土佐清水市に第三セクターとしてスタートした土佐清水食品。日本一の水揚げ量を誇る宗田鰹を活用した加工品を生み出す中、海の幸と大地の幸を掛け合わせて「宗田だしにんじんドレッシング」を開発した。営業努力により地元で人気商品として話題になると、テレビ番組で取り上げられ、全国から注目が集まった。現在も好調な売り上げが続いている。
土佐清水をPRするため宗田節を使った特産品を開発
「一般的にだしといえば本鰹(がつお)がメジャーですが、宗田鰹はうまみが強くてコクのあるだしが出ます。そのため古くから『香り本鰹、味宗田節』といわれ、うどんやそば、和食のだしに使われるなど、プロの料理人に重宝されてきました。そのだしを利かせてつくったのが『宗田だしにんじんドレッシング』です」
製造元である土佐清水食品取締役の西山健児さんは同商品について、地元産の宗田節から取っただしのうまみとニンジンの甘みが絶妙にマッチして、甘酸っぱくもまろやかな味わいに仕上げたドレッシングだと、その特徴を説明する。
同社は、土佐清水市の第三セクターとして1993年に設立した土佐食と、同じく2008年に設立した土佐清水元気プロジェクト(以下、元気プロ)が合併して誕生した、食品の加工販売を手掛ける会社だ。高知県最南端に位置する同市では、古くから宗田鰹漁が盛んに行われ、宗田節の生産量も全国シェアの約7割を占める。しかし、時代の流れとともに便利で手間の掛からない食品が好まれる傾向が進むにつれて、宗田節の需要も減少の一途をたどる。そのため新たな地域産品が求められていた。 「土佐清水にはほかに大きな産業がありません。特産品をつくって広く売り出し、さらにPRするために当社はスタートし、宗田節を活用した加工品の開発に乗り出しました」
こうした経緯で同社は宗田節を活用したさまざまな商品を企画・開発し、市場の反応を見ながらバリエーションを増やしている。
和食にこだわらずにだしを生かす方法を模索
実は、同商品を開発したのは、同社が設立する以前の元気プロだ。当初、元気プロは、土佐清水市のブランド魚である清水鯖(さば)を使った加工品の開発に取り組んでいた。誕生したのは、漬け丼の素「土佐の清水さば漁師漬け」という商品だった。メディアにも取り上げられてヒットを飛ばすが、清水鯖の不漁続きで年間を通じた安定的な原料調達が難しくなり、生産にブレーキが掛かる。そこで宗田節を活用した商品づくりにも取り組み、和食にこだわらずだしを生かす方法はないかと模索する中、着目したのが農産物だった。 「高知県は温暖、多雨多照で、農産物も豊富です。宗田鰹と農産物を掛け合わせたら面白いのではと、試行錯誤した末に完成したのが、同商品です」
とはいえ、ドレッシング市場は多種多様な商品が出回り、当時すでに飽和状態だったといえる。商品はどれも味が良く、価格も手頃なため、新たに参入するのは容易ではない。それは承知していたが、だしがベースになっているものは全国的にも珍しく、そこに勝機があると考えた。
開発に当たりこだわったのは、添加物を使わずに素材を生かして、できるだけシンプルに仕上げることだ。製造はほとんどが手作業で、ニンジンの皮むき、下ゆで、ミキサー処理から瓶詰めに至るまでを全て自社で行っている。さらに、容器には透明ガラスを採用し、商品名には白文字を使った。黒文字の方が見やすいが、商品のきれいなオレンジ色を引き立てるため、あえてそうしたのだという。 「販売開始当初はまったく売れなかったのですが、とりあえず1年は頑張ることにしたのです。県が地域産品を広くPRする外商に力を入れているので、その枠で食品展示会に出展したり、食品問屋に売り込んだりしました。次第に県内で広く展開しているスーパーが商品に注目してくれて、店舗で取り扱うだけでなく、『野菜を食べよう』という子どもの食育活動の一環でにんじんドレッシングを使ってくれました。そのおかげで徐々に認知度が上がり、県外でも扱ってもらえるようになっていきました」
テレビ番組に取り上げられて売れ行きが急伸
同商品に続いて、地元産の柑橘(かんきつ)・小夏(日向夏)を使ってさっぱりした味わいの「宗田だし小夏ノンオイルドレッシング」を開発。刺し身や揚げ物にも相性がいいと評判を呼ぶ。さらに、宗田だしとしょうゆでまろやかに仕上げた「宗田だし和風ノンオイルドレッシング」も加わって存在感が増し、販路も拡大した。そして極め付きは今年の4月、全国ネットの人気トークバラエティー番組で取り上げられて一気に注目が集まり注文が急増。翌5月の売り上げが単月で前年比350%に跳ね上がり、その売れ行きは今も好調だ。 「今回いきなりのことだったので、その反響に驚いていますが、今は秋冬の販売棚獲得のために『有名なテレビ番組で紹介された』というフックを使って営業に力を入れているところです」と西山さんは現況を語る。
売り場の激戦区で棚を確保し、消費者の味覚をつかんだ同社。今後も販路開拓を進めつつ、3商品の勢いがあるうちに次なる新商品を立ち上げたいと意気込む。 「自然豊かな土地だからこそ、おいしい食材に恵まれているのが強み。今後も地域資源を最大限活用して、未来につなげる商品を全国に届けていきたい」と抱負を語った。
会社データ
社 名 : 土佐清水食品株式会社(とさしみずしょくひん)
所在地 : 高知県土佐清水市三崎543
電 話 : 0880-85-1515
HP :https://www.tosashimizu.co.jp
代表者 : 山下英 代表取締役社長
設 立 : 2016年
従業員 : 185人
【土佐清水商工会議所】
※月刊石垣2024年10月号に掲載された記事です。
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