国産レモンをはじめ、柑橘(かんきつ)類の宝庫ともいえる尾道市。同地発祥の八朔(はっさく)を活用し、尾道市農業協同組合(JA尾道市)が1991年に発売した「因島のはっさくゼリー」が、地道な販促活動により着実に売れ行きを伸ばしている。2019年には姉妹品の「因島のはっさくシャーベット」も発売し、その相乗効果で現在までの累計販売数は560万個を突破。ご当地ヒット商品となっている。
寺の住職によって発見された因島発祥の果物・八朔
広島県の特産品というと、ついレモンが思い浮かぶ。実際、同県では2012年頃から観光キャンペーンの一環として、国産レモンの生産量全国1位を前面に押し出し、生果だけでなく多様な加工食品を世に送り出している。
しかし、そこから遡(さかのぼ)ること20年以上前、JA尾道市が因島で栽培されている八朔を有効利用して商品化した「因島のはっさくゼリー」が、今でも根強い人気を誇る。ほんのり薄橙(だいだい)色のゼリーの中に八朔の大きな果肉が浮かび、独特のほろ苦さとプリプリした食感が甘さを抑えたゼリーと融合して、上品でさっぱりした味わいが堪能できる一品だ。 「八朔は、さまざまな柑橘類が自然交配して誕生したもので、寺の住職によって発見された因島発祥の果物です。1886年に『八朔』という名前が付き、その頃から食用として用いられるようになったと伝えられています」と同JA営農経済部営農販売課で商品PRを担当する穏地(おんじ)瑞穂さんは説明する。
八朔は、昭和を迎えた頃から販路が拡大し、戦後には柑橘の経済栽培品種として好まれ、市場にも多く出回るようになった。ところが、その後オレンジなどの輸入自由化の影響で品質向上を求められるようになり、等級の低い果実は廃棄処分されるようになる。 「栽培農家の所得向上のためにも、下位等級の受け皿として加工品をつくろうという話になり、食品メーカーと共同でゼリーの開発に乗り出しました」
当初は不評だったキャラが“キモかわいい”と人気に
フルーツゼリーは一般的に、果実をピューレにしてゼラチンや寒天などで固める。しかし、同JAではピューレを使わず、大きな果肉を入れることにこだわったという。八朔特有のさわやかな苦みや食感を味わってもらい、生果の売れ行き回復につなげたいと考えたのだ。 「当時の開発担当者がいないので詳しくは分かりませんが、果肉とゼリーの味のバランスなど食品メーカーと何度もやりとりを繰り返したので、かなり時間がかかったようです。その結果、思った以上の味わいにたどり着きました」
パッケージのふたには、食品メーカーの女性社員が描いた「はっさくBOY」のイラストがあしらわれ、見た目にもインパクトのある商品が完成し、1991年に販売を開始した。当初、試食会の開催や各種イベントの参加、景品提供など、同JAの役職員が先頭に立って売り込みを展開した。 「当時は、農産物直売所もアンテナショップもなかったので、箱入りにして土産物店や百貨店に置いてもらいましたが、まったく売れなかったようです。それでも因島の生産者さんが地元の土産物として買い支えてくれたり、自ら販売してくれたりして、少しずつですが販売量が増えていきました」
その後もイベントなどへの参加を継続し、一度商品を発送した顧客にはダイレクトメールを送るなど地道な販促活動を展開。発売から10年たった2001年、累計販売数が100万個を突破する。その後、徐々に取扱店舗が広がったことや、因島出身の女優やロックバンドのメンバーが自発的に「お気に入り商品」として紹介してくれたことなどが追い風となり、08年に200万個、11年には300万個を突破し、13年には400万個に迫るなど順調に売れ行きを伸ばしていった。 「実は、イメージキャラクターの『はっさくBOY』が発売当初は不評で、百貨店の売り場でも悪目立ちして、それが売れ行きの足を引っ張っていた部分もあったようです。ところが徐々に“キモかわいい”と人気を集め、缶バッジなどのグッズもできるなど、ブランドイメージとして定着したんですから分からないものです。廃品にせずに粘り強く売り続けてきたことが勝因だったと思います」
姉妹品の誕生とメディアへの登場で地域ブランド商品に
ところがそれ以降、売れ行きが停滞したことを受け、19年に姉妹品となる「因島のはっさくシャーベット」を発売する。ゼリーを凍らせて食べる人が一定数いたことから、商品化が決まったという。こちらはレモン果汁を加えてよりさわやかな味わいに仕上がっている。同年からユニークなテレビCMも放送開始されて知名度が上がり、再び売れ行きが上昇。両商品を合わせた直近の累計販売数は560万個を超え、名実ともに存在感のある地域ブランド商品に成長を果たした。 「ゼリーもシャーベットもさまざまな要因がプラスに働いて、多くの人に喜ばれる商品になりました。生産者の方々にも八朔の加工原料荷受分として一定のお支払いをしており、当初の目的だった栽培農家の収入向上に貢献できていると思っています」
柑橘類に限ったことではないが、常に優良品種を求める時代のニーズに応じて、タイミング良く品種更新していかなければならない。他方、地域の自然条件が生み出した味わいを、特産品として維持していくことも大切である。その相反する二つの要請を見事にクリアしたロングランヒット商品といえるのではないだろうか。
会社データ
社 名 : 尾道市農業協同組合
所在地 : 広島県尾道市新浜1-10-31
電 話 : 0848-23-3322
代表者 : 村上俊二 代表理事組合長
設 立 : 1966年
従業員 : 337人
【尾道商工会議所】
※月刊石垣2024年8月号に掲載された記事です。
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