分譲マンションの木製ドア、ドア枠を製造する田代製作所は、ITベンダーの伴走支援により独自の生産管理システムを開発した。それを従業員全員に配布したタブレット端末で活用。生産効率向上とコスト削減を実現でき、「DXセレクション2023」優良事例に選定された。
膨大な量の製作指示書が従業員を振り回す
田代製作所がDXを検討し始めたきっかけは、工場の各工程に配る製作指示書をコピーするために毎日大量に消費されるA3コピー用紙を減らしたい、という社内の声だった。
同社が製造する製品の95%は、分譲マンションの部屋のドアや折戸・収納扉が占める。これらの製品は大量生産ができない。なぜなら、「ドアの仕様は、マンションのコンセプトによって異なるからです」と、同社社長の日景好範さんは説明する。
受注後に事務所で行う最初の作業は、工場の各工程に配るための製作指示書をコピーしてホチキスで止めることだった。1ロットで30~40部、あるいはそれ以上の指示書のコピーが必要だったので、作成だけでも大変な作業だが、さらに顧客から仕様や出荷日の変更を要請されると、指示書の修正版を作成して再配布しなければならない。工場の作業員は修正指示書を受け取るために、作業を中断して工場と事務所を往復するという時間の無駄が生じ、修正指示書が届くまで現場は動けないので作業が止まることもあった。
このまま紙に振り回されていてはDX時代に取り残されかねないと不安を抱いた日景さんは、2021年春頃から「紙の量を減らしたい」という社内の声が出始めたことを好機と捉えてDX推進を決断。目標に「紙の使用量を半減させること」を掲げた。
紙の量を減らすための解決策はデジタル化しかない。取締役の鳥潟(とりかた)剛治さん、業務部部長の関勇人さんはさまざまな可能性を探り、秋田県に本社を置くITベンダーの フィデア情報総研にDX戦略策定の伴走型支援を依頼した。この時、鳥潟さんらが心掛けたことは、フィデアに工場の作業工程をきちんと理解してもらうこと。フィデア側も意図をくんで、ITコーディネータとシステム開発を担当するSEで構成される数人のチームを送り込んできた。SEが直接現場に入ったことで、「私たちが求めていることのニュアンスがうまく伝わり、その後のやりとりがスムーズに進みました」と鳥潟さん。
フィデア情報総研からの提案は、工場や事務所に工程表示の大画面モニターを置き、各工程には指示書を見るために従業員が共同で使う防じんタブレットを数台配置するというものだった。日景さんが気になったのは、タブレットを共同で使うということだ。「今は誰でもスマートフォンを使っているのだからタブレットだって使えるはず。DX化を確実に進めるためには全員に配布すべきだ」と提案の修正を求めた。そのため投資額はソフトだけで数百万円規模、ハードを含めると数千万円規模に膨らんだが、全員への配布に変えたからこそ、将来のシステム拡張の可能性が広がった。「あの時の決断は、経営者にしかできない英断だった」と鳥潟さんは振り返る。
紙の指示書のデータ化はDX推進の核となった
システム開発作業が始まってから鳥潟さんらが心掛けたことは大きく2点。上意下達の一方通行になることを避けるため、節目ごとに現場のリーダーを呼んで、問題点や意見を聞いた。全てをシステム化しようとすると無理が生じる。手作業の方が効率の良い部分はそのまま残し、9割システム化されていればいいと割り切った。
22年4月、「田代製作所製造工程管理システム」がリリースされた。事務所で作成した製作指示書のデータは、作業員のタブレットに直接送信されるようになった。その結果、コピー用紙の削減量は当初の目標50%を大きく上回る70~80%に達した。そのほか、指示書や仕様変更の対応が迅速にできるようになったことも、得られたメリットの一つだ。
システム構築が成功したことを受けて、日景社長はシステムを拡張して次の段階へ進もうとしている。24年1月に制定した「DX戦略書」では、社長直轄・部門横断の「DX推進委員会」の設置。受注工程、出荷工程における商社や運送業者との連携、生産現場とバックヤード業務との連携による生産性向上といった次世代戦略を掲げた。同社は、DXによって未来の扉を大きく開いた。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・DX化の入り口として抽出した課題は、コピー業者も驚くほど大量のコピー用紙使用量を削減すること
DX推進のための工夫
・ITベンダーにDX戦略策定の伴走型支援を依頼して、汎用システムのカスタマイズではなく、田代製作所オリジナルのシステムを構築した
成果
・コピー用紙使用量が70~80%削減
・事務員がコピー機に張り付く時間が減り、ほかの作業に充てる時間が増えた
・指示書が早く直接届くので、工場が段取りや準備に使える時間が増えた
・仕様変更の対応が早くなり、指示書を取り違えるリスクが減った
・指示書がデータで保存されているので、指示書の検索が簡単になった
会社データ
社 名 : 株式会社田代製作所(たしろせいさくしょ)
所在地 : 秋田県大館市岩瀬字大柳上野28-1
電 話 : 0186-47-3333
HP : http://www.tashiro-ss.co.jp
代表者 : 日景好範 代表取締役
従業員 : 127人
【大館商工会議所】
※月刊石垣2024年3月号に掲載された記事です。
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