誠実な対応が道徳の教科書に
名古屋市に本社を置くライフスタイル提案商社の豊島は、天保12(1841)年に尾張国中島郡一宮村(現在の愛知県一宮市)で、初代・豊島半七が「綿家半七」の屋号で綿の仲買に従事したのが始まりである。愛知県北西部にある一宮市は古くから織物の生産が盛んで、今も「繊維のまち」として知られている。 「かつては知多半島から三河湾の一帯は綿花の産地で、初代はそこで買い付けて問屋に販売していました。後に自身が『豊島半七糸店』を構えて繊維問屋として発展させていったのです」と、豊島の社長を務める六代目豊島半七さんは説明する。豊島家では代々、当主が半七を襲名し、戸籍の名前も変更している。 初代半七が明治元(1868)年に家督を長男に譲ると、二代目は英国から糸を輸入して国内で販売を始めた。ところが13年、横浜で買い付けた糸を船に載せて名古屋に向かう途中、船倉から火が出て商品の糸が焼失してしまった。二代目が一宮に戻ってこれを初代に報告すると、初代は二代目にすぐに横浜に戻って糸の代金を全て払うよう命じた。誠実と信頼を重んじる初代の精神が豊島の信用を高めたことで以前より取引量が増え、危機一髪の状況を逃れることとなった。 「この話は一宮市の道徳の教科書にも載りました。初代から続くこの誠実と信頼の精神が、豊島がお客さまに信用されて、支持されている大きな理由なのだと思います」
地元の一宮にも力を尽くす
二代目が44歳で亡くなり、16歳で後を継いだ三代目は、若くして商売の才を発揮して事業を発展させた。明治26(1893)年に豊島銀行を開行して地元企業の資金需要に応えると、35年には33歳で一宮町長となり、まちの整備にも尽力している。そして大正7(1918)年には個人経営の豊島半七糸店を改組して株式会社山一商店を設立し、近代的な経営に乗り出した。
三代目には子どもがいなかったが、母方のおいの鈴木考三を養子に迎えた。考三は昭和8年に代表取締役に就任する。三代目が事業から退いた後に四代目を襲名した。四代目は海外に積極的に進出し、14年に初の海外出張所を中国の上海に開設する。続けて青島、天津にも進出した。さらに17年には、大阪に設立した豊島商店を合併して豊島株式会社に改称し、中国の済南、徐州、北京、佳木斯、タイのバンコクにも出張所を開設して輸出業務を拡大していった。
戦時中の空襲で本店・支店は焼失し、戦後は海外拠点も全て没収されてしまったが、創業以来培ってきた信用を力に復興を成し遂げた。 「四代目はこのように事業を発展させてきましたが、その背景には初代から引き継いできた誠実さと信用がありました。そして、会社の基盤がある一宮にも力を尽くすことを大切にしてきました。一宮商工会議所の会頭も代々務めていて、103年の歴史のほぼ半分を、四代目から六代目までの豊島半七が務めています。私利私欲なしに信用第一で地元にも尽くす精神は、代々受け継がれているのです」
繊維専門商社から脱却
現在は六代目半七として社長を務める豊島さんは、五代目の娘婿に当たる。東海銀行(三菱UFJ銀行の前身の一つ)に勤務していた昭和59年に結婚し、翌年に豊島に入社した。豊島さんが入社後、総務畑にいる間、五代目が会長になり、その弟が社長となって会社経営を進めていた。 「私が社長に就くまでの18年間、二人に仕えて経営方法や考え方を見てきました。時間はかかりましたが、気負いもなく自然体で後を継ぐことができたので、かえってよかったと思っています」
とはいえ、豊島さんが社長に就任した平成14年の前後は、ITバブルが崩壊し、日本の経済が不安定な状況だった。 「そこで危機感を持ったのが功を奏し、3年後には30億円の利益を出す目標を1年目で達成しました。当社の社員は他社より優れた営業力がある。コロナ禍のときもオンラインで営業を続けて、最高益を出しました」
豊島は2022年、繊維専門商社からの脱却を図り、「ライフスタイル提案商社」を打ち出した。 「人口減少は止まらず、消費者の衣料品への優先度も低くなっているからです。環境保護面では、世界でいわれる前からオーガニックへの取り組み、サステナビリティーやトレーサビリティーなども意識してきました。目先の利益にとらわれず、多岐にわたる分野で商材、商圏を築き、サービスでも収益を上げる会社になることを目指します」
これまで繊維で発展して来た豊島は、ライフスタイルの提案という新たなアイデアを紡いでいく。
プロフィール
社名 : 豊島株式会社(とよしま)
所在地 : 愛知県名古屋市中区錦2-15-15
電話 : 052-204-7711
HP :https://www.toyoshima.co.jp
代表者 : 豊島半七 代表取締役社長
創業 : 天保12(1841)年
従業員 : 566人
【一宮商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!