内閣官房と公正取引委員会は11月29日、業界ごとの実態調査を踏まえた「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定・公表した。中小企業の持続的な賃上げ実現に向けた、原資を確保できる取引環境の整備の一環。指針は、原材料費やエネルギー費と比較して、特に転嫁が難しいとされる「労務費」の転嫁に係る価格交渉への発注者・受注者の行動指針を取りまとめたもので、政府、公取委は「労務費」もコストの一つとして転嫁すべきと明確に打ち出している。
指針では、労務費の適切な転嫁に向けて発注者および受注者が採るべき行動・求められる行動を「12の行動指針」として取りまとめ、それぞれに「取り組み事例」「留意すべき点」などを記載。行動指針に沿わない行為により公正な競争を阻害する恐れがある場合には、公取委が独占禁止法および下請代金法に基づき厳正に対処することも明記した。
具体的には、発注者が採るべき行動・求められる行動として、①労務費上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる方針の決定などに経営トップが関与すること、②受注者と定期的な協議の場を設けること、③労務費上昇の根拠資料の提出を受注者に求める場合は公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)とすることを要請。また、④受注者も発注者として取引価格を適正化すべき立場にいることを意識しサプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと、⑤受注者から取引価格の引き上げを求められた場合は協議のテーブルにつき、それを理由に取引を停止するなど不利益な取り扱いをしないこと、⑥必要に応じて労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案することを明示している。
一方、受注者については、価格転嫁の交渉に当たり、①国・地方公共団体の相談窓口や商工会議所など支援機関の相談窓口を活用し積極的に情報収集して交渉に臨むこと、②労務費の上昇傾向を示す根拠資料には公表資料を用いることを提示。さらに、③値上げ要請には定期的な価格交渉の機会などを活用すること、④発注者からの価格提示を待たずに希望する額を提示し、その際は自社の発注先の労務費なども考慮することを求めている。
また、発注者・受注者双方に求められることとしては、①定期的なコミュニケーションや、②交渉記録の作成および双方での保管の重要性を指摘している。
同指針の公表に合わせ、指針の実効性を高めるため日本商工会議所が政府に求めていた受注者側が価格交渉に活用できるテンプレート(ひな形)も併せて公表。公取委では指針・テンプレートの拡充・改善を通じて事業者や事業者団体に価格交渉の改善強化を促すとともに、労務費転嫁の協議に応じない事業者に関する情報を提供できるフォームの設置を予定している。
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