「ガラスのまち」として有名な富山市で、技術と芸術、産業と文化を結ぶガラス作家の活動拠点となっている富山ガラス工房。同施設に作品を寄せている県内在住の作家がつくった寿司ネタのガラス細工入りボールペンがSNSで注目を集めた。お土産や贈り物として人気となり、ショップに登場すると“秒で完売”する状態が続いている。
ガラス工芸を新たな地場産業として育成
富山市は、江戸時代初期から「越中富山の薬売り」で知られる製薬・売薬を産業として成長した薬のまちだ。また、薬瓶に使われるガラスの製造も盛んに行われていた歴史を踏まえ、同市は40年ほど前から「ガラスの街とやま」のテーマを掲げ、ガラス工芸を取り入れたまちづくりに力を入れている。 「今ではガラスの薬瓶をつくる会社は一つも残っていませんが、富山にガラスづくりが根付いていたことから、ガラス工芸を新たな地場産業として育てていこうということになりました。1985年に富山市民大学ガラス工芸コースを開講し、さらに富山ガラス造形研究所を開校してガラス作家の育成が始まり、それを産業として定着させるために開業したのがこの工房です」と、富山ガラス工房で営業企画を担当する堀田裕子さんはいきさつを説明する。
94年に設立した同施設は、ガラス作家の独立支援と定着を目的に運営されている。現在育成中の作家の卵たちは、同施設にある各種設備を使って自分の作品づくりを行い、技術を高めていく。独立後も作家として食べていけるようにサポートも行っている。施設内にあるショップでは、県内外の150人を超えるガラス作家によるオリジナル作品の展示・販売が行われ、貴重な作品と出合える場にもなっている。
そんな同施設から誕生し、買いたくても買えないほど人気を博しているのが、「スノードームボールペンお寿司」だ。
富山らしい作品のモチーフとして“お寿司”に着目
同作品は、軸の中にエビやタコ、軍艦巻きや玉子などのガラス製ミニチュアお寿司が入っているボールペンだ。シリコンオイルが中に入っているので、お寿司が上に下にとゆらゆら動き、見ているとほのぼのした気分になる。制作者の久保田ゆかりさんはトンボ玉・ガラスアクセサリー作家で、小さなガラス玉にさまざまな世界を表現することを得意とする。その一つがスノードームボールペンシリーズだ。 「今年の1月、富山きときと空港内に当施設の展示販売ブースができたのを機に、何か富山らしいガラス作品を並べたいと思っていました。市が新たに『すしのまち とやま』をPRしていこうと取り組んでいたタイミングだったこともあり、久保田さんに『お寿司のモチーフで何かつくれませんか』とお願いしたところ、ものの2カ月くらいでとてもかわいらしい作品を仕上げてくれました」と同施設・営業企画部の坂井利英さんは振り返る。
中をよく見ると、寿司ネタのほかに緑や茶色の丸い粒が入っている。これはワサビとしょうゆだそうで、実際には直径1㎜程度しかない。寿司ネタはそれより大きいが、それでも5㎜程度の大きさだ。それをバーナーワーク(バーナーの炎でガラスを熔融して成形する技法)によって細かい細工を一つひとつ丁寧に仕上げていく。全てが手作業のため、最初に3本を制作し、3月下旬から空港のブースで販売を開始した。 「空港に納品した際にX(旧ツイッター)に販売のお知らせを投稿したところ、予想以上に大きな反響があり、あっという間に売れてしまいました。そのうちの1本を買ったのは富山観光協会の方で、あまりのかわいさに投稿したXがバズって、問い合わせがたくさん来るようになりました」と堀田さん。
同作品はその後、空港のほか、同施設内のショップとオンラインショップ、作家自身のオンラインショップで扱うことになり、それを目当てに工房を訪れる人も増えた。しかし、同作品は制作に時間が掛かり、月20~30本が限度な上に、入荷も不定期だ。そのため次の販売日時をXやインスタグラムで知らせると、「待ってました!」とばかりに、オンラインショップではものの数秒で完売してしまうほど人気が続いている。
こうした状況に制作した作家自身も驚いているというが、同作品の人気を機に、もともとつくっていたほかのスノードームボールペンも注目を集め、売れ行きにつながっているという。
多くのガラス作家を育成し富山に根を下ろしてほしい
今回は、久保田さんに作品制作を依頼したが、作家はほかにもたくさんいる。いろいろな技法を用いた大小さまざまなもの、カラフルな飾りもの、実用品など多種多様な作品がひしめく。それらの作品をいかに良く見せ、多くの人の目に触れる機会をつくるかサポートするのが同施設の役割だという。 「市が作家の育成をする施設は全国的に見ても珍しく、ガラスに特化するとさらにレアで、世界のガラス作家にも知られています。その強みを生かして多くの作家さんを発掘したいし、できれば富山に根を下ろしてここを拠点に広く活動してもらいたい」と堀田さん。「ここは作品を“売らんかな”で活動しているわけではありませんが、作家が独立してやっていくには作品が売れなければなりません。お寿司のスノードームボールペンの例をヒントに、これからも作家さんたちをサポートしていきたいです」と坂井さんも続ける。
今後もガラスとすしのまち富山から目が離せなくなりそうだ。
会社データ
社 名 : 富山ガラス工房
所在地 : 富山県富山市古沢152
電 話 : 076-436-2600
HP :https://toyama-garasukobo.jp
設 立 : 1994年
従業員 : 33人
【富山商工会議所】
※月刊石垣2024年11月号に掲載された記事です。
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