建設業界の中でも中小規模の地域に根差した建設関連企業は、いわゆるゼネコン(大手総合建設会社)から専門業務を請け負うサブコンと呼ばれてきた。その中には専門分野に特化し、独立型としての立場を確立している企業がある。業績が伸びている建設関連企業の“今”に迫った。
生産効率化や高品質化を追求 ダクト製作のトップシェア企業に
空調ダクトの製作と取り付けで、中部地域でトップシェアを持つ矢留工業。業界に先駆けて工場生産をスタートさせ、国内初の溶接ロボットやCAD/CAMシステムを導入するなど組み立て工程の全自動ラインを構築した。徹底した生産効率化と省人化、さらに軽量化や高品質化を実現し、「愛知ブランド企業」にも認定されている。
工期短縮の要求に応えて業界初の工場製作にシフト
空調システムは、熱源装置と空気を処理する「空気調和機」と、調和された冷風や温風を各部屋に送風する「ダクト配管」で構成されている。矢留工業は、後者の製作と取り付けを扱う専門業者で、中部地域のトップシェアを有している。 「空調ダクトは製鉄会社から鉄板を買い、物件に合うサイズに加工して取り付けるので既製品がありません。建設業界の中で当社のような事業は特殊なんです」と社長の東海林昌仁さんは話す。 同社が設立した頃のダクト工事は、現場に鉄板を持ち込み、職人がそこへじかに図面を引いて切断し、組み立てて取り付けるという方法で行われていた。ところが、現場での製作場所の確保が難しくなり、工期短縮も求められるようになったことから、業界では異例の工場製作にシフトした。 「工場でつくるとなれば機械化は必須です。しかし、空調設備は欧米で開発された技術なので、日本にはダクト用に鉄板を加工する機械がありませんでした。そこで先代は、度々欧米のダクトを扱う機械メーカーに足を運び、技術を学んできました」 そうして同社が導入したのが、業界で国内初のロボット溶接システムだ。それにより、1日の生産量は100組から400組に増え、大量受注・工期短縮に対応できるようになる。その後も生産体制の合理化を進め、CAD/CAMを導入して全自動ラインシステムを構築する。ラインをCADとつなげることで、鉄板からダクト形状組み立てまでの全工程の自動化を実現し、熟練工並みの高精度な仕上がりが短時間で安定的にできるようになった。 軽量で高品質な「ラインエコ」省資源化も実現 工場製作体制を確立した同社が、次に取り組んだのが軽量化だ。ダクトが大型になるほど現場への輸送や設置に負荷がかかる。それを低減するために、強度を保ちながら薄板化したのが「ラインエコ」だ。素材に凹凸リブを交互に入れ、板に補強を施すことで「薄いのに強い」を実現、従来品より最大50%軽量化したダクトだ。 「開発を始めた頃は、鉄板の価格が高騰していたため、薄板化は喫緊の課題でした。改良の過程で鉄板に凹凸を設けて抵抗を大きくすると強度が上がることが分かり、凹凸リブを入れるラインエコ成型機を開発しました。その直後にリーマンショックが起きたので、その前に板を薄くして省資源化できたのは良いタイミングでした」 同社は、ほかにも2種類ある溶接法のどちらにも使える治具や設備の開発も行い、熟練工だけでなく経験の浅い作業員でも溶接ができるようにして品質の安定化を図っている。現状に満足せず、常に生産効率化や省人化を追求する姿勢と高品質なものづくりが評価され、2015年に「愛知ブランド企業」、20年には「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定された。
毎年新卒者を採用 熟練技術者が技術継承
同社がたゆみなく技術革新を続けてきたのは、「業界にとって景気がいいという時代があまりなかったから」と東海林さんは苦笑いする。そんな状況の中で会社を存続させるために効率化を追求してきたのだ。とはいえ、業務をオペレーションするのは人である。同社ではリーマンショックの時期を除いて毎年新卒採用を行い、人材育成にも取り組んできた。 同社の業務は、大きく製作と工事に分かれるが、新入社員はまず工場に配属されて製作に携わる。3年ほど現場で経験を積んだ後、工事に移って設計や施工を学ぶ。それにより顧客対応の際にむちゃな注文を出されても、ものづくりの知識があることで顧客に最適な提案ができ、また現場にも的確な発注をかけることができる。 「さらに定年退職した技術者を再雇用して、若手を指導してもらっています。年齢は70歳を超えていますが、当社が工場の自動化を進めていた頃に現役バリバリだった人材なので、技術継承に寄与してくれています」
また、従業員の創意工夫を促し、能力向上を目的としたQC活動にも力を入れている。グループごとにアイデアを出して提案する制度を設け、優れたアイデアには表彰も行っている。そうした取り組みが従業員のポテンシャルを高め、意欲にもつながっている。 ハード面とソフト面がうまくかみ合って好調な業績を維持してきた同社だが、2024年問題の影響は少なからず受けていると言う。 「建設業界はどこも人手不足なので、どの現場も工期が予定通り進んでいません。当社の仕事は箱ができないと始まらないので、こちらの予定も立てにくい状況になっています。今後もこの状態は続くでしょうから、当社としては、さらに従業員教育に力を入れ、生産効率化や省人化を進めて世の中のニーズに対応していくつもりです」と力強く締めくくった。
会社データ
社 名 : 矢留工業株式会社(やとめこうぎょう)
所在地 : 愛知県春日井市上田楽町291
電 話 : 0568-31-8152
代表者 : 東海林昌仁 代表取締役社長
従業員 : 60人
【春日井商工会議所】
※月刊石垣2024年7月号に掲載された記事です。
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