1950年に菓子の製造で創業した宮田製菓。同社の看板商品「ヤングドーナツ」が今年で発売36年を迎えた。しっとりした食感と程よい甘さがクセになり、子どもから大人まで幅広いファンを持つ駄菓子の定番だ。競合も多い中、長年にわたり愛され続けてきたロングセラー商品には、人知れぬこだわりと企業努力があった。
子どもに買う楽しみを味わってほしい価格に
ひと口サイズのドーナツが4個入って48円。レトロな書体の商品名やパッケージデザインに見覚えのある人もいるのではないだろうか。宮田製菓の看板商品「ヤングドーナツ」は、どこか懐かしい素朴な味わいと子どもでも買いやすい価格で、1989年の発売から根強い人気を誇る。 「もともと子どもに買う楽しみを味わってほしいという思いから誕生した商品です」と同社営業開発部部長の池田和陽さんは発端を話す。 同社は、50年にキャラメル製造の個人商店として創業。その後、競合が増えてきたことを受けて、71年からあんドーナツやハニードーナツの製造にも乗り出す。ただ、それらは家庭向け徳用サイズのため、購入者のほとんどは大人だ。子どもの小遣いでも買えるような商品もつくりたいと、好評だったハニードーナツをそのまま4個入りにして売り出したところ、たちまちヒットした。 「子ども向けなので『ヤングドーナツ』と名付け、当初の価格は30円でした。当時の駄菓子は、ラムネやアメなど日持ちのするものがほとんどで、ドーナツのような半生菓子は敬遠されがちだったんですが、子どもたちの間で人気となったことで、駄菓子屋さんでも扱われるようになりました」
異色のコラボ商品が続々と誕生し人気を博す
同商品のこだわりは、当初の味を守っていることだ。主原料は小麦粉、砂糖、蜂蜜、卵で、2011年には牛乳も加わってしっとりした食感になったが、素朴な味はそのままだ。また、パッケージデザインもキャラクターの「ヤングくん」がプリントされるようになったが、形態と商品ロゴは変わっていない。 「子どもの頃に親しんだ味は、大人になってもたまに食べたくなったり、子どもに買い与えたりして、世代間で受け継がれていきます。それには基本的なところが変わっていないことが重要です。特にパッケージをガラッとリニューアルすると同じ商品だと認識してもらえなくなってしまうので、今後もパッケージデザインを変えるつもりはありませんし、商品ロゴも商標登録しています」
価格に関しては、原材料の高騰を受けて08年に40円、22年に48円に値上げした。しかし、子どもの小遣いで買えるというコンセプトを踏襲するため、製造ラインのロボット化や、資材を含めた原料コストの改善を図るなど、できる限り値上げを回避する努力を続けてきた。 「なぜ48円という価格にしたのかとよく聞かれます。近年の原材料の高騰を考えるともっと値上げしたいところですが、仮にそうすると買う数や頻度が減ってしまうでしょう。何とか50円以内にとどめたいという思いから48円となり、この価格で踏ん張っている結果として“駄菓子”という販路の維持につながっています」
同社は、定番の味を守り続ける一方で、新商品やコラボ商品の開発にも力を入れてきた。例えば、サンリオとコラボした「サンリオキャラクターズヤングドーナツ」が定番商品化されているほか、アメの製造を手掛けるパインとコラボした「パインアメヤングドーナツ」、姉妹品となる「ビッグドーナツ」などを発売。また、プロ野球の読売ジャイアンツや中日ドラゴンズとのコラボでつくった球場限定パッケージや、VTuberの夏色まつりさんとコラボした特別専用箱の商品なども誕生している。 「フォロワー数100万人を超える夏色まつりさんがSNSで『ヤングドーナツが好き』と投稿してくださったのをたまたま目にしたのがきっかけでコラボが実現し、ネットで5000箱を限定販売したところ、ものの8分で完売してしまいました。このケース以外にもツイッター(現X)で検索すると、ヤングドーナツについて投稿してくれる有名人がたくさんいて、商品の知名度アップにつながっています」
近年では、ゲームセンターのクレーンゲーム機の景品にも使われるなど、さまざまな相乗効果により年々出荷数が増加。現在、1日の生産量8万~10万袋、累計出荷数は5億5000万袋を数えるロングヒット商品となった。
社名の認知度アップを目指し メディアでの全国周知にも取り組む
そんな「ヤングドーナツ」だが、製造元である同社は商品ほど世間に認知されていないことが課題だと池田さんは言う。地元でさえ少し前まで、「ここがヤングドーナツをつくっている会社だと知らなかった」という人もいたのだとか。同社はPB商品も多数製造しており、製造元が知られた会社かどうかは売れ行きを左右する要素である。そのため、以前はお断りしていたメディア取材を受けたり、テレビ番組の企画に商品を提供するなど、「ヤングドーナツ=宮田製菓」を周知させる活動にも積極的に取り組んでいる。
そして今後はどのような展望を描いているのか。 「地道に売れ行きを伸ばし、幅広い世代に親しまれる商品となりました。ただ、現在の年間出荷数を見ると、まだ全国津々浦々まで行き渡ったとはいえません。今後も原材料に妥協せず、子どもの小遣いで買える価格で、さらに多くの人に手に取ってもらえる商品にしていきたい」と池田さんは決意を語った。
会社データ
社 名 : 宮田製菓株式会社(みやたせいか)
所在地 : 岐阜県各務原市鵜沼各務原町7-71-6
電 話 : 058-370-6020
HP :https://www.miyataseika.co.jp
代表者 : 新美則康 代表取締役社長
設 立 : 1953年
従業員 : 170人
【各務原商工会議所】
※月刊石垣2024年9月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!