
会社も地域も活性化できる可能性を秘めた新ビジネス
サブスクは、事業者にとっては安定的な収益が得られ、利用者は手軽に便利に使えるという一面のみがクローズアップされがちだ。だが、真の魅力は、ニーズの根底にある悩みをくみ取ったサービスを実現できれば、従来のビジネスモデルにはない社会貢献、経済効果が十分期待できることにある。それも多額の資本を必要とせずにだ。
「美容室に通い放題をうたう『MEZON』は4、5人の小さな企業が2年ほど前にゼロから立ち上げたサービスですが、1店舗1店舗足を運んで審査したという点が利用者の信用につながっています。平日ランチの待ち時間を解消するサービス『POTLUCK』も社員は5、6人で、複数のプランやお試しプランを設けて利用者数を伸ばしています。出張料理サービス『シェアダイン』もおいしいものを食べたいけれどつくれないというジレンマを細分化し、個々に悩みを解決、それも保険付きというこまやかな対応で人気を博しています。サブスクの事業で成功している企業は、利用者の生活をいかに豊かにできるかを考え、綿密な調査を怠らないのが共通点です」
地域限定のサブスクを展開すれば一企業を超えた地域が潤う事業展開もあり得ると語る杉山さん。得意なことをサブスク展開すれば、中小企業こそ画期的な事業が立ち上げられそうだ。
サブスクリプションマガジンに掲載されたビジネス事例
日本サブスクリプションビジネス振興会がウェブ上で展開し、杉山さんが編集長を務める「サブスクマガジン」で掲載されている事例。いずれも少人数の企業でありながらサブスクビジネスで成功を収めている
HPはこちら https://subscription-mag.com/
会社データ
団体名:一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会
所在地:東京都渋谷区神宮前6-28-9
電話:03-6892-4339
代表者:佐川隼人 代表理事(テモナ株式会社 代表取締役社長)
HP:https://subscription-japan.com/
※月刊石垣2020年1月号に掲載された記事です。
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