食品製造、IT、医療など幅広い業界と取引のある、板金加工・部品製造を手掛ける広島メタルワーク。DX実現の要は生産管理ソフトにあると考え、中小製造業8社と連携し「TED(Total Engineering Design)」を開発した。自社への導入で生産性向上を実現し、経済産業省実施の「DXセレクション2024」の優良事例に選定された。
生き残りを懸け8社で連携生産管理システム開発へ
広島メタルワーク社長の前田啓太郎さんは、DXという言葉が認知される以前から、中小製造業が生き残るためにはデジタルツールによる業務効率化が必要だと考えていた。「その要は生産管理ソフトにある」と、思いを同じくする中小企業8社の経営者が集まり、2000年頃から生産管理についての勉強会を重ねてきた。そして、03年に中小製造業に特化した生産管理システムを提供する新会社「PROFECT(プロフェクト)」をともに立ち上げる。 「各社、地域性の違いがあり、共同受注・購入の取り組みはうまくいきませんでしたが、生産管理に対するデジタル化への意識や方向性は同じでした」と前田さん。
04年に8社で連携開発した生産管理システムe‒isg(TEDver 1)をリリース後、中小企業の業務改善に取り組む静岡大学の田中宏和教授(当時)に委託して、e‒isgをベースとするTEDver1・2を開発する。その後も各社で試行錯誤を続けて、少量多品種×短納期が求められる中小製造業向けに徹底チューニングしたTEDver2を19年にリリースした。
TEDの主な特徴は、①ホーム画面に全機能を集約し現場で直感的に簡単操作が可能 ②取引先からの信頼獲得や生産性向上のための徹底的な不良対策 ③材料費、従業員の作業時間が把握できコストを見える化 ④特急品にも対応可能な優先順位表示機能 ⑤追加料金なしで100台まで利用可能なサイトライセンス(フリークライアント)。さらに、買い切り追加オプションなしで全機能が使用できる。サーバー管理はプロフェクト社が行い、災害時などのBCP対策に有効という点も中小製造業の負担を軽減する。
月間約2万アイテムを製造する同社は、17年から全面的にTEDを導入し、約50人の従業員ほぼ全員に端末を支給している。 「当初はタブレット端末の支給だけを計画しましたが、図面の参照が必要な工程では小さいタブレット画面だと業務効率が悪かったので、工程によってはPCと大型モニターを配置しました」と前田さん。「例を挙げると、溶接工程では図面が小さく見づらいため、各工程の担当者に図面上の疑問点を聞きに行く手間が発生していました。それを大型モニターに映すことで視認性が上がり、無駄な移動時間が省けました」と説明する。
生産スケジュールもTEDで優先順に作業工程を管理できる機能により、生産性向上と納期遅れゼロを実現。各担当者が順番を気にせず、ものづくりに集中できる環境を整えた。各アイテム製造の進捗(しんちょく)確認機能は、スキル管理と合わせてほかの作業員へ工程を振り分けることにつながり、生産性が大幅に向上した。
ゴールを定め一歩ずつ進める整理整頓の徹底は必須
では、中小製造業がTEDを導入すれば、DXが自動的に進むのだろうか。 「そうとは限りません」と前田さん。「ゴールを定めて、アナログ作業をデジタルに置き換える仕組みを考え、導入したシステムに合わせて順番にデジタルに置き換えていく。そうすると新たな発見が生まれ、ノウハウが蓄積される。そして、さらにデジタル化を進める。手間が掛かるようですが、それがDX成功への一番の近道だと思います」と話す。
もう一つ重要な点は、整理整頓の徹底だ。「トヨタ自動車が2S(整理整頓)を重視しているように、生産管理を突き詰めれば整理と整頓しかなく、それができていない環境の中で導入しても効果は薄いですね」。
前田さんは、TEDをベースにしたDXによるデータドリブン経営(データに基づいた経営)を推進した。それにより、生産性、品質の向上、コストダウン、納期短縮などが実現。新たな製品やビジネスモデルを生み出し、企業競争力強化を目指している。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・マイクロソフトAccessでのソフト自作に始まり、大手ベンダーが提供するパッケージ型生産管理システム、カスタマイズ対応の生産管理システムを導入してきたが、使い勝手の面でも費用対効果の面でも不満が残った
DX推進のための工夫
・中小製造業8社と静岡大学教授との連携開発により、オリジナルの生産管理ソフト「TED」を開発。各社の現場で使って課題をフィードバックし、機能や使い勝手を磨き上げた
・同業他社もTEDを導入できるよう、導入コストや運用コストを抑える工夫をした
成果
・最新決算で売上高23%増、営業利益19%増を達成。不良率もTED導入前と後では90%以上削減した
会社データ
社 名 : 株式会社広島メタルワーク
所在地 : 広島県広島市佐伯区湯来町大字伏谷1322-1
電 話 : 0829-86-1555
代表者 : 前田啓太郎 代表取締役
従業員 : 約50人
【広島商工会議所】
※月刊石垣2024年10月号に掲載された記事です。
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